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バンコクで感じた嫉妬心 常識を覆すタイ代表サポーターの応援スタイル

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
試合前に発炎筒を焚いて気勢を上げるタイ代表サポーター(撮影者:内海賢祐)

正直に言って、タイ代表サポーターの応援を羨望の眼差しで見ることになるなんて、思いもしなかった――。

9月6日、ラジャマンガラスタジアムの現地で完全アウェイの雰囲気を体感した筆者は、試合には2-0で勝ったが、ちょっとした敗北感を味わっていた。

2008年に南アフリカワールドカップのアジア3次予選で来た時は、スタジアムに空席が目立ち、タイ代表サポーターの応援もさほど盛り上がっていなかった。それがこの8年間でタイプレミアリーグの成長もあり、「サポーター文化」が熟成されたように感じる。

タオルマフラーを掲げて応援歌を歌うタイ代表サポーター(撮影者:ツンさん)
タオルマフラーを掲げて応援歌を歌うタイ代表サポーター(撮影者:ツンさん)

テレビのモニター越しには伝わらなかったかもしれないが、タイ代表サポーターの応援はとにかく迫力があった。世界中で様々なスタイルの応援を見てきている筆者でも、度肝を抜かれた。日本人に用意されたアウェイゾーン以外はほぼタイ人で埋め尽くされ、全包囲網でタイランドコールが繰り出される様子は圧巻の一言だった。

特に複数のサポーターズグループがホームゴール裏、バックスタンド、アウェイゴール裏に分かれて陣取って、コール&レスポンス形式で交互に歌い合う応援スタイルは、さながら本場ヨーロッパの雰囲気を醸し出していて、軽く嫉妬を覚えた。

対戦相手へのリスペクトを忘れない応援手法

試合前には一部のサポーターズグループが、スタジアム外で発炎筒を焚いて集会を開いていた。欧州の荒々しい応援手法を真似しつつも、スタジアム内では一切発炎筒は焚かず(もしかすると厳しいセキュリティチェックで没収されただけかもしれないが)、対戦相手の日本代表にブーイングを一切浴びせなかったのは印象的だった。

それどころか、日本代表の選手たちがアップのためにピッチに姿を現した場面では、スタジアム全体から拍手が巻き起こったくらいだ。ワールドカップ出場権を懸けた「真剣勝負」の場で、対戦相手を歓迎するムードに包まれる試合は、今まで筆者は見たことがない。

選手入場時に掲げられた日本のキャラクターをあしらったフラッグ(撮影者:footysab)
選手入場時に掲げられた日本のキャラクターをあしらったフラッグ(撮影者:footysab)

選手入場時にバックスタンドで掲げられたジャイアントフラッグには、タイを象徴するエレファントがモンスターボールを持ち、日本を代表するキャラクター、ピカチュウやスーパーマリオ、ドラえもんなどを追い掛ける様子が描かれていた。

本来、ジャイアントフラッグというものは制作費がかかるので、使い回しがきくものを作ることが多いが、日本戦のためだけにこのフラッグを作った点においても日本へのリスペクトを感じた。

独自の発展を遂げるタイ

更に試合後には、結果が完敗だったにもかかわらず、今年のEUROでアイスランド代表が行って話題になったバイキングクラップ(選手とサポーターが一緒に頭の上で手拍子をする儀式)を選手とサポーターが一体となって行っていた。

発炎筒を焚くなどの過激な応援手法を取り入れつつも、対戦相手へのリスペクトを忘れずに、試合に負けても選手を讃える流行りの儀式を行う、いわば「良いとこどり」の応援スタイルはある意味、「微笑みの国」ならではと言えるのではないだろうか? 応援の仕方に正解などないのだ。

サッカー文化において、独自の発展を遂げるタイ。そう遠くない未来には、代表チームの実力のみならず、「サポーター文化」も日本は追い抜かれてしまうかもしれないと危機感を抱く試合となった。

アウェイ遠征はこういった現地でしか体感できない経験を積めるのが醍醐味と言える。筆者は現地ならではの体験を求めて、来月のオーストラリアアウェイ戦も遠征する予定だ。

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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