「会話効率」をアップして、時短と目標達成を両立するテクニック
昨今、多くの企業が関心を持っているキーワードが時短(労働時間短縮の促進)です。「ブラック企業」などという言葉が市民権を得、世間では労務管理に対する意識が高まっています。残業や時間外労働をどう減らすかに頭を悩ませている人は多いことでしょう。とはいえ、やるべき仕事があるのに労働時間だけを減らすことは現実的ではありません。
世間は「時短」に関心がありますが、現場では「成果」を出すことに焦点を合わせています。両方同時に叶える、いい方法はないのでしょうか。その一つとして、私は「会話効率」をアップさせることをお勧めします。
「会話効率」をアップするには、マネジメントサイクルを、正しく、速く、まわすことです。「会話効率」がアップすることで、
●「話」がはやい
●「話」がつながる
●「話」が前に進む
……という感覚を覚えるはずです。
「会話効率」が悪いと、
●「話」がまとまらない
●「話」がこじれる
●「話」が進まない
……という感覚を覚えることでしょう。「作業効率」と異なり「会話効率」は、メンタルにも直接的な悪影響を与えます。話がまとまらなかったり、話がこじれたりすることで、短い時間で結果を出そうとしている人の努力を台無しにするからです。人間関係をこじらす遠因にもなるので特に意識したいですね。次に、「会話効率」の悪い、具体的な事例を列挙します。
■ 会議が長い割に、何も決まらない
■ 打合せの内容が途中で脱線していく
■ 意味のないミーティングに付き合わされる
お互いの関係を円滑にする表面的なコミュニケーションならともかく、何かの問題解決をするための会話であるなら、以下の3つを心掛けるべきでしょう。
■ 不必要な会話をなくす
■ 会話を短くする
■ 正しく会話を前に進める
それでは、どうすれば「会話効率」がアップするのでしょうか。まず「話し手」が特に意識すべきことを3つ、以下に記します。
■ スタンスが合っているか?
■ 正しい前提知識が相手に備わっているか?
■ 客観的なデータに基づいた事実を論拠にしているか?
この3つが揃っていないと、会話がゆがんできます。まず「スタンス」を合わせることは不可欠です。お互いで協力して話を前に進めることを約束させるのです。
「職場の5Sを徹底させたいと思っているのだが、何かいいアイデアはないかな」
「そうですね。みんな整理整頓が苦手ですからね」
「先日も社長が怒っていた。お客様からあずかった資料さえ整理しないスタッフもいたからだ」
「そうですよね。どうしたらいいんでしょうね」
「何かいいアイデアはないかね」
「みんな、意識が低いですよね」
「何をさっきからのんきに言ってるんだ。私は君にアイデアを出してくれと頼んでるんだよ」
「え、あ、申し訳ありません」
このようにスタンスが合っていないと、相手から期待どおりのレスポンスが返ってきません。問題を解決するつもりがない、積極的に協力する姿勢のない相手と話していると、、ひどい場合は「壁」に向かって話しているような感覚に襲われることもあります。「会話効率」をアップするために、双方の「スタンス」を合わせることは不可欠で、スタンスが合わない人を会議などに呼ばないことも重要です。
話の前提となる条件や知識を事前にそろえておくことも大切です。以前、ある研修に参加していたとき、講師から、
「皆さんは、どのようなときに幸せを感じますか?」
と質問されました。当てられた私は、とても漠然とした質問だったので、当時思っていたことを口にしました。
「私が幸せを感じるとき、と言ったら……。子どもが生まれてまだ3ヶ月なので、妻と一緒に子どもの寝顔を眺めているときが、いま一番幸せを感じるときです」
一応、マジメに発言したつもりだったのですが、
「そういうことじゃなくて、仕事をしているときに限定してください。『お客様に感謝されたとき』とか『高い目標を達成したとき』とか、そういうことです」
