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暴力を嫌悪しながら高揚する、人間の罪深い感触

渥美志保映画ライター

今回は、前回【激押し月1邦画】でご紹介した『ディストラクション・ベイビーズ』の、真利子哲也監督にインタビューさせていただきました。なんと東京芸術大学の卒業制作『イエローキッド』が、異例の劇場公開されたという今後の日本映画界期待の若手監督です。

●『ディストラクション・ベイビーズ』の着想はどこから?

4年前、仕事で訪れた愛媛県の松山市で飲んでいた時、とあるバーのマスターと知り合ったんです。彼は僕と同世代なんですが、十代から路上でケンカを生業のように生きてきた人で、その生き様に感銘を受けてしまって。東京でやらなければいけない仕事を終えてから、すぐに松山に戻り、住み込んで取材を始めました。滞在中は地元の映画館にも足繁く通い、そのうちに知り合いも増え、松山という土地にもどんどん魅了されてゆきました。

その後も断続的に松山に足を運び、街中の路地や兄弟の住んでいる造船所など、映画の手がかりを見つけてゆきました。取材をしながらストリートファイトや人間関係について想像を巡らせると同時に、松山の穏やかな風景や血気盛んな祭りなど様々なものを目にし、よそ者ゆえに感じたであろう違和感を大事にしながら、脚本を書きました。

●理由も感情もなく、相手かまわずケンカを繰り返す泰良は、どんな人間なのでしょうか。

僕自身「泰良は一体何か?」と自問しながら、脚本と向き合っていたように思います。演じる柳楽君とも言葉を尽くして話し合いましたが結局答えは出ず、彼も演じる前は相当なプレッシャーだったと思います。

映画の中で柳楽優弥という俳優が演じる上では、人間として描きたいという気持ちがあったし、理屈で分かりやすい主人公より、自分が見たいと思う主人公――いい悪いに関係なく、“やりきってしまう”主人公を描きたかったんですね。

何かつかめたなと感じたのは、松山の撮影の初日、映画の中での最初のケンカの場面をとった時です。ケンカの相手を探して町を彷徨う泰良の背中をカメラが追って、観客が「こいつは何を考えているんだろう」思い始める頃に、振り返った柳楽君の表情を見て「これはいけるな」と。

●ケンカの場面は、町中で起こったケンカを、物陰から見ているような臨場感がありました。

参考にしたのはYOUTUBEの映像です。外国の映像が多いんですが、例えば車の中にいる時にケンカに遭遇し、遠巻きで定位置から撮り始めた、みたいな。そういう映像にある“何かが起きそうな空気の不穏さ”と“ケンカが始まった時のショック”は、固定のカメラだからこそ見入ってしまうですよね。

映画のケンカはアクションだから動きが決まっていますが、リアルなケンカは当然ながら「どっちが行くか」みたいな間ができる。それが面白いなと思ったので、そういう部分も役者同士のセッションで。当たってないけど痛さもちゃんと表現して、よりリアルなケンカっぽくやっていこうよと。

●この映画で描いた暴力について思うところを教えてください。

この映画を暴力を肯定した作品と受け取る観客もいるかもしれません。特に、ほとんどセリフのない泰良の核ともいえる「楽しければええけん」という言葉には、違和感を抱く人も多いと思います。でも僕自身が取材で聞いたその言葉に違和感を覚えたからこそ、この映画を撮りました。人は暴力行為を嫌悪しながらも同時に高揚してしまう、この罪深い感触と向き合いたいと思ったからです。理屈でどう理解しようとも、今後も暴力がなくなることはないと思うし、泰良は、いつ、どこにでも現れうる存在のような気がします。

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真利子 哲也(まりこ てつや)

1981年東京生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業。東京藝術大学大学院映像研究科修了。法政大学在学中より8ミリ映画を撮り始め、2004年に『マリコ三十騎』を監督。2009年、東京芸術大学大学院修了として長編作品『イエローキッド』を監督、卒業制作としては異例の劇場公開へ。2011年、宮崎将主演、ももいろクローバー出演の中編『NINIFUNI』を監督。本作で商業映画デビュー。

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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