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大雪で交通の乱れ見越して会社が「帰宅命令」 午後から早退したら賃金どうなる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 関東で警報級の大雪となり、帰宅時間を直撃するおそれがあるという。鉄道などの交通が乱れ、帰宅困難となることも予想される。出社後、これを見越した会社の「帰宅命令」に従って午後から早退したら、終業時間までの賃金はどうなるか。

「休業手当」の制度がある

 そもそも、会社は労働契約法や労働安全衛生法などに基づき、社員の生命や身体に対する安全配慮義務を負っている。また、労働基準法では、「使用者の責(せめ)に帰すべき事由」、すなわち「会社の都合」による休業の場合、会社は社員に「休業手当」として平均賃金の6割以上を支払う義務があるとされている。

 その金額は、一定の計算式に基づいて算出される決まりだ。例えば、就業開始から早退までの賃金額が平均賃金の6割を下回る場合には、休業手当としてその差額の支払いを要する。休業手当は労働者を保護するための制度だから、もし会社が支払いを怠れば、社長や幹部、会社に対する罰金刑まで用意されているほどだ。

ポイントは「会社の都合」か否か

 そこで、休業が会社の都合に当たるか否かが重要となる。例えば、台風などの天災で会社の建物が大きな被害を受け、業務続行が不可能になったような場合だ。不可抗力に基づくから、会社の都合には当たらず、早退後は無給扱いにして構わない。

 しかし、会社にそうした被害が生じておらず、単にこれから交通の乱れが予想されるという段階であれば、天候次第で事態の回避もあり得るし、会社もまだ業務を続けられる。したがって、この状態で会社が「予防的」に社員に対して「帰宅命令」を出した場合、会社の都合による休業に当たるから、会社は社員に対して休業手当を支払わなければならない。

 問題は、会社がこうした「帰宅命令」を出さず、「早退するか否かについては社員の判断に任せる」といった通知にとどめた場合だ。これだと社員が早退しても会社の都合には当たらないから、休業手当の支払い義務はないとされている。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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