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2度の児相保護も防げなかった7歳男児の死、壁となった家裁の承認 どうすれば救えたのか

山脇由貴子心理カウンセラー 家族問題カウンセラー
(写真:アフロ)

児相2回保護も事件防げず 第1子・2子生後まもなく死亡受け

 神奈川・大和市で3年前、当時7歳の次男を殺害した疑いで、42歳の母親が逮捕された事件が起きました。大和市は、次男が生まれる直前に、第1子と第2子が生後まもなく死亡していることを伝えられ、児童相談所で2回保護していたが、事件は防げませんでした。なぜ防ぐことが出来なかったのでしょうか。

適切だった児相の対応

 この家庭は2002年に長男がミルクの誤嚥で死亡、2003年には長女が生後1か月で乳幼児突然死症候群で死亡しています。大和市は2012年からネグレクトとして支援して来ました。

 その後、2012年10月生後5か月の次男の雄大君が心肺停止で救急搬送され、児童相談所が一時保護しました。その後、施設入所となりましたが、児童相談所は安全が確認されたとし、自宅に戻しました。このことについて児童相談所は虐待リスクの材料として2人の子どもの死亡しかなかったこと、親子関係に問題がなかったことから自宅に戻した、と説明しています。

 雄大君は2015年3月に自宅に戻りましたが、2017年4月に三男が原因不明で死亡した為、児童相談所は2度めの一時保護を実施しました。適切な対応だったと言えます。

 児童相談所は施設入所適当と判断しましたが、母親が同意しなかった為、身体的虐待があるとして、家庭裁判所に申し立てをしました。家庭裁判所の判断が得られれば、児童相談所は親の同意なくとも、子どもを施設に入所させることが出来るからです。ですが、家庭裁判所は施設入所ではなく、在宅指導が適当との判断を出し、児童相談所は雄大君を自宅に戻さざるを得なくなり2018年11月に雄大君は保護解除となりました。そして2019年8月に亡くなってしまったのです。

虐待が日常的とは言い切れず

 家庭裁判所が施設入所の申し立てを却下した理由について、児童相談所は会見でこう説明しました。

「今までお子さんが亡くなったことについて保護者の責任、故意に何かしたという根拠は全くないので」

「児童相談所側でも間違いなくこの家庭で養育するのは不適切だというところまで書類を揃え、提出することが出来なかった」

報道では、雄大君は児童相談所職員に一度だけ、

「お母さんに投げ飛ばされて口から血が出た」

と言ったそうです。でも逆に言えば児童相談所が家裁に提出した身体的虐待の根拠はこれだけだったのだと思います。だとすれば、虐待が日常的だとは言い切れず、家裁が在宅指導が適当と判断したのも、やむを得ないとも考えられます。児童相談所が述べている通り、お子さん達が亡くなったことに、母親が関係しているという根拠は何もないのです。それでも児童相談所が家裁に施設入所の申立をしたという点は、子どもを守る為だったと言えます。児童相談所としては頑張ったと言えるでしょう。

家裁承認の壁は「ミュンヒハウゼン症候群」か

 それでも雄大君は亡くなってしまいました。それは児童相談所が母親が、代理によるミュンヒハウゼン症候群の疑いがある、という根拠を家裁に示せなかったのだと思います。確信も持てなかったのでしょう。それは仕方のないことだと思います。私は児童相談所勤務時代に母親が代理によるミュンヒハウゼン症候群の疑いがある子どもを保護し、家裁に施設入所の申立をし、家裁の承認を得られ、子どもを施設に入所させることが出来た経験があります。それが出来たのは、代理によるミュンヒハウゼン症候群に詳しい医師を見つけることが出来て、何度も勉強会を開き、医師に代理によるミュンヒハウゼン症候群について教えてもらいながら、資料を作り、医師に意見書も書いてもらいました。詳しい医師がいたからこそ出来たのです。

 児童相談所は地方自治体の職員の異動先に過ぎず、児童虐待について詳しい人ばかりではありません。知識と経験が全くない人もいます。専門家を集めなくてはならないこと、児童相談所職員の育成をしなければならないことは課題であり続けます。ですが、代理によるミュンヒハウゼン症候群のような、症例も少ない精神疾患の疑いがある親にどのように対応すれば良いのか、家裁にはどんな資料を提出すれば良いのか、経験の長い職員でもわからないこともあるのです。

どうすれば命を救えたのか

 どうすれば雄大君を救えたのか。

現在の全国の児童相談所は横のつながりはほぼない状態です。情報交換もしていません。お互いの経験を共有していないのは残念なことと言えます。例えば、自分たちには経験のない、難しい案件にふつかった時、全国の児童相談所に

「経験のある方いらっしゃいませんか?」

と投げかけるシステムがあれば、経験と知識のある職員からノウハウを教えてもらうことが出来、それが職員の経験と育成につながるのではないでしょうか。

今回のような症例の少ない精神疾患の場合は医師会の協力を得て、児童相談所が詳しい医師を紹介してもらえるシステムなどもきっと役に立ったはずです。そういったシステム作りは国が取り組むべきと言えるでしょう。

 児童相談所職員の専門性を高める、育成を強化する。それには時間がかかります。同じような事件を起こさないためにも、子どもを救うためにも、児童相談所に足りない知識を補うシステムが構築される必要があると思います。

心理カウンセラー 家族問題カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

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