<ガンバ大阪・定期便105>中村仁郎が1年ぶりの実戦復帰。15分間に漂わせた、ワクワク感。
7月25日、レアル・ソシエダ戦を終えて、ミックスゾーンに現れた中村仁郎の第一声には、この瞬間を待ち望んでいたからこその想いがたっぷり詰まっていた。
「いやぁ、短いなー」
全体合流から10日目。78分からの途中出場で、ピッチに立った時間はアディショナルタイムを含めても約15分。フルコートでの試合はもちろん、11対11での試合はこの日が初めてということもあり、ある程度、時間が限定されることは覚悟していたが、それにしても「もうちょっとやりたかった」と中村。短く感じるほど、動ける感覚もあり、短く感じるほどに、楽しかった。
「約9ヶ月ぶりに全体練習に合流したのが16日で、その間も6対6とか8対8の練習はしていたんですけど、11対11でのプレーは今日が初めてだったので。やっぱり別物というか、サッカーって本当に面白いなって思いました」
■シュートを打ち、決定機にも絡んだソシエダ戦。「決まったと思った」。
その思いを表現するかの如く、ピッチを駆けた。
「長いリハビリ期間を支えてくれたメディカルスタッフの方たちをはじめ、応援してくれたファン・サポーターの皆さん、家族、友達、大切な人たちに自分がプレーをしている姿を喜んでもらいたい。そのために今の自分の精一杯を出そうと思っています」
88分にはイッサム・ジェバリからのスルーパスに合わせて右サイドからペナルティエリア内に侵入し、ダイレクトで左足を振り抜いたシーンも。また、90+3分には、ペナルティエリア内、ゴールライン付近まで侵入して折り返し、決定機に関与した。残念ながら、いずれもゴールには繋がらなかったが、1年ぶりの試合だということを踏まえても「15分間だけでしたけど、合格点をあげていいかなと思います」と振り返った。
「シュートは狙い通りのタイミング、インパクトで打てたし、自分では決まったと思ったんですけど(コースを)相手に読まれていて…相手の方が上手だったなと思います。最後のシーンは、自分が打つより(パスを)出す方がいいかなと思ったので、アイデアとしてはベストの選択をできたと思っています。出したパスがまた自分に戻ってくるというか、もう一度ボールを受けて…とイメージしていました」
左膝のリハビリ期間中、スタンドからチームの戦いを見ながらリマインドしたのは本来の持ち味である「右サイドからのゴール前への仕掛け」と「チーム戦術での自分」だったという。特に後者は、前者をより理想的に表現するために不可欠だと考えた。
「完全合流して最初の2〜3日は、いわゆる足にボールがつかなかったし、ポゼッションのところで1回、守備に行くだけでめちゃバテるとか、切り返した瞬間とか方向転換した時に、ギアが上がらない感じはありました。ただ、技術的な感覚はすぐに取り戻せたし、他のプレーもやればやるほど上がっていく感覚もある。あとは、チーム戦術の中でしっかり仕事ができるかだと思っています。この離脱していた約9ヶ月間は…特に今年に入ってからは、少し試合の見方を変えたというか。以前のように自分のポジションの選手の動きを見るというより、意図的にチーム全体の流れや他のポジションの選手の動き方を見るようにしていたんです。その『流れ』がわかっていないと結局、自分のポジショニングやプレーが効果的なものにならないし、相手の脅威にもなれないな、と。逆に、ポジショニングのところで優位性を作りながら、周りの選手を活かし活かされるようになればもっと怖い選手になれるはずですしね。今年の4-2-3-1システムはより、自分のポジションもイメージしやすい中で、今後、チーム内での競争に加わっていくためにもそこは自分に求めていきたいです」
展開に応じて、誰がどういうポジショニングをしているのか。局面を打開するために、誰のどんな動きが効果的に働いているのか。チームの矢印を前に向けるために自分が担う仕事は何なのか。特に今シーズンのガンバは攻守に連動しながら戦えている試合も多い中で、中村自身もそこに入る自分をイメージして連動や繋がりを考えることが増えたという。彼にとっては受傷前、最後の試合となった昨年のセルティック戦も教訓の1つになっていた。
「セルティック戦は後半からの出場でしたけど、自分としてはそれなりにいいプレーも出せたし、表現できたんじゃないかなと思っていたんです。でも結果的にはそれがダニ(ポヤトス監督)の評価には繋がらなかったし、だから、その後の公式戦でもチャンスをもらえなかった。そのことに代表されるように、自分がこれまでいいと思ってきたプレーが評価されなくなってきているという現実を踏まえても、自分が持ち味を発揮するだけではダメなんだ、と。プロ3年目に入ってようやくそのことを受け入れられるようになったというか。長期離脱をしている間に頭の中で折り合いをつけられるようになり『自分の持ち味も大事だけど、それ以外の部分でチームでの役割として求められる部分が基準値に達しないと試合には使ってもらえない』と考えるようになりました」