と、講師に指摘されてしまったのです。私はもう一度考え、言い直すはめとなりした。最初から講師が質問の前提条件を提示しておけば、受講者に誤解をされる可能性は低くなったことでしょう。
また、相手から「質問・確認」がないケースだと「会話効率」が格段に悪くなる可能性がはらんでいます。ミスコミュニケーションを防ぐ手だてがないからです。たとえば、
「来週の木曜日に、イベントの集客状況を報告して」
と部下に伝えたとします。しかし木曜日になって、できあがった報告資料を見ると、上司が期待したデータの記載がありません。「集客状況」という言葉の定義が合っていなかったため、部下が勝手に判断して別のデータで報告書を作成したからです。
このように「誤解」「ミスコミュニケーション」があると「会話効率」が非常に悪くなります。「だから、そういうことじゃないって! 言わなくてもそれぐらいわからないのか」と怒っても後の祭りです。「質問・確認」を怠った部下にも問題があるでしょうが、事前にお互いの「知識」を合わせておくプロセスが上司にも必要だったのです。
「集客状況というのは、イベントに参加を促すために声をかけたお客様の総数と、参加の意思表示をしたお客様の総数のことだ。さらに、当社と取引しているお客様とそうでないお客様とも区別できるようにデータを記載してくれ」
と言っておけば、部下が誤解する可能性は減ります。
3つ目の「意見ではなく、事実を論拠として用いているか」は、とても重要なことです。
「今度の新規事業は絶対にうまくいくよ。先日、来社してくれたお客様も太鼓判を押していたし」
……などといった「思い込み」を論拠にして話を進めるべきではありません。意思決定スピードは速くとも、結果が伴わないからです。正しい結果が出なければ、結局のところ遠回りとなり、再び議論をやり直すこととなります。
次に、話の「受け手」が意識すべきことを3つ列挙します。
■ 話の内容を「省略」して聞いていないか?
■ 話の内容を「歪曲」して聞いていないか?
■ 話の論点を正しく理解しているか?
話の内容を「省略」して聞く人は非常に多く、とても注意が必要です。感度が低い状態で聞いていると「早合点」「早とちり」といった誤解が生じます。「会話効率」をアップするためには「誤解」は大敵ですから、「誤解」の仕組みを覚えておくことは重要です。
「今日の夕方、部長に会うだろう。部長に会ったら、今度の昼食会を何時にスタートさせたらいいか聞いておいてくれ。明日の夕方までにお客様に連絡しなくちゃいけないから、それまでに報告してくれたまえ」
上司から依頼された部下は「かしこまりました」と返事をしたものの、翌日の昼を過ぎても報告をしません。しびれを切らした上司が部下に電話をします。
「どうして報告してこないんだ? 今日の夕方までにお客様へ連絡をしなくちゃいけないと言っただろう?」
と言っても、
「え? 今日の夕方まででしたっけ?」
と、悪びれることなく言います。
「昨夜は聞けなかったので、今日の夜にもまた部長に会いますから、今夜聞こうと思ったんです」
このように、のん気に言われると上司はガッカリします。
「もういい。俺が直接、部長に聞くよ」
「話半分に聞いている」という事例です。話の「受け手」の感度が低いと、「話し手」は何度も言い直さなくてはならなかったり、「君に頼むとよけいに遅くなる」と愚痴をこぼし、結局自分がやったほうがはやい、という事態になります。このように「受け手」が中途半端な姿勢でいると「会話効率」は非常に悪くなっていきます。
できる限り「省略」を避けるために、当事者本人に直接伝えることは重要です。会議の席上、複数の人に向かって話すと「話半分」に聞いてしまう人が増えます。ひとりひとりに言って聞かせるほうが効率が悪そうに思えるかもしれませんが、ミスコミュニケーションが起きると手戻りが増えるため、よけいに効率が悪くなることを覚えておきましょう。
