ソニーの絶好調決算の“罠” 各ニュースで割れる「PS5」と「鬼滅の刃」の扱いの差
ソニーグループの2020年度(2021年3月期)通期連結決算が28日、発表されました。各メディアは、最終的なもうけを示す「当期純利益」が約1兆円を超え、売上高、本業のもうけを示す営業利益と合わせて、いずれも過去最高になったことを取り上げました。ですが、決算の記事を書く記者やライター泣かせでした。
同社の売上高は約8兆9994億円、営業利益は約9719億円は過去最高でして、ここも見出しどころですが、やはり大台の1兆円を突破した当期純利益はインパクトがありました。ですが好調の理由になると少し困ることがあります。決算短信にある通り「ゲーム事業が好調」としたり、「新型コロナの巣ごもり」効果」としたり、各グループが概ね良かったことをとすると、内容が抽象的すぎてインパクトに欠けるのです。
<ソニーグループ 売上高の前年比プラス要因>
・ゲーム事業、金融事業の大幅増収
<マイナス要因>
・映画事業の大幅減収
<営業利益のプラス要因>
・ゲーム事業、エレクトロニクス事業、音楽事業の大幅増益
<マイナス要因>
・イメージング&センシング事業の大幅減益
記事にするには、読者に伝わるようより具体的な事例が好まれるのです。そうなると、世界的な品切れ状態にある新型ゲーム機「PS5」のヒット、アニメ映画「鬼滅の刃」の社会的ブームを理由にすると、読者は「なるほど!」となります。見出しも立つし、バッチリなのです。
しかし困ったことにPS5は、売上高には貢献していますが、利益への直接的な貢献はゼロどころかマイナスです。理由は単純で、製造価格よりも安く売っている「逆ザヤ」(戦略的価格)のためですね。要するに、ソニーグループの「過去最高益」と、「PS5のヒット」を合体させると、事情が分かる人が見ると「え~?」となるのです。
「鬼滅の刃」も、ソニーグループの最高益に貢献しているのですが、音楽事業の中の三つめの主要因になります。アニメビジネスを計上する音楽事業では、ストリーミングサービスや映像メディアのプラットフォームの増収の方が大きいのです。
<音楽事業の売上高 前年度比増の理由>※上から順に主要因
・音楽制作におけるストリーミングサービスからの収入増加
・映像メディア・プラットフォームの増収
・「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の貢献などによるアニメ事業の売上増加
・モバイル向けゲームアプリケーションの収入増加
<営業利益増の理由>
・増収の影響
・Pledis株式の一部譲渡にともなう売却益(65億円)
・海外での事業譲渡にともなう利益計上(54億円)
興収400億円に迫ろうかという、映画史に残るであろう社会的大ヒットを飛ばしており、年間売上高9兆円を誇るソニーグループの決算に「鬼滅の刃」の固有名詞が刻まれたこと自体に意味はあります。しかし、アニメビジネスの構造上仕方のないところもあるのですが、これだけ世間をにぎわせたのですから、ビジネス的にもっと報われてほしいと思うのです。
今回のソニーグループの決算記事は、売上高と利益を切り分けて、事業のポイントを意識をしないと難しいのです。ソニーグループは、分かりやすく書いているのですが、記者やライターがPS5と鬼滅の刃を意識しすぎると“罠”になっていて、「PS5と鬼滅の刃のヒットなどで、過去最高益になった」となりがちなのです。
逆に言えば、PS5と鬼滅の刃について、触れても因果関係をキッチリ書き分けている記事、媒体は安心できるとも言えますね。