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「人生最大の選択は日本に来たこと」イ・ボミがツアー参戦から10年経ち告白した“唯一の後悔”とは?

金明昱スポーツライター
日本ツアー参戦から今年で11年目を迎えるイ・ボミ(写真・KLPGA提供)

 今週開幕の国内女子プロゴルフツアー「ゴルフ5レディス」に2カ月ぶりの参戦となるイ・ボミ。

 2011年に日本ツアーに参戦し昨年で10年が経った。15、16年には圧倒的な強さで賞金女王となり、人気は絶頂を迎えた。

 19年には俳優のイ・ワン氏と結婚したが、その後もツアー出場を続けている彼女に日本での10年とこれから先に描いていることについて聞いた。

●長くも早かった10年

 私が日本ツアーに初めて参戦したのは2011年からでした。もう10年が過ぎましたが正直、ここまで本当に早かったです。ただ、5年目くらいはそこまで早いと感じませんでした。ちょうど賞金女王を目指して必死になっていた時期で、毎週試合に出場しては、成績へのストレスを感じていましたから、ツアーの1年が長く感じられたものでした。

 5年目以降、賞金女王という目標を達成してからは、時が経つのを早く感じるようになりました。ただ、ほとんどの人が年を重ねるごとに、1年が過ぎるのが早いと感じるようですが、今の私はまだそんな感覚になっていなくて、むしろ同じスピードで走っている感じはあります。

●大きく変わったこと

 この10年で女子ツアーの環境はものすごく変わりました。特に選手たちの技術が向上していることには毎年、驚かされます。私が日本に来たときの印象では、そこまで大きな選手はいなかったのですが、渋野日向子選手や原英莉花選手など、体格のいい選手もたくさん出てきました。飛距離も技術もあり、選手の層が厚くなりました。

 私自身は特に変わったところはないんです。歳を取っただけ(笑)。もちろん練習する時間が長いと、疲れやすいと感じたり、集中力を維持する時間が短くなったとは感じますが、30代になっても何も変わっていません。

 20代のときはライバルに負けたくないという競争心があったのが、30代になると余裕ができ、笑顔になることが増えると思います。でも私はむしろ、今はあまり笑えていないのかな(笑)。

●何事も諦めたくない

 私は“完璧主義”とは思わないのですが、周囲からよくそう言われます。でも、何事も最後まで諦めたくないと思うのですが、そういう気持ちでないとこのプロの世界でやる意味がないと思っているからです。

 韓国女子ツアーの順位シード戦(QT)で1位になった選手が、「憧れの選手はイ・ボミさん」と話してくれたことがあったんです。「どうすれば長くツアー生活を送ることができるのか」と聞かれました。ゴルフが楽しく、もっとうまくなりたくて練習をして、それが試合でうまくいったときは何よりも幸せになれる、というのが答えです。喜怒哀楽があるから、今もゴルフを続けているのだと思います。

●日本ツアー行きは人生最大の選択

 日本ツアー行きを決断したのは、人生最大の選択でした。韓国ツアーで結果を残した選手たちのほとんどが米ツアーに行きました。私もいずれ米国へ行くのではないかと考えながらツアー生活をしていたのですが、母(イ・ファジャさん)が「先に日本にいくのはどうか」と勧めてきました。そういう意味では母のアドバイスには感謝しています。

 日本に来てからの今の自分はまったく想像ができませんでした。目指していた目標よりもたくさんのことを成し遂げられましたし、それ以上に日本のファンの方がたくさん応援してくれました。それだけでも一生の思い出として、これからも幸せに生きていけます。

 それに私が韓国の選手にも関わらず、応援してくれる人がたくさんいたことには本当に感謝していますし、日本がもっと好きになりました。

 もし日本に行かず、韓国に残っていたからツアー生活をこれだけ長くできていたかなとも思います。日本で20勝して、韓国の永久シードを獲得できましたから、これから選手生活を長くできるきっかけになりました。それも日本に来たからこそです。

●一番うれしかったこと、悲しかったこと

 やっぱり賞金女王を成し遂げた2015年と16年です。一生忘れられない年です。15年は年間7勝して、獲得賞金も2億円を超えました。それにもっとうれしかったのは、韓国人選手の私のことを多くのメディアが大きく取り上げてくれたことです。新聞や雑誌の特集を大事にとって、韓国にも置いているのですが、それは今でも最高のプレゼントです。

 悲しかったことはお父さん(イ・ソクチュさん)が2014年に亡くなったことです。いくら頑張って、結果を残してもその姿を見せられなかったのは悲しいです。でもその想いもあって、目標を達成できたのは、父が天国から力をくれたのだと思います。

●唯一の後悔

 自分の過去をあまり振り返ることはないのですが、一つ後悔していることは、今まで自分のスイングを理解しないままゴルフをしてきたことです。とにかく教えられるがまま、ずっと感覚で打っていた部分があって、だから今はその感覚を取り戻すために苦労をしているのかなと思うんです。スイングを理解していれば、修正も早くできたかもしれません。

