【深掘り解説】なぜエンゼルスは主力5選手との契約を見返りなしで放棄するのか?
8月29日(日本時間28日)に、ロサンゼルス・エンゼルスがルーカス・ジオリト、マット・ムーア、レイナルド・ロペスの3投手、ハンター・レンフローとランダル・グリチックの外野手2人、主力5選手をウェイバー公示にかけたと報じられた。
このニュースを真っ先に報じたのは、これまでにも数々のスクープを連発してきたESPNのジェフ・パッサン記者。
ジオリトとロペスはエンゼルスが有望株との評価を得ていた若手マイナーリーグ2選手と交換で7月末に獲得。プレイオフ出場に向けての助っ人として獲得したが、わずか1ヶ月で手放す決断に踏み切った。
この5選手に共通するのは、プレイオフ出場を狙うチーム、及びプレイオフでの勝ち上がりを狙うチームが補強したいと思う選手であることと、今季限りで契約が切れることの2点。
・ジオリト 29歳 7勝11敗、防4.45 1040万ドル
・ロペス 22歳 55試合登板、2勝7敗6S、防3.86 363万ドル
・ムーア 34歳 40試合登板、3勝1敗、防2.30 755万ドル
・レンフロー 31歳 打率.239、18本、52打点 1190万ドル
・グリチック 32歳 打率。261、11本、34打点 933万ドル
エンゼルスには他にもジオ・ウルシェラのように今季限りで契約が切れる高年俸選手(年俸840万ドル)もいるが、ウルシェラはケガで故障者リストに入っており、今季の復帰は無理と言われているので、ウェイバーで他チームが獲得に動く可能性が極めて低いので、今回は他チームが欲しがる5選手が対象となった。
ウェイバー公示された選手は、成績が下位のチームから獲得権利があるが、プレイオフを諦めたチームがこれらの選手を獲得するメリットはないので、成績上位チームが獲得する可能性が高い。
ウェイバーで獲得した選手にはプレイオフの出場権が与えられるので、先発が足りないチームにとってはジオリトは大きな助けになるし、プルペンの層を厚くしたいチームにとってロペスやムーアは魅力的な存在だ。
また、トレードとは異なり、ウェイバー公示された選手は、交換要員なしで獲得できる。
チームの将来を犠牲にして、大きな代償を支払ってジオリトやロペスを獲得したエンゼルスが、僅か1ヶ月後にそれらの選手を無償で手放すのは理解が難しいが、エンゼルスの狙いはチーム総年俸の削減にある。
7月に年俸1000万ドルを超えるジオリトや、1000万ドル近いグリチックを獲得したエンゼルスの今季総年俸は2億4170万ドルになり、贅沢税対象の2億3300万ドルを超えてしまった。
これまでも贅沢税の支払いを極度に嫌ってきた球団オーナーのアルトゥーロ・モレノ氏が、大谷をチームに引き留めるために、贅沢税を支払うことを渋々と認めたからこそ、エンゼルスは大型補強に動くことができた。
しかし、大型補強以降、チームは負けが続き、プレイオフ出場への道は遠ざかってしまった。
今回のチーム解体は、エンゼルスが白旗を上げたことを意味し、プレイオフ出場を諦めた。
今季の総年俸を2億3300万ドル以下に下げるためには、高年俸選手を放出するしかない。
一番の早道は不良債権のアンソニー・レンドーンを放出することだが、残り契約が3年総額1億1400万ドルも残っているレンドーンを引き受けてくれるチームは皆無。レンドーンをクビにしても、残り契約の支払い義務はエンゼルスにあるので、チーム総年俸を下げることはできない。
贅沢税の支払いを逃れるためには、最低でも870万ドルを削減したいエンゼルス。
ジオリトの今季年俸は1040万ドルだが、ホワイトソックスとのトレード(7月26日)はシーズン半ば以降だったので、エンゼルスの負担分は375万ドルとなっている。ジオリトをウェイバーで獲得する球団は、約188万ドルを負担することになり、その分だけエンゼルスの総年俸は下がる。
単純計算だが、ジオリト(188万ドル)、ムーア(125万ドル)、ロペス(65万ドル)、レンフロー(198万ドル)、グリチック(158万ドル)の5選手全てがウェイバーで動けば、合計で734万ドルの削減となる。
これでは870万ドルに足りないが、実はグリッチクをトレードで獲得した際に、ロッキーズとの交渉で200万ドル分の年俸をロッキーズが負担することになっているので、その分を合わせると870万ドルに達して、贅沢税の支払いを逃れることができる。
ちなみにモレノ・オーナーが忌み嫌う贅沢税だが、対象1年目のチームは贅沢税対象額を超えた2割を贅沢税として支払う。2年連続で超えたチームは3割、3年以上連続の場合は5割とペナルティが増えていく。