Yahoo!ニュース

あの巨漢スラッガーがメキシコですっかりイケメンになって大活躍【メキシカンリーグプレーオフ】

阿佐智ベースボールジャーナリスト

 メキシコを旅していると、毎日、「次は何を食べようか」と考えることになる。タコスに代表される油たっぷりの濃厚なグルメはとにかく美味い。しかし、幼い頃から毎日こんな油っぽい料理を食べているメキシコ人は、ある一定の年齢を過ぎるとぽっちゃり体型になるのが相場だ。プロ野球選手もそのご多分にもれず、現役時代からすでにすっかり丸みを帯びた体型でプレーしている選手も少なくない。

 2019年春に行われた日本代表・侍ジャパンとの強化試合で来日したメキシカンリーグの選手中心に編成された代表チームの中にルイス・フアレスという選手がいたのを覚えているだろか、丸々と太った体型から鋭い打球を放ち、ヘッドスライディグで先の塁を狙う懸命なプレーは、京セラドーム大阪のスタンドを沸かせた。彼は今もなおユカタン・レオーネス(ライオンズ)の主力打者として活躍している。

現在メキシカンリーグ南地区プレーオフを戦うレオーネスの主力打者としてプレーしているルイス・フアレス
現在メキシカンリーグ南地区プレーオフを戦うレオーネスの主力打者としてプレーしているルイス・フアレス

 ところで、このイケメン選手を覚えているだろうか?彫りの深い顔立ちのメキシコ人にはイケメンが多いが、この写真だけでは、多くの野球ファンはパッと名前が思いつかないだろう。

 そう2016年から3シーズン楽天でプレーしたジャフェット・アマダーだ。来日1年目は日本の野球に適応できず苦しんだが、2年目には23本塁打を放ち本領発揮。3年目の2018年は8月初旬までに20本塁打を放ったが、薬物検査で陽性反応が出て、出場停止となり、そのままオフに退団となった。楽天入団の前の年にはメキシカンリーグでMVPにも輝いたスラッガーは、来日時の体重137キロで「NPB史上最重量」として話題になった。

ジャフェット・アマダー(メキシコシティ・ディアブロスロッホス)
ジャフェット・アマダー(メキシコシティ・ディアブロスロッホス)

 メキシコではスペイン語読みで「ヤペテ・アマドール」と呼ばれるこのスラッガーは、メキシカンリーグで通算235本塁打を放ち、ウィンターリーグでも活躍するメキシコの英雄である。彼は今シーズンもメキシコの名門球団、ディアブロスロッホスの4番に座り、打率.315で17本塁打を放った。

本拠地エスタディオ・アープ・エル内のミュージアムにもアマダーの展示があった。
本拠地エスタディオ・アープ・エル内のミュージアムにもアマダーの展示があった。

 ディアブロスの誇る新球場には、チームの歴史を語るミュージアムが併設されているのだが、ここにも歴代の名選手と並んで、彼の写真が展示されていた。そこにあったのは、すっかりダイエットして精悍になった姿だったが、最初は写真に修正を加えたのかと思っていた。8月あたまにメキシコシティの球場に足を運んだ際には、プレーオフ進出を決め、ほぼ順位も決まっていたためか、試合には顔を出さなかったが、レギュラーシーズン最終カードでは3戦中2戦に出場。9打数5安打6打点でプレーオフに向けて万全の状態を整えたようだった。

 そして8月10日のメキシカンリーグ北地区プレーオフ第一ラウンド。 私には最初、ファーストを守るその男があのアマダーだとは思いもつかなかった。あのシュッとした長身のイケメン選手は誰だろうと思っていると、果たしてその選手がアマダーだった。

 ファーストの守備も機敏で、ベースランニングでは軽やかに全力疾走していた。減量は今シーズン中に行ったのか、ユニフォームは少々ぶかぶかだった。

 彼のような巨漢スラッガーの場合、減量することによって打球の飛距離が伸びなくなるとも聞く。しかし、彼の場合、ダイエットによる飛距離減は全くの杞憂であったようだ。1回裏、ランナーを塁上にふたり置いて登場したアマダーの放った打球は大きな弧を描いてバックスクリーンへ飛び込んでいった。試合はメキシカンリーグにありがちな、シーソーゲームとなったが、ホームラン4本を重ねたレギュラーシーズン首位のディアブロスが、4位のベラクルス・エルアギラを力でねじ伏せた。アマダーはこの試合、4打数3安打4打点と大暴れし、翌日も5打数2安打2打点でチームの圧勝に貢献している。

プレーオフ初戦、初回に先制のホームランを放ったアマダー
プレーオフ初戦、初回に先制のホームランを放ったアマダー

 そして戦いの舞台を敵地に移しての第3戦。この日もアマダーのバットは火を吹いた。4対3で迎えた5回。立ち上がりに苦しみながらも、試合中盤になってもち直してきたエルアギラの先発、ミッチ・ライブリー(元日本ハム)の速球をすくい上げた打球は、やはりバックスクリーンへと飛び込んでいった。満員の観衆で埋め尽くされた敵地のスタンドからのブーイングの中、ダイヤモンドを一周するアマダーの姿に、メキシコシティからはるばるやってきた熱狂的なディアブロスファンが歓声を送る。

 さらに6対3でディアブロスリードで迎えた9回。左中間に舞い上がったアマダーの打球は、そのままフェンスを超えていった。派手な打撃戦が多く、3点差くらいならすぐにひっくり返ることを知っているメキシコのファンは、多少点差がついてもなかなか席を立たないが、さすがにこれには敵地のファンも諦めたようで、その多くがスタンドから出ていった。試合後、メキシコではスタンド外にバンドが登場し、来場者を演奏で見送るのだが、この夜は地元ファンへの償いだろうか。アマダーのこのホームランの直後から演奏を開始し、試合終了を待たずして、スタンドの外ではダンスパーティーが始まった。

試合終了を待たずに始まったダンスパーティー。メキシコ人は贔屓チームが勝とうが負けようが思い切り楽しむ。
試合終了を待たずに始まったダンスパーティー。メキシコ人は贔屓チームが勝とうが負けようが思い切り楽しむ。

 ディアブロスは、続く敵地での第4戦にも勝利し、メキシカンリーグ北地区プレーオフ第一ラウンドを無傷で通過した。

来年のWBCにもメキシコ代表チームに名を連ねるだろう。
来年のWBCにもメキシコ代表チームに名を連ねるだろう。

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

阿佐智の最近の記事