「金融市場を知るには日本国債から」 債券情報発信のプロが語る資産運用に大切なこと【特別企画】
国や企業などが、投資家から資金を借り入れるために発行する有価証券である「債券」。そのうち国が発行する債券である「国債」は、日本では2019年3月時点で実に900兆円近くの残高があります。
ただ、外貨投資(FXなど)や株式投資と並ぶ金融投資の柱でありながら、債券への投資をメインとしている人はそう多くない、というイメージも強いのではないでしょうか。
その一方で「金融投資の初心者ほど、債券市場を知ったほうがいい」と語るのは、日本の国債や日銀の金融政策の動向分析などを専門とする金融アナリストの久保田博幸さん。
1996年に債券市場のホームページの草分け的存在となる「債券ディーリングルーム」を自ら開設したパイオニアは、これまでヤフーニュース個人で7000本近くの記事を執筆しています。
2013年5月から続く有料連載『牛さん熊さんの本日の債券』での配信も、月に60本を超えることが珍しくありません。今回はそんな債券情報の発信のプロフェッショナルである久保田さんに、じっくりとお話を伺いました。
金融アナリストであると同時に、債券情報発信の第一人者に
――まず金融アナリストとは、どのようなお仕事なのでしょうか。
久保田:簡単に説明すると、金融市場動向や景気、企業状況などを分析し、評価するのが金融アナリストの主な仕事です。金融機関や証券会社に所属する人もいれば、私のようにフリーでやっている人もいます。
――久保田さんは特に債券専門のアナリストとのことですが、どういう経緯でそのお仕事を始められたのでしょうか。
久保田:新卒で水戸証券株式会社に入社後、支店営業を経て債券部という部署に異動したことがきっかけですね。
パソコンは職場に数台あるだけという時代に、私はBASICとよばれるコンピューター言語が書けたため重宝されたんです。債券先物の管理システムを構築し、これをきっかけに債券先物を中心とした債券ディーリングを任せてもらえるようになりました。
ただ債券売買課への異動は、不思議な巡り合わせによる流れで実現したものでした。
私が異動する前年の1985年に国債先物市場がスタートしました。これには多くの証券会社と銀行が参入したのですが、そのスタート直後、プラザ合意の影響により国債先物が急落してしまったのです。このため、損失を出した多くのディーラーたちがいなくなってしまいました。
そこで内部から人材を育てようとなり、私にも白羽の矢が立ったというわけです。
――久保田さんは1996年に債券市場に関する個人ホームページを開設されましたが、相当早い段階から個人で情報発信を始められたことになりますね。
久保田:当時は「Windows95」が発売され、ようやく個人向けパソコンの市場が開いたという時期でした。せっかくなので自分も何か作りたいという気持ちが強かったため、債券市場に携わって10年程度というキャリアを生かし、「債券ディーリングルーム」というホームページを開設しました。
ブルームバーグや日経QUICKからは広く投資家や金融機関向けの速報が伝えられていたので、それとは異なる着眼点での債券情報を紹介していくぞ、という気持ちがありましたね。
もちろん大手の証券会社であればこういう個人ページの開設は禁止されていたと思いますが、幸いにも私の勤めていた水戸証券は、そういう取り組みに非常に寛容な会社でした。
――その結果、今もなお更新の続く、債券市場に関する草分け的存在のホームページへと成長を遂げたわけですね。
久保田:はい。おかげさまで開設後は、金融関係者や投資家向けに絞った情報のみの発信だったにもかかわらず、アクセス数はじわじわと増えていきました。
4年とたたないうちに100万アクセスを達成し、個人サイトとしては異例の認知を獲得していたと思います。出版依頼を数多く頂戴しただけでなく、幸田真音さん著の『日本国債』という小説にも登場させていただきました。
金融商品として魅力的な「日本国債」、その知られざるメリット
――ご専門とされる「日本国債」は、どういう類の金融商品になるのでしょうか。
久保田:国債は金融資産のなかで最も安全な資産です。個人の方には個人向け国債の認知度が高いと思うので、個人向け国債についてのお話をさせていただくと、その利子は通常の銀行の定期預金などより高いケースが多いのです。
個人向け国債が安定して一定金額発行され続けている、つまり多くの人にずっと買われ続けている最大の理由は、最低保証金利がある点。現在どのタイプの商品も0.05%という最低保証金利が存在しており、これが大きな魅力となっています。
――金融商品でありながら最低保証金利が存在するのは、なぜでしょうか。
