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あなたの声かけが子どもを救う 年末年始の長期休暇、高まる虐待リスク#こどもをまもる

山脇由貴子元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

年末年始は、多くの子ども達が長期休みに入るため、学校や保育園・幼稚園などで、家庭内の問題に気づきにくくなります。夏休みなどと違い、親も休暇である場合が多く、家族で過ごす時間が増えるので、虐待など、親子の問題が起こりやすくなると言えます。

こうした時期、どうすれば子どもを守れるのか。周囲の大人は何に気を付け、何をすべきなのでしょうか。

休み前、先生が気を付けたい「子どものサイン」とコミュニケーション

 まず、長期休みに入る前の子どもの様子を丁寧に見ることが大切です。多くの子どもにとって長いお休みは楽しみであるはずですし、クリスマスから大晦日、お正月とイベントが続くので嬉しい時期のはず。それなのに、憂鬱そうにしている子はいないでしょうか。

親から叩かれるなどの虐待を受けている子は当然恐怖に怯えますし、家でちゃんと食事を与えられていない子どもは、給食が食べられなくなるのは死活問題になります。なんとなく元気がない、友だちとの会話に入ろうとしない、帰り支度をなかなかしない。特に学校や保育園・幼稚園の休み前の最終日に家に帰りたくない様子を見せる、など見逃さないことはとても重要な事です。保育園・幼稚園の場合は、お迎えに来た、保護者の顔を見た時の子どもの表情を注意して見て下さい。暗い雰囲気はないか、振り返って先生の顔を見たりしないか。こうした子どもの小さな行動こそ、子どもの発するサインなのです。

 また休みに入る前、先生から休みの間の過ごし方や注意事項などを伝える場合が多いと思います。その時に、「休みの間に心配な事があったら、相談して欲しい」と伝えるのは有効だと思います。子ども達は悩んでいても、親の事など相談して良いのか、と迷っていたり、相談するタイミングが分からなかったりします。だから子ども達全員に向けて話をする時で良いので、心配事を相談するように伝えてあげて下さい。

 休みに入ってしまうと、家の中で起こっている事を知るのは難しくなります。もちろん、子どもから事前に「親に叩かれる」「お父さん(お母さん)が怖い」「ご飯を食べさせてもらえない」などの相談があったら、児童相談所への通報は検討すべきです。ですが、子どもが不安そうだけれど具体的には何も話してくれない場合もあると思います。その時は何か理由をつけて休みの間に先生から電話を入れるのも良いでしょう。先生から電話があれば、親は警戒するはずです。

休み中、近隣での「おかしな」事態は迷わず通報を。

 近隣の方たちの力も重要です。子どもの泣き声や親の怒鳴り声が聞こえたら、警察もしくは児童相談所に通報して下さい。児童相談所は職員が動けるのが原則12月28日までですので、12月29日から1月3日と夜間は警察へ通報となります。家族で楽しく過ごしているはずの年末年始に保育園・幼稚園の年齢の子、あるいは小学校低学年の子が1人でうろうろしていたら、夜間の場合は即警察に通報して下さい。家にいたくない、家を追い出された、自分だけ家に取り残された、など何らかの理由があるはずです。日中でも、何度か見かけた場合には、声をかけるか、どの家の子か分かれば、児童相談所か警察に通報して下さい。三が日に幼い子どもが外を1人でうろうろしていれば、それは明らかに「おかしい」事態だと思って下さい。

 「逆恨みされたら?」などの心配をする方もいると思います。ですが、児童相談所も警察も電話で匿名の通報ができます。仮に名乗ったとしても、誰からの通報なのかは児童相談所も警察も伝えません。「虐待じゃなかったら?」と通報をためらう必要もありません。虐待かどうかは児童相談所が判断することであって、皆さんは判断しなくて良いのです。虐待ではなかったら、それは子どもにとって良いことですし、強制的に介入する必要はない家庭でも、親は児童相談所が来た事で今後の子どもへの接し方に注意をするはずです。それで救われる子どももいるのです。

「一番美味しかったものは何?」休み明け、気を付けたい子どもの異変

 休み明けは学校、保育園・幼稚園での注意深い観察が再び重要となります。極端に痩せた場合はもちろん本人から話を聞いて下さい。年末年始、どんな風に過ごして何を食べたか。子どもが「別に」「普通」としか答えてくれなかったら「一番美味しかったものは何?」などの質問が有効です。子どもは肯定的な質問の方が答えやすいので、私もよく「お母さん・お父さんが作ってくれるご飯で一番美味しいものは何?」など質問していました。その質問に「ふりかけご飯」と答える子もいて、そこからネグレクトが判明しました。

 また、給食を何度もおかわりするとも虐待を疑う兆候の1つです。休みの期間、家であまり食べさせてもらえず、空腹状態が続いた事が疑われます。また家に帰ってもどうせ何も食べさせてもらえない、と思っている子どもは給食で満腹にしておこうと考えます。

