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<朝ドラ「エール」と史実>「裕ちゃんはダンスばかりやって」との証言も。“踊り子と初恋”は史実どおり?

辻田真佐憲評論家・近現代史研究者
(写真:アフロ)

再放送中の朝ドラ「エール」。主人公の裕一は、川俣銀行で銀行員として働きはじめました。

登場人物や会社名などを架空の名称に変えることが多い朝ドラですが、この銀行の名前はそのままです。おじが経営者だったのも同様。

このおじ・武藤茂平は、福島県でも有数の資産家で、高額納税者として貴族院議員を務めたほどの名士でした。

史実では、商業学校を卒業したものの就職せず、ぶらぶらしていた古関裕而を、おじが見かねて就職させたようです。

あまりに暇で仕事中も作曲

さてこの川俣銀行。ドラマでは、ずいぶんと仕事がなさそうですが、実際はどうだったのでしょうか。

これは、まさにそのままです。川俣は羽二重の産地だったので、絹と生糸の市が立つ日はさすがに忙しかったのですが、それ以外の日は「とても暇」でした。

古関も当時、商業学校時代の同級生にこんな手紙を送っています。

市日以外はとても暇です。銀行がひけると小使室で木村さんと私と、私の同年配の辺見と云う銀行員と、それから運送会社の小僧さん、うどんやの番頭と銀行の破れるほど、さわいでます。これを称して『川銀ヂヤズ・バンド』と言う。

出典:福島県立福島商業高等学校創立百周年記念事業実行委員会編『久遠の希望に』。一部表記を改めた。

あまりに暇なので、古関は、銀行の帳簿の間に五線紙をはさんで作曲に励んでいたとか……。今風にいえば、驚くほど「ホワイト企業」だったわけですね。

「裕ちゃんはダンスばかりやって、仕事をやらないので駄目だ」

では、肝心の「踊り子との初恋」は、事実だったのでしょうか。

結論からいえば「初恋」は記録に見えませんが、ダンスに励んでいたのは事実だったようです。

川俣町に住んでいた古関の親族は後年、このように証言しています。

ある時紺絣(こんがすり)の着物を着て出てきて、茂平さんの娘のみほ子さんたちと「お手を拝借」などとふざけあって、ダンスをやったり歌を歌ったりして遊んだ。少しモダンな感じのする人だった。

川俣銀行の給仕をしていた人が、「裕ちゃんはダンスばかりやって、仕事をやらないので駄目だ」と言っていたが、銀行が終わるとみんなで音楽やダンスをして遊んでいたのでそんなことを言ったのかもしれない。

出典:齋藤秀隆『古関裕而物語』

これは、さきほどの古関の手紙とも一致しますね。朝ドラは、このような記録から、初恋の物語を作り上げたのでしょう。

いずれにせよ、史実の古関は、就職したといっても、かなり恵まれた環境にいたことがわかります。こういうところから、国際的な賞を取ったとされる「竹取物語」も出てくるわけです。

評論家・近現代史研究者

1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『「戦前」の正体』(講談社現代新書)、『古関裕而の昭和史』(文春新書)、『大本営発表』『日本の軍歌』(幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)などがある。

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