久保田:個人向け国債は国債の個人消化の促進が目的であり、さらに発行されてから1年経過しないと売却できない点があるなどしたことで、最低保証利子が付けられたのではないかと思われます。
1年経過すると財務省が額面で買い取ってくれるということは、個人向け国債は金利の上げ下げによる金利変動リスク、つまり価格変動リスクがゼロということになります。
有価証券などによる資産運用にはどうしても価格変動リスクが伴いますが、個人向け国債にはそれがありません。国債価格の下落による個人での損失がないという点で、金融商品として大変優れています。
――なるほど。リスクも低い分リターンも極端に少ない金融商品、というネガティブな印象も強い国債でしたが、個人向け国債にはそのようなメリットがあったのですね。
久保田:個人向け国債とは、その名の通り個人にしか買うことができません。証券会社や銀行は保有することができないという点はとても重要です。金融機関は国債を代行して販売することしかできず、市場に出回ることなく財務省が買い取る仕組みになっているのです。
だから手数料もかかりませんし、1年経過すれば売りたいときに売れない、というような流動性リスクもありません。運用結果が事前にわかるなど優れた点が非常に多いのです。
債券を知ることは、金融市場全体を知ることにもつながる
――ところで、久保田さんの記事や有料連載『牛さん熊さんの本日の債券』のタイトルにも出てくる「牛と熊」という例えは、何を意味しているのでしょうか。
久保田:「牛と熊」は、ブル・ベアという業界用語を私が直訳したものです。牛は「ブル(Bull)」、雄牛が角を突き上げるかのような上向きな様子、熊は「ベア(Bear)」、熊が前脚を振り下ろすか背中を丸めているかのような下向きな様子を表現しており、相場の強気・弱気を意味しているのです。
【例】
・「2月のS&Pケース・シラー住宅価格指数と4月の消費者信頼感指数はともに市場予想を上回った」→これは株には好材料でも債券には売り材料になるので、債券関係者にはベア(熊)となる。
・「4月のシカゴ購買部協会景気指数は、好不況の境目である50を下回ったが」→こちらも株には弱気材料ながら、国債は買われる要因となるので、ブル(牛)となる。
――なるほど。では同連載において、無料で発信されている記事にはない、有料連載ならではという価値はどういうところにあるのでしょうか。
久保田:平日の朝と引け後の1日2回、市場の動きとブル・ベアに関する動向を、牛さんと熊さんによる誰にでもわかりやすい会話形式でお伝えしています。
それに加えて昼には、金融をテーマにしたコラムを発信。国債を中心とした債券についての情報、日銀の動きや経済や物価の動き、そして海外の金融ニュースがどう日本の国債に関わっていくのかなどをいちはやく解説しています。
――非常に頻度高く情報発信をされていますが、どういう人に読んでもらうことを想定した連載なのでしょうか。
久保田:金融機関や証券会社の債券担当者、そして個人投資家の方ですね。ベテランはもちろん、投資歴が浅い人にもぜひ読んでもらいたいと思っています。
おかげさまで市場関係者だけでなく金融商品に興味のある一般の方からも「さらっと読めるのに、しっかりと知識が得られる」と好評です。
国債などの債券は意外に値動きがあり、流通金額は兆がつくほどの巨額という金融商品であり、国債の利回り(長期金利)は経済や金融の動きを知る指標にもなります。
興味がある人は、まずは国家予算のなかの国債の発行額などを知り、その動きが、自分が投資する資産とどのような連動性があるのかを知るところから学びましょう。需給バランスや経済指標と連動していることが、すぐに理解できるはずです。
そして債券を知ることは金融市場全体を学ぶことにもつながります。だからこそ、まずは有料連載『牛さん熊さんの本日の債券』を読んで債券の勉強を始めてみるというのは、将来的にみれば賢い投資になるかもしれませんね(笑)。
久保田博幸(くぼたひろゆき)
フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルにもなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書は「日本国債先物入門」(パンローリング)、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)、「債券と国債のしくみがわかる本」(技術評論社)など多数。
【この記事は、Yahoo!ニュース 個人の定期購読記事を執筆しているオーサーのご紹介として、編集部がオーサーにインタビューし制作したものです】