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観光地でも都心部でも『移動難民』続出。なぜタクシーは来ないのか?

増澤陸チーフ図解オフィサー
地方でも都心部でもタクシーが捕まらない。訪日外国人は白タクを使うことも。

タクシーが来ない!

新型コロナウイルスが5類相当となって初めての夏。この三連休も観光地はかなりの人出があったようです。その一方で、観光客の足となる「タクシー」が全く捕まらない、という記事がいくつも出ていました。日本全国あちこちの地方でそういったことが起こっているようです。

なぜ、タクシーは捕まらないのでしょうか?その理由について調べてみました。

タクシーの数は減っているの?

コロナ以前も、急な荒天や、出勤時間、終電間際などにタクシーが捕まりにくい事態ということはありました。しかし、いまは時間帯問わず「タクシーが来ない」という実感を抱いている人は多いようです。タクシーの数が減っているのでしょうか?

東京ハイヤー・タクシー協会の報告によれば、タクシーの延べ実在車両数の数は減っておらず、むしろタクシー台数は増加傾向にあります(図の青線)。

一般社団法人 東京ハイヤー・タクシー協会 令和4年事業報告より筆者作成
一般社団法人 東京ハイヤー・タクシー協会 令和4年事業報告より筆者作成

しかし、その実働率(オレンジ色)は34年前の95%から、60%台へと大幅に落ち込んでいます

令和2年こそ、新型コロナ感染症といった突発事象がありましたが、その後も思うように増加していません。つまり、「タクシーが駐車場に停まっている時間」がどんどん長くなっているのです。ニーズはあるのに、なぜクルマは待機しているのでしょうか?

タクシードライバーの数は15年で4割減!

その理由は「ドライバー不足」です。実際に、タクシー運転者は減り続けています。

国土交通省「ラストワンマイル・モビリティの現況について」より引用
国土交通省「ラストワンマイル・モビリティの現況について」より引用

法人タクシーの運転者数は平成18年の38万人から、令和3年の22万人と、15年間で約40%も減少しています。また、高齢化も進んでおり、全産業の平均年齢が15年間横ばいなのに対し、タクシー運転者の平均年齢は55.3歳から60.9歳と、15年間で5.6歳上昇しています。

二種免許保有者も27万人減っている

さらに、タクシーの運転に必要な二種免許の保有者数も減少しています。

警察庁「運転免許統計」より筆者作成
警察庁「運転免許統計」より筆者作成

このグラフは、二種免許の保有者数(中型免許と普通免許の合計)です。10年間で105万人から77万6千人の26%減。タクシー運転手になるために必要な二種免許保有者の数が4分の3になってしまっています。これでは、ドライバーを募集したところで、そう簡単に採用できない事がわかります。

政府やタクシー業界が何もやってないわけではない。

この現状に対して、政府やタクシー業界が何もしていないわけではありません。これまで具体的に下記のような案が打ち出され、いくつかは実行に移されています。

● 国家戦略特区法による自家用自動車の活用拡大(実施済)

これまで地域住民を対象としてのみ認められていた自家用有償運送の輸送対象に訪日外国人をはじめとする観光客も輸送できるように。

● 人材確保に対する補助金(実施済)

国土交通省の地域公共交通確保維持改善事業として、人材育成、採用等に関する対象経費の2分の1を助成。

● 運賃の値上げ・ダイナミックプライシングの導入(実施済)

タクシードライバーの待遇改善に向けて、全国で運賃の値上げが行われた。また、需要に応じて料金を変動させるダイナミックプライシングの取り組みも始まっている。

● 1種免許による緑ナンバー(タクシー車両)の運行の提言

2種免許保有者が減少している中、タクシードライバーの数をコロナ以前に戻すために、1年間の期間限定で、1種免許保有者にもタクシー会社の車両を使って営業させてはどうかという提案。

しかし、現時点ではこれらはまだ効果として現れていない状態です。

この先は期待できるの?「2024年問題」

このように、タクシー運転手が減っているのが原因となって、「タクシーが来ない」問題が発生しています。

では、様々な施策によって、今後タクシー運転手は増えるのでしょうか?実は、残念ながらその見通しはあまり甘くありません。それが「2024年問題」と言われるものです。

●「働き方改革」による残業時間の上限

これまで運送業については適用されてきませんでしたが、2024年4月から残業時間の上限が960時間を超える事ができなくなる。

● ドライバーの拘束上限時間や休憩時間等がより厳しくなる

労働時間と休憩時間を合計した拘束時間の上限がこれまで1ヶ月あたり299時間出会ったものが11時間短縮され288時間に。また、日勤の休息時間も継続11時間を基本とし、最低でも継続9時間が必須へ。(日勤とは終業と始業を同じ日にする勤務形態)

拘束が短くなり、休息が長くなって一人あたりの労働時間が減る分、車の稼働量を増やすためにはヘッドカウントを増やす必要があります。これによって、人手不足がさらに深刻になることは間違いありません。

ライドシェアはどうなの?

