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日本人選手のCL出場が難しくなった理由。日本人とチャンピオンズリーグ(後編)

杉山茂樹スポーツライター

日本人とチャンピオンズリーグ(後編)

01~02シーズン、小野伸二はフェイエノールトですっかりレギュラーに定着した。フェイエノールトはチャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグ脱落組として出場したUEFA杯(現ヨーロッパリーグ)で、決勝に進出。ドルトムントを大激戦の末に下し、そのチャンピオンに輝いている。

ポルト、アトレティコ・マドリード、チェルシー、セビーリャ。これらは過去5年のヨーロッパリーグのチャンピオンになるが、当時の小野はこのレベルでプレイしていたわけだ。その準決勝では、いまより数段強いインテルにも勝利を収めている。欧州的に見ても、ちょっと光る期待の若手だった。同じ頃、バルセロナで出場機会を得始めたシャビと、思わず比べたくなったほどである。

先日、マインツ入りした武藤嘉紀。当初、報じられたのはチェルシー入りだった。よそのクラブにレンタルで貸し出して様子を見る。結局はそういう話だったし、その見出しを目にした瞬間でさえ、現状では通用するはずがないと、まともに信じる人は少なかったと思われる。

武藤は、宇佐美貴史とともに日本を代表する期待の選手だ。01~02シーズン当時の日本人選手に落とし込めば、中田英寿、小野になる。それぞれの所属先はセリエA優勝チーム、UEFA杯優勝チームだ。チェルシーとマインツとどちらに近いかと言えば、チェルシーになる。

当時を引き合いに出せば、日本のトップクラスの選手が移籍する先として、マインツはいかにも貧弱だ。日本のレベルが右肩上がりだとすれば、チェルシーに正規で移籍しても何の不思議もない。

昨季のマインツは、ブンデスリーガ11位。CL出場圏内には遠く及ばない。

チェルシーとマインツ。その差に、日本人選手が伸び悩む姿が見て取れるように思う。武藤はルックス的にも上々の人気選手なので、そのマインツ入りは半ばお祭りのように報じられているが、過去と比較すれば、決して喜ばしいニュースには聞こえない。

チェルシー級でなければ、日本選手の進歩率が世界の進歩率を上回っている証にはならないのだ。

欧州を目指しにくい大卒選手の増加

武藤は大卒プレイヤーだが、こういう選手は最近では珍しくない。しかもここ何年かの傾向といっていい。01~02シーズン当時はごく少数だった。大学に進学することは、Jリーガーになることを断念することをほぼ意味していた。

大卒選手が増えた理由は何か。それは世の中の景気とも大きな関係がありそうだ。景気が悪くなればなるほど、セカンドキャリアを心配して、その数は増える。だが大卒は高卒より、プロとしてのスタートは4年遅い。武藤は7月15日で23歳になるが、23歳の選手を喜んで獲得するクラブは欧州には少ない。チャンピオンズリーガーはもちろん、欧州の上位クラスでプレイする選手が増えない理由はそこにもある。

その国の経済と、サッカーのレベルは、密接な関係にある。経済がよければサッカーに追い風は吹くが、悪くなれば逆風になる。武藤はそういう意味でも日本のいまを象徴する選手と言える。21歳で欧州に渡った小野、稲本潤一、中田英より、期待値は年齢分だけ下がる。

運に恵まれたのは本田圭佑だ。彼がフェンロからCSKAモスクワに移籍したのは09~10シーズンの途中。移籍交渉をしている時、CSKAはグループリーグの最下位にいた。長谷部誠が所属したヴォルフスブルクが、突破圏内である2位につけていた。ところがCSKAは、最後の試合で逆転。ベスト16入りを決めた。

本田はそのタイミングでチームに合流。そのシーズン優勝したインテルと対戦して敗れた準々決勝まで、計4試合に出場した。その姿が、時の日本代表岡田武史監督の目に止まり、高い評価を得ることになったのだ。

選ばれてもベンチ要員だったそれまでとは一変。このシーズンの直後に行なわれた南アフリカW杯では、0トップとして大活躍したことは記憶に新しい。

もしCSKAがグループリーグを突破していなかったら、本田がそのシーズン、チャンピオンズリーガーになっていなかったら、その代表スタメンはなかっただろうし、日本のベスト16もなかったと思われる。本田様々と言うよりCSKA様々である。

代表チーム強化にはチャンピオンズリーガーが不可欠

これはチャンピオンズリーガーと代表チームの成績の関係を分かりやすく証明したいい例だと思う。

代表チームのレベルは、チャンピオンズリーガーの数に比例する。これが真実だとすれば、日本は慌てなければならない。本田、長友佑都、内田篤人、香川真司、長谷部等、過去のチャンピオンズリーガーが今後再び、その座に返り咲く可能性は低い。そう言わざるを得ない状況にある。岡崎慎司にもその目はなさそうだ。

最大4人いた日本人チャンピオンズリーガー。そのレベルを回復するのは至難の業なのである。武藤、宇佐美、柴崎岳など、日本期待の選手たちがCLで活躍する姿も、正直、現状ではイメージできにくい。日本の進歩率は世界の進歩率に追いついていない。

それでもなお、日本代表に期待しようと思えば、代表監督の能力が半端なく優れている必要がある。ハリルホジッチはこちらの半分無謀な要求に、応えられる監督なのか。CL予備予選でパルマを倒し、番狂わせを起こしたリール監督時代のような力を、いまなお備えているのか。チャンピオンズリーガーが0ならば、代表監督の力は10段階で9欲しい。僕はそう思うのだ。

(集英社・Web Sportiva 7月15日 掲載済原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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