ミサイル避難訓練を中止しつつイージスアショア配備計画を進める政策の正当性
6月12日に米朝会談が開かれ、核とミサイルの問題で緊張緩和の道が開けたのだからミサイル防衛(MD)のイージスアショア(陸上イージス)配備計画を再考すべきという声が出て来ています。米朝対話が続いている間は米韓合同軍事演習を中止する方針に合わせて、日本もミサイル空襲を想定した民間防衛訓練(避難訓練)を中止する事になったのに、イージスアショアの配備をそのまま進めるのはちぐはぐな対応だという主張です。
しかしこれは別にちぐはぐな対応ではありません。実際には日米韓で連携された対応が為されていると評価が出来ます。何故ならば北朝鮮との交渉当事者であるアメリカ自身も、米韓合同軍事演習は中止する一方でミサイル防衛は強化する方針を続けるからです。
軍事演習を中止しつつミサイル防衛の強化を進めるアメリカ
アメリカは本土防衛用ミサイル防衛を強化し続ける方針です。6月20日及び21日に、ハワイのオアフ島に配備する予定のミサイル防衛用新型レーダーについてミサイル防衛局から住民に対する環境影響評価の説明会が開かれました。配備計画はそのまま進められており、米朝会談を受けてミサイル防衛を縮小するような動きは今のところ何一つありません。本土防衛用の迎撃ミサイルGBIの数も大きく増やす方針のままです。
つまり訓練は中止するがミサイル防衛は強化するという方針は日米で全く同じ対応なのです。韓国も独自のミサイル防衛計画KMDを進める方針の上で、在韓米軍に配備されたTHAADを撤収するように求めたりもしていません。北朝鮮は「朝鮮半島和解ムードにも一人MD強化する日本」と非難していますが、事実はそうではなく日米韓はそれぞれMD強化をそのまま進めています。
短期的な対応と長期的な対応が異なるのはおかしい事ではない
短期的な対応と長期的な対応の方針が違う事はおかしい事ではなく、ちぐはぐな対応という見方はあたりません。少なくとも米朝交渉が続いている当面の間は戦争の危機は去ったので避難訓練は中止するが、日本を狙う短中距離弾道ミサイルが廃棄されたわけではないので備えは怠らない。ただそれだけの理屈であると言えます。緊張が高まるか緩和されるかは急展開する事が有り得るのに対して、大型兵器システムの配備は数年単位の時間が掛かります。故に米朝会談で短期的に緊張が緩和されたからといっても、それが長期間続く保証が当事国の行動をもって示されない限りはイージスアショアという長期計画を中止することができません。交渉が上手くいかなかった場合に慌てて配備計画を再開しても間に合わなくなるからです。日本を狙う北朝鮮の短中距離弾道ミサイルが全て廃棄されたことが確認されないかぎり、イージスアショアの配備計画はこのまま進むでしょう。
核とミサイルの問題は本当に解決できるのか
そもそも6月12日の米朝会談は具体的な内容が殆ど無く、核とミサイルの問題が果たして本当に解決されるのか懐疑的な見方が識者の間でも多数を占めています。特に東アジア核不拡散問題研究の第一人者であるジェフリー・ルイス氏は会談の直前から非常に悲観的な見方で、現在もその姿勢を崩していません。交渉が決裂した時に反動で一気に緊張が高まると警告しています。
また米朝会談を受けた各メディアの世論調査でも、これで北朝鮮の核とミサイルの問題が解決すると答えた層は非常に少ない数字が出ています。
大多数の国民が北朝鮮の核・ミサイル問題が解決できないと思っているなら、対抗手段であるミサイル防衛システムのイージスアショア配備計画は支持を得られやすいでしょう。
イージスアショアの配備箇所は再考する余地
しかしたとえイージスアショアの配備を進めると決めた後でも、配備場所を再考する余地はまだあります。在韓米軍のTHAADは民間のゴルフ場を買い上げて用地を取得し配備したのに比べると、日本のイージスアショア配備計画は新たな用地を買収せず自衛隊の敷地の中で完結できることを優先しているように感じられます。市街地に隣接した場所に配備する計画は地元住民から疑問の声が出ており、政府と防衛省は他の候補地ではなぜ駄目なのか具体的な説明が求められています。