需要に合わせて柔軟にドライバーの供給をする、という点では、ライドシェアという方法があります。これは、移動したい人と車を持つドライバーをアプリでマッチングさせて、タクシーのように利用してしまおう、というサービスです。日本では「白タク」行為として法律で禁止されています。

一方、海外ではUberやGrab、Lyft、Boltといったライドシェアサービスが展開されている国が多くあります。海外旅行に行った際にこれらを利用したことがある方なら、その便利さに驚いたのではないでしょうか?言葉が分からなくても行き先を指定できますし、ドライバーには評価制度があるので安心です。アプリからはチップも支払えるのですが、そのおかげか、英語が話せるドライバーであれば、話しかけると大抵は愛想よく色々話してくれます。

国交省がライドシェアを認めない理由

そんな便利なライドシェアですが、国交省は解禁に慎重な態度です。その理由としては下記が挙げられています。(参考資料 シェアリングエコノミーとライドシェアについて)

● 運行管理・車両管理が個人任せになる

現在、タクシー会社は国家資格の「運行管理者」を置いて運行状況を管理している他、車検は1年に1回となっています。そのため、未然に事故を防止する対策が不十分であるといいます。

● 事故発生時の賠償責任が個人

事故発生時の賠償責任を個人が負うことについて、国民の理解が得られないとしています。

● ライドシェアドライバーの待遇が問題になっている

実施している国ではライドシェアドライバーの待遇を巡って色々な問題が発生しているといいます。また、それによってタクシードライバーにもしわ寄せがきているようです。

● 都市部においては供給が過剰である

この資料が作られた平成29年時点においては、過剰だったようです。

しかし、実際の問題としては、運行管理・車両管理が個人任せになるのは「個人タクシー」も同じです。事故時の責任についても、タクシーはすべて任意保険に入ることが義務化されており、補償料は高くなりますが、事故の賠償責任については保険の利用が可能です。ライドシェアドライバーの待遇については改善にむけての議論が各国でなされており、また、日本でも値上げやダイナミックプライシングを開始しました。供給については、コロナ後に極めて悪化しているのは上記に上げたとおりです。したがって、ライドシェアを認めない理由については状況が変わっているように見えます。

タクシーの事故が多いのは空車時

また、公益財団法人交通事故総合分析センターの調査の調査によれば、タクシーの事故件数は空車時が実車時と比べて2.5倍というデータがあります。

「お客さんを乗せているときは慎重に運転する」ということかもしれませんが、実際には、営業時間内に客を拾えるスポット(ターミナル駅や繁華街)に戻ろうとスピードを上げたり、流し運転で、お客さんを路上に見つけたときに急停止することに起因しているようです。ライドシェアや配車アプリの利用が前提であれば、そういった事故は減るかもしれません。

まとめ

旅先の地元の店で、その土地の美味しいものを楽しむ時間というのは旅の醍醐味の一つ。旅行の目的と行ってもいいかもしれません。旅館から地元の店に行き、食べ物やお酒を楽しんだあと、また旅館に帰る。そんな普通のことが、足がないことで楽しめなくなっています。

この夏、インバウンドの観光客がさらに押しかけてくるとみられています。そして折しもこの猛暑。移動がスムーズにできないことで熱中症になってしまう危険もあります。早急な解決策が必要です。

ライドシェアの解禁にしても、それが解決策になるとも限らず、公共交通に関わることなので、そう簡単に全面解禁すべきではないかもしれません。一方で、在日外国人の方が、母国の旅行者に向けて民泊の提供とセットで白タク行為を行っているということが数年前から報じられています。また、上述の通り、タクシー業界も1種免許所有者にタクシーを運転させるようにしようといった提言も行っています。

タクシーを始めとする「ラストワンマイル」を担う公共交通機関の課題は、何も訪日観光客だけではなく、地域活性化や、高齢者への福祉など様々な問題に直結しています。

政府も、業界も、この課題の解決に向けて、現実に即した対応へと早急に動くべきだと思います。

参考資料

一般社団法人 東京ハイヤー・タクシー協会 事業報告 PDF

国土交通省「ラストワンマイル・モビリティの現況について」PDF

警察庁「運転免許統計」PDF

厚生労働省 時間外労働の上限解説 PDF

厚生労働省 改善基準告示 URL

国土交通省「近年の事業用自動車の交通事故発生状況について」PDF

※ヘッダー画像は「いらすとや」素材を使って筆者作成

チーフ図解オフィサー

東京都在住のブロガー・ITコンサル。経済・経営の話題を中心に図解でわかりやすく解説することに定評がある。ブログ『それ、僕が図解します。』は、個人運営ながら、時には月間訪問者数20万人を超える人気ブログとなっている。世の中の分かりにくいことや納得の行かないことを少しでも減らすことを目標としている。図解を始めたのは約20年前から。仕事に必要な画面遷移図を描き続けているうちに、何でも図で説明できるようになった。得意としているのは、経済・経営、不動産、税金、終活・相続など。著書:『デジタルコンテンツ白書』編集委員(2007−2014)等 京都大学農学部卒。宅地建物取引士。相続診断士。

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