■ポヤトス監督に尋ねたこと。久保建英のプレーに感じたこと。
その思いもあってだろう。ソシエダ戦の前日練習後には、自らポヤトス監督のもとに歩み寄り、改めて自分がすべきプレーや監督が自身に求める仕事について尋ねる姿も。この先のキャリアを意識した行動だった。
「親善試合とはいえ、ダニが基準にしているプレーができるかどうかは、ジャッジの1つになると思ったので、試合前にちゃんと確認しておこうと思い質問しました。ケガ明けで完全合流したばかりなので、単純にダニが自分に求めているプレーを知りたかったのもあります。サッカーでは、自分がどう思うかより、客観的に見て戦術を理解しているか、で判断されることも多いし、プレーの選択も、監督によって良し悪しが決まるところもある。だからこそ、ダニに限らず、いろんなスタッフの話を聞いて、自分が求められている役割を理解するのはプラスしかないし、ソシエダ戦のためだけではなく、これからの人生のためになると思っています。その中では、これまではシュートを打つチャンスがあるなら自分で狙いに行く、というのが自分の考える一番怖いプレーでしたし、それが武器だと自負していたので、多少リスクがあってもゴールに向かうプレーを選択してきたんですけど、ダニから『チームでゴールに向かうプレーをもっと意識してほしい』と言われて明確になった部分もあるので。今後はそれも頭に置いてプレーしようと思っています」
加えて言うなら、ソシエダ戦を通して、幼少の頃から憧れ、今も「僕の上位互換」だとリスペクトを寄せる久保建英のプレーを直に体感できることも、今後のプレーの参考にしたいと考えていた。
「ソシエダはスペインサッカーの中でも、戦術的に機能しているすごくいいチーム。その中で自分と似たようなタイプで、上位互換の久保選手がどう振る舞っているのかとか、どんな機能を生んでいるのかが一番興味があります。久保選手自身のプレーとか個人技は映像でもう何回も観ているからこそ、彼がチーム戦術の中でどう活きているのかを知りたいです。その基準を知ることは今後のサッカー人生においても1つの指針になる気がするし、それによって今後、自分が何をすべきかがより明確になればいいなと思っています」
そして、その部分については、試合後、得たものは多かったと振り返った。
「同じピッチには立つことはできなかったですけど、前半、ベンチから試合を見ていて、思っていた以上に巧いなって感じました。(マッチアップした)圭介くん(黒川)も対人は強いのに、久保選手に何回か抜かれていたシーンもありましたしね。それを踏まえても、総体的に見て、僕はまだまだ負けているなって感じました。また、久保選手を含めてソシエダの選手はチーム全体ですごく繋がりを持ってプレーしていたし、いろんな選択肢を持っていて何をしてくるかわからんな、みたいなプレーも多かったです。逆に1つしか選択肢がないシーンでの逃げ方、かわし方もすごく巧いな、とも感じました。ただ、プレーのイマジネーションのところは、人それぞれなので。誰かを真似たり、影響を受けるというよりは自分を信じてやるしかない部分だと考えても、これからも自分に自信を持って表現していきたいと思いました」
ところで『チーム戦術における自分』については、どう感じたのか。先に紹介した2つのプレーのうち、90+3分にパスを選択した後者は、「チームでゴールを向かうこと」をより意識したプレーだったのか。
「おそらく僕ってミスする時とかシュートを外す時は、自分の中に他の選択肢がなくて、そのシュートのことだけを考えちゃうというか。そのプレーに固執しすぎてミスが生まれていることが多いと思うんです。逆にいろんな選択肢がある中で一番、いい選択肢を取れた時はミスになっていないことが多い。その点において、あのシーンは、いくつか選択肢を想像した上でのプレーでしたけど、実際のところ、プレー中は結局、自分のアイデアというか、その時、思いついたことでプレーを選択していることばっかりやなって気もしました(笑)」
出場時間からしても、彼自身が描く、新しい自分を見出すまでには至らなかったようだが、なんといっても彼にとっては約1年ぶりの試合だ。長いリハビリの日々を乗り越えて手にした15分間を心から「楽しい」と感じ、「サッカーは面白い」と再確認できたことは、何よりの収穫だろう。試合後、ソシエダ・久保の口から「これからがすごく楽しみ」だと名前を挙げられたことも。
「今日で知ってもらえたのかはわからないですけど、名前を挙げてもらえたのはすごい嬉しいこと。リハビリを続けてきてよかったなって思いました、今(笑)」
おかえり、仁郎。さぁ、ここから。