あのジェイZも惚れ込んだ楽天の「75億円助っ人」は、なぜメジャーに定着できなかったのか?
楽天ゴールデンイーグルスは、キューバ出身のルスネイ・カスティーヨと契約合意したと1月9日に発表した。
33歳のカスティーヨは、キューバ・リーグでデビューから4年連続で3割を打った巧打者。盗塁王にも輝いたスピードも備えて、2013年にキューバから亡命すると、メジャーの球団が激しい争奪戦を繰り広げた逸材。ラッパーでもあり、音楽プロデューサーとしても活躍するジェイZが設立した代理人会社「ロック・ネイション・スポーツ」が代理人を務めた。
結局、ボストン・レッドソックスがキューバ人史上最高となる7年総額7250万ドル(約75億円)の大型契約を提示して獲得。それだけ大きな期待を受けて入団したのに、7年間でメジャーでプレーできたのはたったの3年間、しかもその中の2年間はシーズン40打席以下しか打席に立っていない。
メジャーでの通算成績は99試合で、打率.262、出塁率.301、長打率.379、7本塁打、35打点、7盗塁(5盗塁失敗)と期待を大きく裏切った。
2016年シーズン終了後にはレッドソックスがウェイバーにかけたが、契約が4年間総額4600万ドルも残っているカスティーヨ獲得に手を挙げるチームはもちろん現れずに、2017年以降の4年間は一度もメジャーに上がることもなかった。
最後まで克服できなかった明確な弱点
カスティーヨはメジャーに入る前からある弱点をスカウトから指摘されていた。
それは打席での自制心に欠ける点であり、外角へ外れた球にすぐに手を出してしまうことだ。
打席での辛抱強さを測る指標に出塁率から打率を引いた「IsoD」があるが、カスティーヨのキューバ時代のIsoDは.065だったのが、メジャーでは.039と悪化した。IsoDは1割を超えると一流と評価され、0.65は平均を若干下回り、0.39はかなり悪い。
四球率はキューバ時代が5.4%で、メジャーでは4.8%。四球率は8%が平均で、5.5%を下回ると「かなり悪い」との評価を受ける。
キューバでのデータはないが、メジャーでの一打席当たりの被投球数は3.53球で、かなりの早打ちだ。
メジャーでストライクゾーンを外れたボールを振る確率は35.4%で、そのうち38.5%を空振りしている。
マイナーで活躍を続けてもメジャーに昇格できなかった理由
メジャーでは苦戦したカスティーヨだったが、マイナーリーグでは2年続けてチームのMVPに選ばれる活躍をみせた。
2017年から主戦場を3Aに移したカスティーヨは、打率.293、長打率.429と打ちまくっても、メジャーに再昇格することはなかった。
これは、贅沢税の対象となるのがメジャーリーグの40人枠に登録された選手だけという財政的な理由から。
2016年に贅沢税の課税対象となっていたレッドソックスは、6月にカスティーヨを40人枠から外すことにより、彼の年俸1050万ドル分をチーム総年俸から引くことができた。この年、レッドソックスに課せられた贅沢税は30%だったので、カスティーヨを40人枠から外してマイナーに送ることで315万ドルを節約できた。
2017年はカスティーヨを40人枠から外すことで、レッドソックスは贅沢税の対象を逃れ、贅沢税をリセットできた。贅沢税はサラリーキャップを超えた場合に発生し、一度目は20%、2年連続で超えると30%、3年以上連続して超えた場合は超過額の50%が課税対象となる。
2018年、19年とレッドソックスは再び贅沢税の対象となったので、17年に一度リセットできたことは大きかった。
2017年からはシーズン中に一度でも40人枠に登録された選手の年俸はチーム総年俸に加算されるとルールが変更になったので、カスティーヨはマイナーでどれだけ活躍しても、メジャーに上がることはなかった。
レッドソックスは外野のレギュラーが固定されており、控えの選手を昇格させることで、300万ドルの以上の贅沢税を追加で払いたくはなかったし、他球団へトレードしたくても、カスティーヨの年俸を引き受けるチームはなかった。
マイナーリーグでは最高年俸選手に相応しい活躍をみせたカスティーヨだが、もし彼が1000万ドル以上の年俸ではなく、数十万ドルの年俸を得る普通のマイナーリーガーであれば、間違いなくメジャーへ昇格していた。
2019年シーズン終了後には、契約を1年早く終わらせることもできたカスティーヨだが、もう一年マイナーで飼い殺しにされるのと引き換えに、1350万ドル(約14億円)で契約最終年となる7年目のオプションを行使した。
楽天との契約は年俸65万ドル(約6760万円)と昨季の20分の1以下。最大100万ドル(約1億円)の出来高が付くとアメリカでは報じられているが、満額を手にしても昨季の8分の1以下でしかない。
お金はレッドソックスから十分に貰ったカスティーヨにとって大切なのは、多くのお客さんの前でプレーできる機会。
マイナーで飼い殺しにされても腐ることなく、毎日誰よりも熱心に練習に取り組んでいた33歳のカスティーヨは、7年ぶりに大舞台で活躍するチャンスを心待ちにしている。