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「シバターvs久保優太」の八百長問題について

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:PantherMedia/イメージマート)

大晦日恒例の格闘技イベントRIZINにて、八百長と目される行為があった問題ですが、やっとイベント主催者側の公式見解&処分の発表がありました。本日は格闘技サイドではなく、ギャンブル業界側の専門家として一連の問題についてコメントしてみたいと思います。

まずは以下、RIZIN公式youtubeチャンネルより一連の問題に対する榊原CEOのスタンス。

まず今回のシバター選手および久保優太選手(以下敬称略)の一連の疑惑に関して、あくまで「1ラウンド目を流そう」という台本を申し合わせしただけであって、意図的に「負ける/勝つ」などを行った八百長とは違うという論調について。

これに関しては、上記youtube動画上で榊原CEOも言葉を濁しながらも「アレは八百長ではない」という立場をとっていますが、少なくとも多くのスポーツ種がベット(賭け)の対象となっている我々業界側の常識で言えば「1ラウンド目を流そう」という申し合わせは立派な「八百長」行為の範疇です。今回の「シバターvs久保優太」問題も含めて、世の中では勝ち負けに直接関与しなければ八百長ではないかのような論調がとられがちですが、スポーツベットの世界では必ずしもその試合の勝敗結果だけではなく、例えば格闘技の試合で「1ラウンド目で勝負が決するかどうか」など、多様な項目での賭けが成立しています。例えば、今回シバターおよび久保優太による「1ラウンド目は流す」という申し合わせは、その様な多様な項目での賭けの結果に確実に影響を与える行為であって、それを事前に意図してやったのであれば間違いなく八百長にあたる行為。

もっと言うのならば、スポーツベットに絡んでスポーツ選手に持ち込まれる八百長というのは、寧ろ試合の勝敗に直接絡むものが主流ではなく、選手自身が「これくらいなら大丈夫じゃないか?」と誘惑に負けてしまいがちな軽微なもの(に見えるもの)であることが殆どです。なので「勝敗に直接絡まない」ことを理由にして「アレは八百長ではない」とする論は、そもそも世の中に存在する八百長の認識そのものを間違えていると言ってよいかと思います。

次に今回の一連の問題が不幸にも発生してしまった事の最大の原因である、RIZINと参加選手の契約書の問題。上記youtubeチャンネルではRIZIN榊原CEOは、その問題が選手と主催者の間で結ばれている契約書そのもに有ることは認めていますが、一方でその問題の内容についての分析は個人的には間違っていると思います。

以下、上記youtubeチャンネルの榊原CEOのコメントより引用:

我々の契約書の中でいうと、契約書上も(対戦相手同志が)コミュニケーションを取ることの規制、規定がないんです、これまでは。当然、無気力な試合をしてはいけないとか、八百長をしてはいけないとか規定があるし、罰則もあるんだけど、直接選手間同志で試合前にコミュニケーションをとってはいけない、試合のことに関して話してはいけないなんてこれまで規定する必要がなかった。

でも、今後の中ではこの契約書の中に今回シバター選手がとった行動は、二度と今回起こったことがないように、契約書の中に事前に選手とか選手のセコンドとか関係者が相手方の選手と試合の内容に関して直接に話し合うことは絶対禁止をするという条項を入れてゆきたいという風に思っております。

多くのスポーツ競技、特にプロスポーツ競技においては、殆どの場合がチームやリーグに加入する時に選手がサインを求められる「選手憲章」の中に、上記榊原CEOが指摘した無気力試合や八百長の禁止という項目が存在します。ただ、この「無気力試合や八百長行為の禁止」というのは、実際にそれが行われた時に本当に行為があったのか/なかったのかを認定するのは不可能。本当に試合で手を抜いたかどうかなんてのは結局選手本人でなければ判らないワケで、例えば今回のシバターvs久保優太のように選手側が「八百長行為はない/無気力試合はない」と言い張ってしまえば、その先の真偽を追求をすることは実質不可能であるわけです。

で、今回その解決策として榊原CEOは「選手同士が試合内容に関して直接話し合うことを禁止する」という新たな契約書の項目を設けることでそれに対処するのだと表明しているわけですが、それもまた少し対処を間違っている。例えば、近い未来に対戦を予定している選手同士が同一メディア誌面上で取材を受けたとか、もっと言えばたまたまどこかですれ違う場面があったとして、「互いにいい試合にしましょう」のようなコミュニケーションがあった場合、上記のような契約書の作りだとその行為そのものが契約上の違反行為となってしまう可能性があります。なので、殆どのプロスポーツの世界ではその様なコミュニケーションまでもを禁止行為とすることはありません。

では多くのプロスポーツの世界で何を定めるかというと「無気力試合や八百長の禁止」と並んで、その様な「持ちかけ」をされた場合の報告義務を選手に課し、その報告義務違反に対しても「無気力試合や八百長の禁止」に準ずる形の罰則を設ける形で対処します。例えば今回の「シバターvs久保優太」問題で言えば、試合の中で実際に無気力試合や八百長行為があったかどうかの認定は不可能ですが、一方でその前提となるLINEのやりとりや電話の録音など客観的事実として八百長の「持ちかけ」があったことを示す客観証拠はあるわけですから、それを報告していない場合には契約違反(選手憲章違反)として処罰することは出来るようになる(※但し、今回の一件に関してはその様な契約条項はなかったのなら「処分なし」で正当ですが)。それが一般的なプロスポーツ競技における八百長抑止の手法であるかなと思うわけです。

今回の「シバターvs久保優太」の一件は、あくまでトリックスターとしてのシバター単独の行動が発端のものであり、その背後に大きな組織悪があったわけではないのでしょうが、RIZINは元より日本の多くのスポーツ競技は既に諸外国ではスポーツベットの対象とされており、そうである限りにおいては各選手が組織悪による八百長持ちかけの対象に既に「なっている」と考えるべき。その様な状況において、RIZINがこれまで行ってきた選手契約は非常に脇の甘いものであったと言わざるを得ないわけですが、今回の一件を糧にして八百長のない健全な試合運営を行うことが出来る環境を整備して頂ければ幸いです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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