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意外な取り組みでバスケ中学年代日本一に輝いたゴッドドア。「成功より成長」の思いはスペインから

大島和人スポーツライター
チームメイトを助け起こすゴッドドアの選手 写真提供:日本バスケットボール協会

二代目王者は兵庫の街クラブ

部活(中体連)とBリーグのユースチーム、そして街クラブが垣根を越えて競う画期的な全国大会――。それがJr.ウインターカップ全国U15バスケットボール選手権大会だ。

2021年1月に開催された第1回大会は、秋田市立城南中学校とNLG INFINITY(群馬)が決勝を戦い、城南中が男子の初代王者に輝いている。

第1回大会で活躍した選手の多くが、昨年12月の高校バスケ・ウインターカップでも主力としてコートに立った。特にNLG INFINITY出身の川島悠翔は福岡大学附属大濠高校に進学し、全国制覇に貢献する大活躍を見せている。

第2回大会は今年1月8日に決勝戦が開催され、男子はゴッドドア(兵庫)がKAGO CLUB(大阪)を68-58で下して優勝を決めた。チーム名の由来はシンプルに「神(ゴッド)戸(ドア)」という直訳。神戸市東灘区を中心に活動している街クラブだ。

エースの瀬川琉久は6試合の平均が24.7得点、15リバウンドという驚異的なスタッツを記録して大会のベスト5に選出されている。183センチと身長はそこまで大型でないが、ドライブが巧みで、体幹の強さや動きの鋭さも際立っていた。

「自然な身体操作」にこだわる

選手の自然な身体操作はスキル習得の前段階として、ゴッドドアがこだわっているポイントでもある。本間雄二ヘッドコーチ(HC)は日常の取り組みをこう説明する。

「BCエクササイズといいまして、西宮幹雄トレーナーが必死になって教えてくださっています。身体操作、認知、判断、反応は10年かけてやらないとできません。2時間の練習であろうが、3時間の練習であろうが、BCエクササイズは40〜50分ずっと無言でやっています。それは自分の身体に向き合う時間にもなっています。色んな気付き、自分で修正して行く力を身につける、自己研鑽して自己解決できるようになる第一歩となるのではないだろうか?と考えて、すごく大事にしています」

瀬川はこう述べる。

「軸がぶれないからボールハンドリングが良くなって、コンタクトをしても身体がズレません。その分滑らかに、スムーズに動けます。(トレーニングは)しんどいですね。ブリッジしたり、お腹を押して腹圧でくっと締めたり、ちょっと変わった内容です」

跳躍しても身体の軸がブレない瀬川琉久 写真提供:日本バスケットボール協会
跳躍しても身体の軸がブレない瀬川琉久 写真提供:日本バスケットボール協会

合言葉は「成功より成長」

他競技も含めて「部活は教育重視」「民間クラブは競技特化」という見られがちだが、本間コーチのコメントは教員以上に教育者的なニュアンスが強かった。そんな指揮官が大会中に繰り返し強調していたポリシーが「成功より成長」だ。

彼は決勝戦の後にこう述べていた。

「僕自身はアンダー12(12歳以下/ミニバス)の畑で、アンダー15(15歳以下/中学生年代)もさせていただいているんですけれど、目の前の試合を勝とうと思ったらやり方はいっぱいあるなと感じています。けれどそこで(目先の結果だけを考えて)勝利を掴んでも次につながらないし、その後は苦しい時間になってしまう。生意気を言ったら、日本のバスケットは今まで目の前を勝つことだけで来てしまっていたのが現状となり、この4,5年の大変革になってきています。それを僕たちが真摯に受け止めて、やっていかないといけません。この大会の目指しているものは、きっと育成だと思うんです。それを度外視して勝つために何かしていくのは違うなという思い、『成功より成長』という思いで、たまたまたどり着いたチャンピオンです」

コーチのスペイン研修が転機に

本間コーチにとって転機になった経験が、2018年のスペイン研修だった。兵庫県バスケットボール協会の勧めもあり、県体育協会のスポーツ指導者海外派遣補助事業による支援を受け、スペインのカタルーニャ州に丸一ヶ月滞在。当地の育成システムを見聞してきた。

