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深夜ドラマ『きのう何食べた?』が心地よいのは、なぜ!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

「同性愛者」が登場するドラマの同時多発

土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が放送されたのは、昨年の4月から6月にかけてでした。途中から大いに話題となり、放送後は数々の賞に輝きます。

審査員を務めさせていただいている、コンフィデンスアワード・ドラマ賞でも、「作品賞」と吉田鋼太郎さんが「助演男優賞」を獲得しました。何と言っても、「男性同士の恋愛」という難しいテーマを、ユーモアあふれる純愛ドラマに仕立てた点が秀逸でした。

この『おっさんずラブ』の成功を見た以上、他局が動かぬはずはありません。できれば、すぐにでも「男性同士の恋愛」を描くドラマを作りたかったはずですが、連ドラは急にできません。素材探し、脚本作り、キャスティング、撮影といった段取りを踏むには、それなりの時間が必要だからです。

そして今期、『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)、『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)、そして『きのう何食べた?』(テレビ東京系)など、同性愛者が登場するドラマが“同時多発”しました。しかも、それぞれに出来が良く、いずれも見応えのある作品になっていることに感心します。

組み合わせの妙が冴える、『きのう何食べた?』

今回、取り上げるのは、西島秀俊さん&内野聖陽さんという刑事ドラマも出来ちゃう組み合わせによる、ドラマ24『きのう何食べた?』です。原作は、よしながふみさんの同名漫画。昨年放送され、評価の高かった『透明なゆりかご』(NHK)の安達奈緒子さんが脚本を書いています。

弁護士の筧史朗(西島)と美容師の矢吹賢二(内野)は、2LDKのマンションで同居生活を送っています。史朗が倹約家なので、月の食費は2万5000円と、かなりリーズナブル。料理は、もっぱら史朗の担当です。

史朗は事務所を定時に出ると、たいていスーパーに立ち寄ります。その日の夕食や翌日の朝食のために、品質と値段を吟味して材料を購入するのです。時には、ご近所の主婦・富永佳代子(田中美佐子)とシェアしたりして。

しかも、史朗の料理は手際が見事。ドラマの中で作る「サケとごぼうの炊き込みご飯」も、「チキントマト煮込み」も実に美しく、おいしそう。これって、堂々の「食ドラマ」でもあるのです。

食卓で向き合う2人ですが、賢二はゲイであることをオープンにしたがるし、史朗は隠すつもりはないが積極的に公開したいとは思っていない。

また恬淡とした史朗に対して、賢二は彼の元カノに嫉妬したり、時には尾行までやってしまう。そのことで小さな衝突はあるのですが、そこは大人。史朗の料理も大いに寄与しながら、うまく折り合いをつけていきます。

この「折り合いをつける」の中身は、当たり前ですが、お互いを思いやることが第一。相手の、ふとした言葉のニュアンスや、かすかな表情の変化にも敏感です。

さらに、自分を傷つけまいとして気をつかっていることを察知しても、それに気づいたことを相手に悟られないようにしたりと、2人とも本当に優しい。西島秀俊さんと内野聖陽さん。この組み合わせが絶妙です。

また、ちょくちょく登場する、史朗の母(梶芽衣子)がいいですね。一人息子がゲイであることを受け入れながらも、時々母親らしい世話をやいて、史朗を困らせたりもする。

かと思うと、人のいい夫(志賀廣太郎)が入院した際には、「お父さん、死んじゃったらどうしよう」と泣き出したり、史朗に訊かれて「(自分が)お父さん、大好きに決まってるじゃない」と答えたりして、なんともカワイイ女性です。この両親を、一種の「世間」として置いたところも上手い。

その「常温」が心地いい!?

現在までに6話が放送されました。最近の史朗は、同じゲイの小日向(山本耕史)が自分を口説いていると勘違いしたり、司法修習生の若い女性が自分に好意を持っていると勝手に解釈したりして、「その気のない相手からフラれた!」と迷走気味です(笑)。

互いの心の領域に、どこまで入っていいのかを、繊細な神経で気づかいながら、「シロさん」「ケンジ」と呼び合い、同じ食卓で、同じものを食べ、話したり、笑い合ったりする、40代半ばの男たち。静かな大人の日常というか、その「常温」な感じが、とても心地いい。

そして、ダイバーシティ(多様性)うんぬんなどと言わずとも、見ている側が、微苦笑と共に「こういう生き方もありだよね」と自然に思えてくるところこそが、このドラマの真価です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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