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王位戦リーグ白組優勝まであと1勝の藤井聡太七段(17)見慣れない変化に飛び込みリードを奪って優勢

松本博文将棋ライター
(記事中の写真撮影・画像作成:筆者)

 6月13日。東京・将棋会館において王位戦リーグ白組最終5回戦▲阿部健治郎七段(0勝4敗)-△藤井聡太七段(4勝0敗)戦がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 角換わりのよくありそうな序盤戦。藤井七段は守りの銀ではなく攻めの銀を動かしました。この手はなにげないようでいて、かなり強い意思を感じさせる一手でした。というのは、先手から飛車先を交換されると大乱戦に進む可能性があるからです。

 はたして、阿部七段は前に出てきました。藤井七段はカウンターで飛車取りに、端に角を打ちます。序盤20手目にして、もう収まらなくなりました。

 阿部七段は飛車を横に移動して歩を2枚得するものの、端に行った飛車は香の利きを通されると行き場はなくなります。そこで昼食休憩となりました。

 再開後、阿部七段は香の頭に角を打ち込みます。将棋は千変万化。序盤のほんのちょっとした形の違いから、両者妥協せずに数手ほど進んでみると、四百年来見たことのないような形が現れることがあります。

 驚いたことに、これできわどく形勢のバランスは保たれているようです。ただし類例のほとんどない局面。どう指せばいいのか難しいところで、少しでも誤ると、形勢は大きく動くことになります。

 藤井七段は香で取れる角を取らず、飛車を中段に浮いて戦いに参加させます。対して阿部七段はじっと端歩を伸ばし、飛車にひもをつけます。

 藤井七段は飛車の横利きをいかしながら、阿部七段の攻めの幅を広げている歩を取り去ります。このあたりで藤井七段がリードを奪ったようです。

 33手目、阿部七段が香を取りながら飛車を成りこんだ時点で駒割は角香交換。藤井七段が大きく得をした分、リードを奪ったようです。

 ただし33手目が指された時点で持ち時間4時間のうち、残り時間は藤井1時間45分、阿部2時間45分。手番の藤井七段が考え、時間差はさらに広がっていきます。中盤で妥協することなく時間を使って考えるのは藤井七段のいつものスタイルです。とはいえ「終盤で時間切迫で困りはしないか」と、ファンはいつも通りハラハラするところでしょう。

 15時半を過ぎた時点では36手目まで進行。藤井七段の残り時間は1時間を切って59分となりました。

 藤井七段と同じ白組の▲羽生善治九段(3勝1敗)-△菅井竜也八段(3勝1敗)戦は菅井八段が角交換型の振り飛車に進めます。羽生九段が菅井陣に角を打ち込んで馬を作り、自陣ではたらかせています。57手目まで進んだ段階で、形勢はほぼ互角のようです。

 この一戦は勝った方がプレーオフ進出の可能性を残す(藤井七段が敗れることが条件)一方で、敗れた方はリーグ陥落となります。

 羽生九段は王位戦参加7期目、1993年に王位戦リーグ初参加。そこを勝ち進んで、王位を獲得し、七冠のうち五冠を占めました。その時、22歳。「史上最年少の五冠王」と言われました。いまの17歳の藤井七段の勢いも恐ろしいものですが、二十代前半、七冠に至る過程の羽生現九段の進撃もすさまじいものでした。

 1993年に王位戴冠以来、羽生九段は王位18期を含め過去27期、一度もリーグから陥落したことがないという、途方もない記録を継続しています。

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 羽生九段は菅井八段にもし敗れると、その大記録がついに途切れることになります。

 王位戦リーグの対局は夕食休憩がなく指し進められます。通例では夜に終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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