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藤井聡太竜王(20)今年度中白眉の名局を制し、朝日杯ベスト4進出 増田康宏六段(25)に大逆転勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月15日。愛知県名古屋市・名古屋国際会議場において、第16回朝日杯将棋オープン戦本戦2回戦▲藤井聡太竜王(20歳)-△増田康宏六段(25歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 14時に始まった対局は16時28分に終局。結果は169手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 藤井竜王はこれでベスト4に進出。2月23日におこなわれる準決勝で豊島将之九段(32歳)と対戦します。

 藤井竜王は本局の勝利で先手番20連勝を達成。今年度成績は39勝7敗(勝率0.848)となりました。

勝利目前だった増田六段

 藤井竜王先手で戦型は角換わり腰掛銀。両者ともに研究、経験十分な形で、早い進行となりました。

 藤井竜王が桂を跳ねて動いたのに対して、増田六段も反撃。激しい戦いとなります。

藤井「角換わりから、お互いの玉が寄るかどうかというかなり激しい展開になって。そうですね、ちょっと判断のつかない局面が多かったんですけど」

増田「序盤は予定していた作戦で。それがうまくいって」

 形勢はほぼ互角。ならば後手の増田六段はうまくやったということになるのでしょう。

 69手目。藤井竜王は王手に対して端9筋の三段目に玉をかわします。きわどいながら、これで耐えられるかどうか。

 いまから6年前。デビューした直後の藤井四段は「炎の七番勝負」第1局で増田四段と対戦。藤井四段はやはり端に玉を上がって、増田四段の猛攻をしのいだことがありました。

 86手目。増田六段は角を成り返りながら金を取り、藤井玉に迫ります。藤井竜王はすでに40分の持ち時間を使い切って、一手60秒未満で指す「一分将棋」に。対して増田六段も残りわずかに2分でした。

 87手目。藤井竜王は王手で飛車を打ちます。対して増田六段が玉をかわしてみると、なかなかつかまらないかっこう。増田六段が一足先に藤井玉を受けなしに追い込み、あとは増田玉が詰むや詰まざるや、という状況になったかと思われました。

 藤井竜王は時間ギリギリまで考えて着手を続けます。しかし、増田玉に詰みはありません。

藤井「王手で迫っていったんですけど。ちょっとうまく対応されてしまって。そのあたりからは苦しくしてしまっていたのかなと思いました。ちょっとその前にもう少し違う手があったかどうかという感じでした」

 増田六段は自玉が詰まないよう、正確に応じ続けます。

藤井「終盤、藤井さんの猛攻を防いだあたりは形勢よくなったかなと思ったんですが」

 しかし藤井竜王は手段を尽くし、相手玉に王手をかけ続けながら、自玉の包囲網をいったんは振りほどくことに成功します。秒読みの中、最後は指運の勝負となりました。

 増田玉はついに藤井陣にまで逃げ込み、藤井玉と接近。盤面左下で見応えのありすぎる攻防が続いていきました。

 131手目。藤井竜王は銀を打って増田玉にプレッシャーをかけます。対して増田六段はその銀を馬で取るか、銀で取るかの二択でした。本譜、増田六段の選択は馬。しかし代わりに銀ならば、増田六段よしではっきりしていたようです。

藤井「同銀成なら負けだったと思います」

新時代を創る者の銀打ち

 藤井竜王は相手玉を攻めながら追い込んでいきます。そして次第に自玉が安全になっていく進行で、ついについに、大逆転に至りました。

 増田玉をつかまえそこねれば、またまた逆転という可能性もあるところ。163手目。藤井竜王からは飛車を切って銀を取ったあと、銀を打つ手が見えます。永瀬王座は自陣一段目ではなく、二段目に銀を打つのではないかと推測していました。

永瀬「やらないと思うんですね。(一段目の)銀って(笑)。もうちょっと上位の手を指しそう。たとえば(二段目に)銀ですね。なんか上位の手が来るんですよ、常に。自分のイメージだとこうやる(一段目の銀)と、歴史上見たことある手なんですけど。なんかそれよりちょっといい手(二段目の銀)を指してくるイメージがあって。イメージです、イメージ(笑)。なんか新しい歴史を創る印象があるんですけど。やっぱり先輩や大先生方の棋譜を並べると、たぶんこういう感じ(一段目の銀)なんですけど。自分もよく指す手なんですけど。もうちょっと上の・・・。銀は指すかもしれませんけど、なんかひとひねり入れてくるイメージが」

 はたして。藤井竜王は駒台の銀を手にして、自陣に打ちます。

永瀬「どっちだ? ああ、やっぱり! 当たりました」

 藤井竜王は永瀬王座が指摘したとおり、非凡な二段目の銀を打ちました。会場からは大きな拍手が起こります。

永瀬「さすが藤井さん」(笑)

杉本「これは藤井さんに対する拍手じゃなくて、永瀬王座にですよ」(笑)

 藤井竜王は飛車に続いて、龍を切ります。詰将棋のような鮮やかな収束。二段目の銀がきれいにはたらいて、増田玉はきれいに詰んでいます。

 169手目。藤井竜王は金を引いて王手。

増田「負けました」

藤井「ありがとうございました」

 増田六段が投了し、両対局者ともに一礼。今年度中の白眉とも言える名局に、終止符が打たれました。

藤井「今日2局、どちらも苦しい将棋だったんですけど。なんとか準決勝に進むことができたので・・・。うーん。ただやっぱり、今回いろいろ、今日2局指して、反省点も多く見つかったかなと思うので、また来月までにそれを修正して。また準決勝、がんばりたいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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