コロナ禍でも行列ができるアパレルブランド#FR2。そのヒットの理由を図解します。
2021年5月、岐阜県瑞穂市、田舎の一本道に長蛇の列ができている。大都市圏では3度目の緊急事態宣言が出ているさなか、あまりに人が集まりすぎて、警察がパトロールに来た。その行列の先にあるのは1台の黄色いワゴンだ。
コロナ禍において、爆発的に売上を伸ばしているアパレルブランド#FR2をご存知だろうか?この黄色いワゴンは、その#FR2の移動販売車だ。週末ごとに移動しては、あちこちで服を売っている。出現場所は直前まで秘密。なのに、またたく間に行列ができ、1枚7,700円のTシャツが飛ぶように売れる。多い日は1日で1,000万円以上を売り上げるという。1台の移動販売車の実績としては驚異的だ。
コロナ後、外出用の服への支出は大幅に減少した
2020年、新型コロナウイルスはアパレル業界も直撃した。総務省統計局「家計消費状況調査」によると、コロナ前(2019年)に比べて、外出用の服への支出が大幅に減少した。
婦人服、紳士服とも、最大で前年比で半分以下の売上に落ち込んでいる。百貨店や大型店舗が閉まっていたこともあり、また、不要不急の外出を控える時期に外出用の服への支出が減るのは当然だろう。
「来ないなら、行っちゃえ」
アパレル業界が打撃を受けている中、どのようにしてそれを克服し、売上増をじつげんしているのか。#FR2を運営する株式会社せーのの石川涼社長に話を聞いた。
筆者 移動販売はいつから始めていますか?
石川社長(以下、石川) 2021年2月です。昨年4月に緊急事態宣言が出て、我々の旗艦店がある原宿を始めとして、全国の街から人が消えました。当然、我々の店舗にもお客さんは来ません。正直、まいったな、と。まずは、セオリー通りに経費削減をやったりECに力を入れたりしていたのですが、いつまで経ってもコロナは収まらないし、政府の対応も後手後手で期待できません。2回目の緊急事態宣言が出そうだというタイミングで、待っていてもしかたがないので「お客さんが来ないなら、俺達が売りに行くか」と、始めたのが#FR2dokoです。
筆者 実際始めてみてどうでしたか?
石川 やってよかったです。初回は2月20日と21日で、1日目が茨城県の水戸と下妻、2日目が群馬の高崎と富岡を予定していた。ところが1日目の水戸で2日分の商品が全て売り切れてしまった。同じ日に原宿でもコラボ商品の発売があってスタッフが稼働していたから、急いで追加の商品を社用車で持ってきてもらって下妻で合流したんだけど、翌日の高崎でまた全て売り切れてしまった。こんなにもたくさんの人が買いに来てくれて。待っててくれたんだな、と。
筆者 買いに来ている人はどんな人ですか?
