伊達公子さんプロデュース 国際テニス連盟公認ジュニア松山大会の誕生に込められたメッセージ ~前編~
「リポビタン国際ジュニア supported by伊達公子×ヨネックスプロジェクト」(12月2~6日、予選:11月30日~12月1日、愛媛県松山市・愛媛県総合運動公園)が、初めて開催され、ジュニア選手たちが熱戦を繰り広げた。各種目の初代チャンピオンは以下のとおり。
男子シングルス優勝 ジョーンズ怜音
女子シングルス優勝 石井さやか
男子ダブルス優勝 森田皐介/高悠亜
女子ダブルス優勝 中島玲亜/齋藤咲良
ITFジュニア松山大会の女子シングルスで初代チャンピオンになった石井は、「実は、ITFの大会で優勝したのは、これが初めてなので、素直に嬉しいです」と笑顔を見せた。
一方、「優勝できてすごく嬉しいです」と語った男子シングルス優勝者のジョーンズは、ジュニア大会の新設に携わり、ゼネラルプロデューサーを務めた伊達公子さんについて、次のように語った。
「日本でITFを開催してくれて、本当に感謝しています。この大会に出たみんなもそう思っています。外(海外)へ行くには、お金がかかりますから、日本で開催されることによって負担が少なくなりますので、すごく感謝しています」
ITFジュニア松山大会は、元プロテニスプレーヤーの伊達さんが、生涯契約を締結しているヨネックス株式会社と取り組んでいるジュニアプロジェクトから派生して、日本テニス協会(JTA)とJTAオフィシャルスポンサーになった大正製薬株式会社の協力のもと、2020年に国際テニス連盟(ITF)公認のジュニア大会として新設された。
松山で伊達さんは初めてゼネラルプロデューサーを務め、砂入り人工芝コートではなくハードコートでのジュニア国際大会を、世界を目指す日本ジュニア選手に戦わせることに意味があると主張した。
そして、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが起こり、世界で未曾有の状況が続く中、海外ジュニア選手たちのエントリーはできなかったものの、第1回大会を何とか開催にこぎつけ、コロナ感染対策をしながら無事に大会を終えられたことに伊達さんはホッと胸を撫で下ろした。
「コロナ禍で大会が無い中、本当に開催ができるかどうかという時期でしたが、1週間やり切れた。大会にテニスに飢えているジュニアたちやコーチたちに、こういう場を提供できたというのは、率直にこの時期だからこそ良かったかな、と。開催させてくれた愛媛県にもゴーサインを出してもらえ、本当に助かりました。
ただ、残念なのは、この先も試合が無いこと。ここ(松山)で自信をつけたジュニアたちに、次へ行かせる場がまた無いというのは、もったいないなと思うけど、こればかりはしょうがない」
ITFジュニア松山大会の創設の理由を、「私がジュニアと関わるようになって、自然に大会の必要性を感じて、(ジュニアたちの)可能性を広げたいという思いで作った大会」と伊達さんは語るが、ITF公認のジュニア大会でITFジュニアランキングを獲得することにどんな意味が含まれているのだろうか。
実は、ITFジュニアランキングを上げることは、プロになるための1つの道筋へつながっているのだ。
例えば、18歳でジュニアを卒業したばかりの選手は、ジュニア最終年で勝ち取ったITFジュニアランキングが世界のトップ100に入っていれば、プロが出場する一般カテゴリーのITF1万5000ドル大会にエントリーできるチャンスがある。
プロツアー下部にあたるITF大会、いわゆるITFサーキットは、男女共に賞金総額(男子は2万5000ドル、1万5000ドル。女子は10万ドル、8万ドル、6万ドル、2万5000ドル、1万5000ドル)によってグレードが分けられている。
1万5000ドル大会は最下位グレードになり、プロへの登竜門となる。そして、本戦シングルス32ドローの中で、約3枠は、いわば“ルーキー枠”となっており、ITFジュニアランキングの高い順から大会にエントリーできる。ここで勝ち進みITFランキング(ジュニアではなく一般の)を獲得しながら、さらに大会をステップアップして勝ち進むことができれば、プロ選手たちが保有する世界ランキングを初めて獲得できるのだ(※ 男女共にITFの2万5000ドル大会から男子はATPランキング、女子はWTAランキングを獲得できる)。
ITFジュニア大会は、グレードA(グランドスラムジュニア4大会を含む)、グレード1・2・3・4・5と分かれており、松山大会はグレード5で、ITFジュニア大会では最下位グレードとなる。つまり、伊達さんが作ったジュニア大会は、プロになるための第一歩を踏み出すための意味合いが強いものとなる。
ただし、これはあくまでプロとして階段を登っていくための一つの方法と捉えるべきだ。日頃から伊達さんは、ITFジュニアランキング獲得の重要性を説きつつ、ジュニア選手が見せるプレーの内容も重視している。プレー内容の中で、将来への可能性や、プロへ向けてどう成長していけるのかを観察する。ジュニア選手たちのITFジュニアランキング獲得とプレー内容のバランスを見極めるのは、ジュニア強化の難しさの1つだと多くの育成者が悩むところだが、伊達さんもそのことを感じている。
「そこが一番難しいところですね。やっぱりある程度ポイントを取って、ランキングも上げていかないと、先が見えて来ないし。そこ(ランキング獲得)ばかり重視してしまうというところで、(選手の成長との)バランスが難しいんですけど。ただ、ある程度目指しているところのテニスがあれば、そこそこ……、そこそこという表現がいいのかわからないですけど、ある程度は勝てるテニスになるだろう」
ジュニア選手たちが、プロに向けてどんな道を辿るかは、もちろん各自の才能や努力によるところが大きく、選手として成長できるかどうかは選手自身の覚悟にかかっている。だが、ジュニア時代は、選手といってもまだまだ子供であり、周囲の大人からのサポートがやはり欠かせない。
伊達さんは、「私ができることは限られていると思うんですけど」と前置きしつつ、自分が元プロテニスプレーヤーであったという立場を踏まえ、できるだけ選手目線で、ジュニア選手が戦いやすい大会を作り、プレーしやすい環境を提供できればと考えている。
(後編に続く)