本間コーチは振り返る。

「スペインはサッカーというイメージがありますけれど、違うスポーツの育成について学びに行かせていただきました。カタルーニャ州の選抜と兵庫県の選抜がU-12の試合をやれば5勝5敗だと思います。けど次の世代に行くとほとんど勝てません。高校に行くと決着がついています。大人になれば『今から何をもがこうか?』という差になっている。何が違うのかと言ったら育成のあり方で、(スペインは)その場を目指すのでなく、大きく先へつながるように全員がやっている。スペインで感じたこと学んだことを日本に伝えたいなと思って、そこからすごく大事にしています」

育成年代に限れば成功確率の低い大人びたプレーは制限して、“子供のバスケ”を貫いたほうが結果は近いというある種の定説がある。しかし2メートル級のビッグマンでも、オールラウンドなスキルが身についてなければ、Bリーグや代表レベルでは通用しない。そもそもサッカー、ラグビーのような先に世界レベルへ到達した他のボールゲームを見れば、いい意味で欲張った身体能力とスキル、判断とすべて追うスタイルのチームが育成年代でも結果を手に入れている。成長の優先は遠回りなようで、実は成功の近道なのかもしれない。

瀬川琉久とマッチアップする平良宗龍(琉球) 写真提供:日本バスケットボール協会
瀬川琉久とマッチアップする平良宗龍(琉球) 写真提供:日本バスケットボール協会

Bユースが台頭する中で

日本バスケの育成、中学生年代はまだ変化の途上。そして2017年頃から強まっている潮流がBユースの台頭だ。第2回大会のベスト8には横浜ビー・コルセアーズ、福島ファイヤーボンズ、千葉ジェッツとBリーグのU15チームが3つ残った。

ゴッドドアは2回戦で琉球ゴールデンキングスU15と対戦したが、64-62の辛勝だった。琉球の平良宗龍はU16日本代表候補にも入っているガードで、第4クォーターに14得点の大爆発を見せてゴッドドアを追い詰めた。本間コーチが瀬川選手について「(平良選手に)やっつけられたなという思いがあるのは間違いない」と振り返る苦しい展開だった。

本間コーチはBリーグのアカデミーに対しても、強い敬意を持っている。

「今勝つためのことをやっていないですね。千葉ジェッツの2メートルの子(渡邉伶音)はポストに置いたら楽ですけど、外(でのプレー)もちゃんとしています。偉いなと感じますし、僕らは学ばなければいけない。それが当たり前の日本にしていかないと、育成から強化にはつながりません。これからはユースの時代だと思います。そのユースが作っていく道標を街クラブが追いかけながら学びながらやるのが、理想だと思っています。その入口には入ってきていますし、僕らもスクラムを組んで進みたい」

長身ながらオールラウンドなプレーを見せた渡邉伶音(千葉/中央)  写真提供:日本バスケットボール協会
長身ながらオールラウンドなプレーを見せた渡邉伶音(千葉/中央) 写真提供:日本バスケットボール協会

部活とクラブの二重活動も奏功

クラブチームの活動形態は千差万別だが、ゴッドドアは瀬川を筆頭に神戸市立本山南中のバスケットボール部でプレーしていた選手が多い。本山南中は21年夏の全国中学生大会で優勝を果たした強豪だ。(※準々決勝敗退チームに発熱症状が出て、結果的に準決勝に残った4校がすべて優勝の扱いとなった)

本間コーチはこう説明する。

「(日本バスケットボール協会のルールとして)二重登録は禁止ですが、兵庫は二重活動がOKです。チームのルールとして『3年生は引退するまでは各部活動に所属してください』としています。部活動とも連携しながら、お互い足らずのところをずっとやってきています」

引退前にも練習試合やプライベートトーナメントなど、非公式戦をゴッドドア名義で戦うことはある。ただし公式戦は日本協会の登録が必要で、部活に所属している選手はクラブから出られない。選手たちは3年生の夏以降に中学から登録を移し、ジュニアウインターの予選と本大会に臨んでいた。

今大会に登場した他の街クラブを見ても、これは育成年代における一般的な方法だ。決勝に残ったKAGO CLUB、ベスト4に残ったLAKE FORCE(滋賀)も部活との掛け持ちを前提とした活動形態。学校に対する塾のような立ち位置を取っている。