石川 我々のお客様なので若い人が多いです。出現場所の告知にZenlyというアプリを使っているのですが、直前までどこに出現するかわからないので、カップルがデート代わりに我々を探すことを楽しんで来てくれていたりします。移動販売でしか売ってないアイテムがあるのでそれを目当てに来てくれている感じです。
「コロナ前からやってきたことの結果が出ただけ」
#FR2の顧客には若い人が多く、当然、通販には親しんでいる。通販なら販売する側もネットで注文が入れば、それを宅配で送るだけで手間がかからない。なのに、なぜわざわざ車を仕立て、人件費やガソリン代をかけて、移動販売するのか。
そのキーとなるのが「移動販売でしか売っていないアイテム」だ。もちろん、ただの限定販売であればどこのブランドでもやっている。#FR2の移動販売が成功した理由を知るためには、ブランドの成り立ちとビジネスモデルを知る必要がある。
#FR2は、2014年にインスタグラム上で始まった。ライカをもったうさぎのカメラマンが、#FR2の服を着た美女の写真を撮る。そんなコンセプトの美しい写真が並ぶ。インスタグラムのプラットフォームの伸びとともに大きく成長した。世界を目指すために、はじめから非言語でコミュニケーションできる写真という手段にこだわったという。
インスタグラムで広めて、地上戦の店舗で販売する。それがこのブランドのやり方だ。今回、は、その地上戦に店舗ではなく、ワゴン車を使っている。「今回もコロナ前からやってきたことと同じ。その結果が出ただけ」と石川社長は言う。
このやり方をやっているブランドは多い。多いと言うより、いまのインフルエンサーブランドはほぼすべてこの形だ。そして、全く売れていないブランドも数多く存在する。なぜ#FR2は成功することができたのか?それは、このやり方を成功させるために、商品作りから販売の仕方まで、徹底的に細かな戦略を積み上げていったからにほかならない。
たとえば、#FR2の服はおしゃれだが、ちょっと「洒落」も効いている。キーアイコンとなっているボックスロゴの「Smoking Kills」も、アメリカではタバコの箱に普通に描かれている警告だ。それがTシャツにプリントされている。日本で言えば、お土産物屋さんにおいてるTシャツのような感覚だろうか。「ちょっとおもしろい」と思ったアメリカのセレブやファッションアイコンが手にとってインスタにアップしてくれる。それを見た他の世界の人がこぞって「Smoking Kills」のTシャツを買う。そういう構造だ。胸のロゴやバックプリントに何を持ってくるか。そのセンスこそが、このブランドを成り立たせている。
また、このブランドでは「二次流通」もうまく使っている。いわゆる「転売」だ。
「全国にいる優秀な販売員が僕らの商品を売ってくれる」
#FR2は原宿が旗艦店だが、京都や沖縄など全国、そして海外にも店舗がある。そして、それらの店舗では、店舗独自のアイテムを販売している。「ご当地アイテム」といえばそうだが、そこに行かないと買えないことが、ある現象を起こしている。それは、ネット上での転売がされていることだ。
転売について、石川社長はどう思っているのか?
石川 それこそが僕らの狙いです。あえてECで売らないことで僕らが頑張って売りに行かなくても、全国にいる優秀な営業マン(いわゆる「転売ヤー」)たちが買ってくれて、値段をつけて売ってくれる。僕らは何もせずに全世界に販売網を持ったようなものです。
もちろん、転売する人はそれが本当に売れるかどうかの見極めを厳しくしている。#FR2がインスタグラムで広く浸透し、売れるブランドになっているからこそできる手法と言える。
ところで、石川社長はTwitterなどで、普段から既存のアパレルビジネスのあり方などに厳しい言葉を発信している論客でもある。最近は緊急事態宣言についても厳しい見方をしている。
筆者 率直なところ、今回の政府の進め方、特に緊急事態宣言のあり方についてどう思いますか?
石川 緊急事態宣言を出しておいて、状況が悪くなれば国民のせい、良くなれば政府の手柄、ただそれをしたいだけ。一回目は誰も想像出来なかったからしょうがないにしても二回目以降は何の科学的根拠の無い本気の無策だと思います。そして「アベノマスク」とはなんだったのか問いたい。
筆者 #FR2を含めた、御社の今後の展開について教えて下さい。
石川 ワクチンのおかげで徐々に世界が元に戻りつつあるのでコロナ前にやっていた世界進出をまたリスタートします。世界で勝負出来るのはコンテンツしかないので自分たちの武器(#FR2)を使い、特にアジア、東南アジアを中心に世界進出を加速させたい。
まとめ
コロナ禍によって、飲食業や宿泊業は大きな打撃を受けた。ワンピースや背広など外出用の服への支出も大幅に減少し、アパレル業界も少なからず影響を受けている。
一方で、独自の工夫をして、コロナ以前の収益を挙げているビジネスが存在する。転換点というのは、これまでの世界とのギャップが生まれる瞬間であり、ギャップには付加価値が存在する。この記事で紹介した#FR2は自らのブランドの強みに移動販売や転売といったアイデアを加えた。
転換点において、自分たちの強みを見直し、新たな付加価値を想像できるかどうかが、経営者の力量ではないだろうか。