中国海軍がマレーシア機捜索に大型揚陸艦を投入する理由
3月8日に多数の中国人乗客を乗せて失踪したマレーシア航空380便を捜索するために、中国はインド洋南部に海軍の艦艇と海警局の巡視船を合わせて10隻以上を投入しています。その中には海軍の最新鋭大型ドック揚陸艦「崑崙山」「井岡山」、大型補給艦「微山湖」「千島湖」の姿もありました。これらは満載排水量2万トンを超える大型艦艇です。空母「遼寧」が試験および訓練用で遠征に出せないことを考慮して除くと、これらは中国海軍でも最大級の艦艇です。
中国海軍はなぜ、駆逐艦だけでなくドック揚陸艦を必要としたのでしょうか? 中国は海軍力を誇示するために無理に大型艦を派遣したのでしょうか? 実はそれは主な理由ではありません。墜落機の破片捜索回収という任務では、純粋にドック揚陸艦が最適の存在であるからです。
- 大きな船体と格納庫を持ち、高いヘリコプター運用能力
- 船尾にウェルドックを持ち、搭載艇の発進と回収が容易
- 広い物資搭載区画に、回収した破片を収納する事が可能
- 大きな船体で波浪に強く、航続力が高く長期行動が可能
ドック揚陸艦「崑崙山」は大型ヘリコプターを通常2機、最大4機搭載できます。これは駆逐艦数隻分ものヘリコプター運用能力であり、捜索に大きな力を発揮することが出来ます。また船尾のウェルドックから搭載艇を出し入れすることが出来るので、破片を回収して艦内に引き入れることが可能です。他に大型クレーンも装備しており、回収任務にはうってつけです。これが駆逐艦や巡視船だと破片が大きな場合は艦に収納すること自体が容易ではなく、仮に回収できても収納場所が無いのでヘリコプター甲板に置きっぱなしにせざるを得なくなり、ヘリコプターが使えなくなり継続した任務が困難です。その点、揚陸艦である「崑崙山」は広大な物資搭載スペースを持ち、破片回収後も更なる捜索回収を継続することが可能です。
このような捜索回収任務にドック揚陸艦を使用することはアメリカ海軍でも想定しており、スペースシャトルに代わる宇宙船オリオンの再突入カプセル(海に着水する)を回収する任務に海軍のドック揚陸艦を充てる予定で、すでに訓練も開始されています。また「崑崙山」はソマリア海賊対策にも投入されたことが有りますが、シンガポール海軍も同様にドック揚陸艦を海賊対策に投入しています。高いヘリコプター運用能力とウェルドックからの搭載艇の発進回収能力は警戒任務にも便利だったのです。ドック揚陸艦は上陸作戦や被災地救援だけでなく、警戒監視や捜索回収にも適した使い勝手の良い艦種であることが各国海軍の運用から分かります。
またマレーシア機の捜索海域はとても遠い上に波浪が非常に強い海域に近く、荒れ始めると10m以上もの波になるので、小型艦艇よりも大型艦艇を送り込まないと航行すること自体が困難に陥ってしまいます。以上の事を考慮すると、遠隔地の波の高い海域に中国海軍が大型ドック揚陸艦を捜索任務に投入したことは理に適った行動であり、発見した破片の回収輸送という面から考えても、最も適した選択だったということが出来ます。