ゴッドドア・本間雄二HC  写真提供:日本バスケットボール協会
ゴッドドア・本間雄二HC 写真提供:日本バスケットボール協会

多彩な街クラブの形態

同じ“ハイブリッド型”の中でも、少し違う成り立ちを持つチームもある。ナショナル育成センター(DC)参加選手のギバ俐希カトゥを擁して8強入りしたBCつくばEvolution(茨城)は、部活動改革の流れを受けた街クラブだ。大塚篤史HCはつくば市立谷田部東中の体育教員で、近隣の小中学生の男女で活動を行っている。

谷田部東中は部活動を週に平日3日、週末1日の計4日と制限している。しかし、そこにプラス1日の活動を行う地域部活動の存在がある。DCAA(洞峰地区文化スポーツ推進協会)という学校とは別の組織が運営し、外部指導者を雇用して様々な競技で“第二部活”を行う仕組みだ。クラブチームの専門指導者はもちろん、筑波大の大学院生や、バレーボールチーム「つくばSunGAIA」の選手もコーチを務めている。

BCつくばの中学生年代は、またそれと別の“もっと上”のレベルを想定したバスケチーム。活動は週に2,3日で、選手はDCAAの地域部活動に参加せず、また谷田部東中以外からの受け入れも行う体制だ。大塚コーチは言うならば部活指導の負担が減った分を、同クラブに割いている。地域部活動やBCつくばへの参加は任意で、月謝も発生する。

大きな部活動改革の影響

逆に教育委員会などの方針で二重活動が禁止される地域もあると聞く。また都道府県の協会、地域の部活指導者がクラブチームの活動を好ましく見ておらず“圧”がかかっている例も耳にする。

しかしゴッドドアの活動する神戸市は本間コーチいわく「めちゃくちゃ仲良く、お互いに応援してやっている」という。そもそもゴッドドア、本山南中の主力メンバーは本間コーチが魚崎ミニバスケットボールクラブで指導していた選手たち。つまり魚崎とゴッドドアには小中の一貫指導体制がある。中学生は平日の練習が月水金の3日で、市営の体育館を転々としながら活動を行っている。月謝は6000円だ。

働き方改革、部活動改革の潮流を受けて部活動への制限は強まっている。神戸市でも部活動は「土日はどちらか1回、平日も1回が必ず休み。冬場は完全下校17時」と定められている。だから授業後の部活動は1時間半弱しか時間を取れない。

コロナ禍で民間クラブへの体育館貸し出しが止まった地域もあったが、神戸市は逆に「クラブ活動でしか動けない」時期も長かったという。ゴッドドアと本山南中はクラブと部活が相乗効果を生むハイブリッド型で成功した好例と言える。

Jr.ウインターカップを制したゴッドドアの選手たち  写真提供:日本バスケットボール協会
Jr.ウインターカップを制したゴッドドアの選手たち 写真提供:日本バスケットボール協会

“ハイブリッド型”は強み?

教員の過剰労働解消は社会的な要請で、部活動の社会化やクラブチームの活用は学校側にとってもメリットの出るアクション。もちろんオーバーワークを誘発する、勉強する時間も取れないレベルの“バスケ漬け”は否だ。一方でバスケに本気で取り組みたい、学校だけでは物足りない選手にとってゴッドドアやBCつくばのような二重活動はいい選択肢だ。

サッカーでも小学生年代はチームとスクールの二重活動が一般的だし、日本代表選手のレベルが「中学時代にクラブチームと部活の練習に両方出ていた」という話も聞いたことがある。またアメリカは学校の運動部がシーズン制で、バスケ選手は学校のチームとAAU(アマチュアアスレチックユニオン)のクラブチームを掛け持ちする例が多い。

ただ国内に限って見るとバスケ界ほど“部活とクラブのハイブリッド”が一般化し、機能している例を知らない。これはなかなか興味深い文化で、部活動改革が進む日本社会でより生きる仕組みだろう。そこは第2回Jr.ウインターカップの観察を通して、筆者が得た学びだった。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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