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昇格組のC大阪堺レディースがなでしこリーグ単独首位に。伸び盛りの選手たちが見せる2年越しの成長曲線

松原渓スポーツジャーナリスト
メンバーの入れ替わりが少なく、年を重ねるごとに連係が強化されている(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【2度目の1部挑戦】

 小型の魚は、海の中で一つの大きな塊のようになって移動する。一つの大きな生き物に見せかけて外敵から身を守るためだ。

 なぜ、互いにぶつかることなく、一糸乱れぬ方向転換ができるのだろうか?

 答えは、体の仕組みと組織のルールにある。魚は体の側面にある「側線」という器官で水流や水圧の変化を感じて味方の動きを捉え、「衝突回避(ぶつからない)」「併走(速度を合わせて味方と距離を保つ)」「接近(離れすぎないよう近づく)」といったルールに従って動くのだという。

 サッカーの試合でも、似たような場面に遭遇することがある。

 8月9日に行われたなでしこリーグ1部第4節、3連勝同士の直接対決となった浦和レッズレディースとセレッソ大阪堺レディースの一戦は、両チームの組織力がぶつかり合う、見応えのある一戦だった。

 浦和は昨季リーグ優勝争いを繰り広げ、1週間前の第3節では昨季4冠の日テレ・東京ヴェルディベレーザに勝利しており、ホームの浦和駒場スタジアムで戦うこの試合も有利と見られていた。だが、大方の予想を裏切ってこの試合を制したのは、昇格組のC大阪堺だった。

 前半18分に、16歳のFW浜野まいかが決めたゴールが決勝点となった。

 C大阪堺の平均年齢は19.6歳(8月14日現在)と、現在のなでしこリーグ1部では群を抜いて若い。選手のほとんどがアカデミーからの生え抜き選手で構成されており、基本的に他チームから補強はしない。年代別代表選出経験を持つ原石が集まり、中学生からともにプレーする選手たちのコンビネーションは年々練度を高めている。

 ボールの動きに合わせて複数の選手たちが一斉に体の向きを変えながら動くディフェンスは、互いの動きを感覚的に把握しているかのようで、冒頭に記した魚の群れを想起させた。

 C大阪堺にとって、今季は2度目の1部挑戦だ。初めて臨んだのは2018年。同年は2勝2分14敗の成績で、最下位で2部に降格した。だが、シーズンを通じて竹花友也監督はほとんどの試合で交代枠を使い切り、選手たちの経験値を上げている。選手たちも自分たちに足りないものを前向きに受け止めている印象があった。

 そして昨季、C大阪堺は岡本三代監督の下で2部を戦い、1年で1部に返り咲いた。昨年セレッソ大阪U-23でコーチ兼アカデミースカウトを務め、今季再びレディースの監督に復帰した竹花監督は、その成長をこう語る。

「2年前に比べると、選手たちが成長して自分たちがやりたいことができるようになってきました。今は『とにかく自信を持ってやれば大丈夫』と常に伝えています。(自分が)昨年、男子(セレッソ大阪U-23のコーチ兼アカデミースカウト)を見た経験も大きかったですね。それまで(レディースも)男の子の基準で指導してきたつもりだったのですけど、一回男子に戻ると『まだまだ違うな』と感じて、今は普段の練習からパススピードも意識させています」

 年齢が近く、濃密な経験を共有してきた選手たちは、成長曲線も似るのかもしれない。C大阪堺は浦和戦で、2年前からひとまわりスケールアップしたサッカーを見せた。

【勝負を仕掛けた20分間】

 挑戦者たちの気迫は、試合開始早々のプレーに現れていた。キックオフの笛と同時に、ボランチのMF林穂之香が左前方のスペースに向かってボールを大きく蹴り出し、浦和が最終ラインでパス回しを始めるや否や、トップのFW宝田沙織と左サイドハーフのMF北村菜々美、ボランチのMF脇阪麗奈が連動してプレッシャーをかけた。その後も相手にサポートの暇(いとま)を与えず、矢継ぎ早にパスコースを塞いでいく。

「浦和の選手は技術があって、フリーにさせると怖いので、『最初からハイプレスでいかないとやられる。判断する時間を相手に与えないぐらいのテンポでいこう』と送り出しました」

 竹花監督は先手必勝を狙っていたことを明かしている。

 2年前との違いは、たとえば開始5分すぎからのC大阪堺のパス回しに見ることができた。トラップが選手個々の足下にピタリと止まり、密集の中でもボールを奪われず、球際でも負けていない。

 C大阪堺の基本フォーメーションは3-4-3。4-2-3-1で戦う浦和にとってはマークする選手が掴みにくい。浦和がそのギャップに対応するまでの序盤に、C大阪堺はいくつかの決定機を創出した。

 その一つが11分のシーンだ。脇阪が自陣右サイドでタメを作り、前線で鋭い動き出しを見せた浜野にスルーパス。これが浦和のファウルを誘い、PKを獲得。しかし、林が右隅を狙ったPKは浦和のGK池田咲紀子にコースを読まれて止められる。

 それでも、C大阪堺の勢いは止まらない。5分後にはショートカウンターから宝田がポスト直撃のシュートを放つと、その3分後に先制点が生まれる。左サイドバックのDF小山史乃観(こやま・しのみ)が脇阪のパスを受けた瞬間、ハーフウェーラインの手前にいた林が相手ゴールに向かって猛然と走り出す。オフサイドぎりぎりで小山のパスを受けた林は、飛び出したGK池田の手前で中央にボールを折り返し、これを、浜野が追走する複数の浦和ディフェンダーを振り切って流し込んだ。理想的な動き出しでゴールをお膳立てした林は、この場面をこう振り返る。