 身体的虐待は減少傾向にあり、それは虐待する親たちが、「傷・あざを残したら逮捕される」「児童相談所に保護される」という知識を報道から得た為で、暴力を振るう親は確かに減っていますが、もし傷・あざがある子がいたら、すぐに児童相談所に通報して下さい。

気になる親への連絡 緊急性高ければ即通報を

 学校や保育園・幼稚園で異変に気付いた時、親への連絡をどうするかも悩ましい点だと思います。

保育園・幼稚園は送迎で毎日親と顔を合わせますし、親の人柄もある程度は分かっていると思うので、一度は親に聞いてみても良いかもしれません。「年末年始はどんな風に過ごしたんですか?」「ご家族でどんなごちそうを食べました?」など子どもの言うことと矛盾がないか確認して、大きな矛盾があれば通報も検討する、という手順でも良いと思います。

 傷・あざも同様に親に聞いてみても良いと思いますが、親が警戒心を高め、子どもに口止めをするかもしれません。さりげなく「転んだりしましたか?」など質問し、傷・あざの程度や場所と一致するか不自然ではないかを確認して下さい。傷・あざの程度がひどかったり、子どもが「家で叩かれた」、と言ったりした場合は親に確認せずに通報で構いません。

 直接顔を合わせないと親の様子が分からないので、学校の場合は傷・あざは即通報で構いません。

給食をたくさん食べる・痩せたなどの場合は、保育園・幼稚園同様に子どもから話を聞いて下さい。内容次第で即通報か、親への聞き取りか、管理職と相談しながら判断しましょう。養護教諭に関わってもらい、身長・体重を測って年齢相応かどうか、記録も残しておきましょう。差し迫った危険がないようでも、スクールカウンセラーにつなげる、なども重要です。

 身体的には変化はないけれど、なんだか元気がない、友だちとあまり話さない、年末年始の事を話そうとしない子などは心理的虐待の可能性があります。この場合は本人から丁寧に話を聞くしかありません。どんな風に過ごしたか。お父さん、お母さんから怒られるような事はなかったか。あまり深刻な聞き方をせず、ごく普通の会話を装って聞く方が子どもは話しやすいので、この点もポイントです。子どもが家の中の事を話す時はどうしても警戒します。警戒心をときながら話すのが重要です。

ちょっとした声かけが子どもを救う

 休み明けも近隣の方たちの力は重要です。コンビニやスーパーでいつもお菓子をじっと見ている子がいる。お腹を空かせているのかもしれません。放課後、夕方まで公園で一人でぼーっとしている子がいたら、家に帰りたくない、家に入れてもらえないのかもしれません。こうした地域での子どもの様子は、近隣の人だからこそ発見出来る虐待の兆候です。休みの間同様、夜間に1人でうろうろしている子どもがいたら、警察に通報して下さい。また、よく知っている子どもが休み明けに痩せた、傷・あざを見つけた場合はためらわずに即通報して下さい。真冬に寒そうな服装をしているのも「おかしな」事態です。様子を見続けて下さい。また、気になる子がいたら、普段話した事がなくても、「どうしたの?」と声をかけて下さい。コンビニやスーパーの店員の方たちも、です。万引きの背景に虐待が隠されている事もあります。お店で万引きを発見した場合、子どもが極端に親に連絡するのを嫌がる場合は、警察に通報した方が良い場合もあるのです。

子どもによく知らない大人に声をかけられると子どもは最初は警戒しますが、心配してくれているんだ、と分かれば、心を開いてくれるはずです。大人たちの子どもへのちょっとした声かけが、子どもの心を開かせ、子どもを救うのです。

「あなたを守るため」子どもにきちんと説明を

 そしてさらに重要になってくるのは、親に連絡するにしても、通報するにしても、子どもにきちんと説明してあげる事です。「あなたを守るためだから」ということに納得してもらいましょう。

親に連絡すると言えば、子どもはきっと家で怒られると怯えます。例えば、『「怪我しているみたいなんですけど、どこかに出かけた時、転んだりしましたか?」って聞いてみるだけだから』など、どのように伝えるかを子どもに伝えて下さい。そして、話した事を家で怒られるような事があったら、必ず教えて欲しい、という事も。児童相談所や自治体の相談窓口に連絡し、職員が子どもの確認に来る、となった場合は事前にどういう人達がどういう目的で来るのかも丁寧に説明しましょう。「あなたの安全を守るためだから」ということを子どもが理解出来るように説明して下さい。子どもが安心して話が出来るようにするためには、日常的に子どもと関わっている先生・周囲の大人の協力が必要です。大人同士が協力して、子どもを守ってゆきましょう。

「#こどもをまもる」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。

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■特集ページ「子どもの安全」(Yahoo!ニュース):https://news.yahoo.co.jp/pages/20221216

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

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