 米ツアーでプレーした時、米国の選手は飛距離も出るし、ダウンブローで打ったときのボールのスピン量も多い。それを見て、「自分もこうすればもっとうまくなれる」と思い、スイングを変えようと試みました。試行錯誤しながら、今も色々と試したり、修正したりとがんばっています。でもその中で、いろんなスイングがあるということを学び、この年齢で気づくことができたのは幸いだったと感じています。

●韓国選手は海外で成功者が多い理由

 韓国の選手は海外ツアーに対する興味や好奇心がとても強いんです。とにかくツアー生活を楽しんでいる。そこに尽きると思います。行く先々でおいしい食べ物を楽しみ、ゴルフ場のコースや大会の雰囲気も楽しんでいます。

 私に米ツアーが合わなかったのは、そうした楽しい気持ちになれなかったからです。米ツアーでプレーする韓国の選手は、自分たちで楽しみを探しています。選手同士でご飯に行ったり、家でパーティーをしたりと楽しみがあるんだと思います。私は日本に来てから、サポートしてくれるスタッフに恵まれ、いいキャディさんにも出会い、スポンサーの支援も大きかった。一人の力では日本でこうして長くプレーできなかったと思います。

 それにしてももうこれだけ長く日本で生活していると、海外という感覚が全くなくなりました。今は日本にいる時間が長いので、韓国に帰りたいなという気持ちになりますが、去年韓国にずっといた時は、早く日本に行きたいという気持ちになったものです。

●30代でも“ボミちゃん”の呼び名に感謝

 30代でもこうして愛称で呼んでもらえるのはすごく感謝しています。それにもう結婚しているに(笑)。名前もそうですが、ツアーを離れたときに、みんなにはどんな選手として記憶に残るのかなと悩んだときもありました。昔は強かったけれど、成績がよくないまま終わった選手と思われないか心配なんです。もちろん同じ成績をずっと出し続けるのは難しいのは分かりますが、まだこのまま終わりたくないという気持ちが強いです。

●“ママさんゴルファー”の自分は思い描けず

 アン(ソンジュ)ちゃん、横峯さくらさんは子どもができたあとも復帰するそうですが、私はまだそうした光景が想像できないんです。子どもができたあと、ツアーに復帰するのは難しいと思っています。子どもと一緒に過ごす時間が欲しいなとも思いますし、子どもを連れてツアーで戦うのは集中ができない感じもします。それに私はまだ、やり残したことがあるので、もう少し新婚生活を楽しんだあとかな。

●10代、20代の自分に言いたいこと

 若い時代の私に、一言を言うなら「お疲れ様でした。よく頑張りました」です。

賞金女王を目指して一生懸命やってきて、泣いたこともたくさんありました。一度も自分のことを褒められなかったことは、良くなかったと思っています。後輩たちに送りたい言葉は、ゴルフは成績も重要ですが、ツアー生活を一生懸命に送るだけでも周りの人は拍手を送ってくれています。もっと自分自身を大切にして褒めてあげることはとても大事だと思います。時にはがんばっている自分のことをちゃんと褒めてあげてほしいです。

●これから成し遂げたいこと

 これまで色々な経験をしてきましたが、まだ学ぶこともたくさんあります。でも、私をここまで支えてくれた家族やスタッフたち、今は夫とも離れての生活ですが、みんなが一生懸命がんばっています。本当に幸せです。唯一、心残りは今もゴルフの成績が出ていないことだけ。とりあえず今年は怪我をせず、ゴルフが好きな気持ちを忘れずにベストを尽くすこと。そうして一年を終えることが目標です。

 一生懸命練習をして、いろんなことに挑戦して結果が出なければしょうがないですが、最後まで諦めずにツアー生活を送りたいです。最近は(申)ジエや上田桃子さんの姿を見ていると、ベテラン選手らしく、かっこよくツアー生活を送りたいというと思わされます。今年もまだまだイ・ボミの応援をよろしくお願いします!

■イ・ボミ

1988年8月21日生まれ、韓国出身。12歳からゴルフを始め、2008年から韓国ツアーに参戦し、翌09年に初優勝を含むトップ10入り8回。10年に同ツアー3勝を挙げて賞金女王など4冠に輝く。11年から日本ツアーに参戦し、15年に7勝して初の賞金女王に。16年も5勝して2年連続賞金女王に輝いた。18年にシードを喪失したが、19年にシード復帰。同年末に俳優のイ・ワン氏と結婚。ツアー通算21勝。延田グループ所属

※本インタビュー記事は今年6月に休刊した「週刊パーゴルフ」2021年4月13日号のイ・ボミ独占インタビューに加筆・修正を加えたものです。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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