話の内容を「歪曲」して聞く人も多いので気を付けたいですね。個人のフィルターによって、話の内容をゆがませてしまうのです。「思い込み」による誤解のことです。
「今年は業績がよく、過去最高の利益が出たが、こういうときだからこそ新年会は質素にやりたいと社長が言っている。豪勢にやってもいいが、謙虚な姿勢も大事にしたいということだった。そこで会場を変更してもらえだろうか。会場の変更のためにお金はかかってもいいから、あまりゴージャスな会場にしないでくれ」
このように依頼された部下が、以前よりも高級で立派な超一流ホテルの会場を予約してきました。上司は憤慨します。
「だーかーらー、質素な会場にしろと言ったじゃないか。何を聞いてたんだ。芸能人が結婚式を挙げるような大ホールを予約してどうするんだ」
「し、しかし、お金はいくらかかってもいい、と言ってたじゃないですか。今年は最高益を記録しましたし、社長も派手好きですから……」
「あの派手好きな社長でさえ、今回は利益が伸びすぎたんで、ちょっと怖くなってるんだ。気を引き締める意味合いで、質素な会場にしろと言っただろう。お金がかかってもいいと言ったのは、会場の変更にかかる費用のことだ」
部下は社長に対する「思い込み/先入観」が強く、無意識のうちに話をゆがめて聞いてしまったのです。
3つ目の「話の論点を理解しているか」は、切実な問題です。結局のところ「話し手」が言いたかったことは何だったのかを、「受け手」は要約できているか、ということです。
「今年は5種類の新商品を出したが、いずれも不発に終わった。その原因を一緒に考え、次に活かしていきたい。私は3つの問題点があったと考えている。1つ目は価格だ。競合製品と比べてコストパフォーマンスが低かったと思う。2つ目は機能性だ。アンケート調査をしたところ、消費者が必要としていない機能を多く搭載してしまった気がしている。3つ目は――」
このような話を聞いた後、「受け手」が次のようにレスポンスをしたら、話の論点が理解できていません。
「必要のない機能をつけすぎた、みたいな言い方をしてますが、私はそう思いません。だいたい商品開発に携わってもいない、あなたに何がわかるというんですか」
話には論点である「幹」と、論点を補完する「枝」や「葉」の存在があります。この「受け手」は、話の「枝」に対して過剰に反応してしまっています。このような現象を「論点がズレている」と呼びます。会話がゆがんでしまったら、元に戻そうとする努力が必要ですが、論点がズレたまま話を展開すると、会話はゆがんだまま進んでいきます。
「商品開発に携わっていないと君は言うが、私だって開発会議には定期的に顔を出していた」
「会議に出れば商品開発に携わったと言えるんですか」
「じゃあ聞くが、新商品に搭載した機能はすべて消費者のニーズをとらえているとでも言いたいのかね」
「誰もすべての消費者のニーズをとらえているだなんて言ってませんよ。消費者はいろいろな機能を欲しがりますからね」
「実際に売れ行きが悪かったじゃないか」
「それが私の責任なんですか?」
「……んだとォ! さっきから黙って聞いてればいい気になりやがって、君は誰に向かって口をきいてると思ってんだ」
このような状態を「話がこじれる」と呼びます。「会話効率」は最悪です。お互い感情的になってしまい、話がまったく前に進みません。論点は「話し手」が冒頭で口にしています。「今年は5種類の新商品を出したが、いずれも不発に終わった。その原因を一緒に考え、次に活かしていきたい」なのです。「受け手」が正しく論点をつかまないと、話がわけのわからない方向へ進んでいき、「会話効率」はドンドン悪化します。
会話をする前の、ちょっとした準備や心構えによって「会話効率」は格段にアップします。前述したとおり「会話効率」が悪いと、当事者たちは精神的に疲れます。「作業効率」とはその点で異なり、深刻な問題なのです。時短と目標達成を両立させるため、少しでも「会話効率」を良くすることを考えていきましょう。