 

「(PKを)決められなくて申し訳ない気持ちやったんですが、チームメートが『早く切り替えや』とか『大丈夫』と声をかけてくれて少し気持ちが楽になりましたし、外したことで『絶対に点を取らな』と思っていました。試合が始まってから何回か、フォワードの選手がオフサイドにかかっていたので、2列目から飛び出した方が有効かなと思って動き出しました」

 その後、選手の配置を替えて流れを引き寄せた浦和は、後半に入ると169cmのFW菅澤優衣香とDF高橋はなをターゲットにロングボールで攻勢を強め、セットプレーでは170cm台のDF長船加奈とDF南萌華も加わり、何度もゴールに迫った。だが、C大阪堺はこの時間帯を全員守備で耐え凌ぐ。

 竹花監督は77分に169cmのDF筒井梨香を最終ラインに投入し、フォワードの宝田をセンターバックに下げた。宝田は、年代別代表でGKからFWまで全ポジションをこなした異色の経歴の持ち主で、170cmの高さがある。高さと強さで浦和の攻撃を跳ね返した。

 30度を超える酷暑の中で90分間ピンチの芽を摘み続けた脇阪は、終盤に足を攣っていたが最後まで走り抜き、終了の笛が鳴ると仲間とともに最高の笑顔を弾けさせた。

 序盤に先手を取り、劣勢の時間は割り切って守り、宝田、浜野、FW矢形海優の3トップのスピードを生かした精度の高いカウンターから追加点を狙うーーC大阪堺は明確なゲームプランで勝利を引き寄せた。

 高校1年生の浜野は、近い将来のブレイクを予感させる。竹花監督は、「彼女は走力も毎試合チームトップクラスで、すごく伸びている。練習が大好きで、ずっとボールを蹴っているので、『やりすぎや』と止めることもありますよ(笑)。チャンスは作っているけれど、持っている能力からしたらまだ足りないです」と、その潜在能力を高く評価する。

 22歳のGK西中麻穂は、1部で長く戦ってきたかのような風格でチームを落ち着かせ、平均年齢17.3歳の若い最終ラインはプレッシャーを恐れずにパスをつないだ。そして、中学生の頃からチームを牽引してきた主軸が揃う中盤は、ゲームをしっかりとコントロールした。82分には林がドリブル突破からバー直撃のシュートを放ち、個の力を印象付けた。

 竹花監督は、3年前の冬の皇后杯で浦和と初対戦した時の記憶をたぐり、チームの成長と勝因についてこう語る。

「最初に浦和と対戦した時、キックの距離が出なくて苦しんだのをよく覚えています。今はGKも含めて蹴れるようになったので、そこは成長したところですね。(今季)開幕してからの3試合はずっと、守備のマークの受け渡しや、縦ズレ、横ズレの動きがうまくいってないシーンがあったので、全員で連動するように練習を重ね、うまくいくようになりました。以前はよくセットプレーで失点していましたが、体を張って粘り強く戦えるようになってきたと感じています」

【「点を取れる」ボランチへの道】

 昇格したばかりのチームが開幕4連勝で単独首位に立ったことは、多くの人を驚かせた。

 1部で勝てなかった18年や2部で培ってきた経験を糧に、今季はコロナ禍でも強度の高い練習をこなしてきたことが、快進撃を支える要因だろう。林は自分たちの現在地をこう話す。

「(今季の)リーグが始まる前は、2年前のようになかなか勝てない試合や苦しい時間が続くんじゃないかという不安もあったのですが、初戦(愛媛FCレディース戦)で逆転勝ちできて、勢いに乗れたのが大きかったと思います。いつも同じメンバーでやっているので、これまではそれぞれの成長を感じることがあまりなかったのですが、(浦和戦は)相手と1対1で渡り合えて、競り勝てる場面もあったので、2年間で個々が成長したんだなと感じました」

主将として4年目となる(写真は17年入替戦:keimatsubara)
主将として4年目となる(写真は17年入替戦:keimatsubara)

 司令塔の林は、これまでの重要な試合で必ずと言っていいほど決定的な仕事をしてきた。

「ボランチでも点を取って欲しい」。竹花監督は2年前に伝えたことを、林が着実にこなせるようになったと感じている。「コツコツやれるタイプなので、それが今の成長につながっているのかなと思います」

 林自身は、昨年秋に得点源の宝田がケガで離脱したことをきっかけに、自分が得点を取らなければ、と意識に変化があったことを明かした。堅実な性格で、言葉の端々に責任感の強さも感じさせる。その強い想いをプレーで示せる勝負強さは、C大阪堺が誇る武器だ。

 猛暑の中、厳しい戦いは続く。次は中5日で、8月15日(土)にリーグ5連覇中のベレーザとホームのヤンマースタジアム長居で対戦する。

「昇格してきたチームなので、どの相手に対してもチャレンジしていく気持ちが大切だと思っています。苦しい時間帯を自分たちの時間にできるようになったら、戦い方の幅が広がって強いチームになれると思うし、もっと自分たちのプレーで勝負できるようになりたい。みんなまだ若く、どこで躓(つまず)くかわからないですし、相手に飲まれないように、自分が気にしながらやっていけたらと思います」

 林は、闘志と新たに芽生えた責任感を静かに言葉に込めた。2年前は2戦2敗だった女王に、C大阪堺はどんな戦いを挑むのか。注目の一戦だ。 

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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