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「14戦全勝9KO」と言っても……

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Mikey Williams/Top Rank

 オープニングベルから、13戦全勝9KOのサウスポー、DJ・ザモラは間断なくジャブを放ち続けた。12勝(3KO)5敗1分のアルゼンチン人ファイター、ジェラルド・アントニオ・ペレスをロープに追い込んでいく。

 2回に入ると、左ストレート、右フックをヒットして流れを掴む。顎を狙った遠目からの左アッパーも効果的だった。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

 第3ラウンド、劣勢に立たされていたペレスが遮二無二打って出る。アルゼンチン人らしい闘志だった。サウスポーにスイッチする局面もあった。時に両腕を突き上げ、ラスベガス在住のフィリピン系アメリカンを挑発した。ザモラは、距離をとってこれを捌く。

 翌4回序盤、7回の終盤と、両者は激しく打ち合う。正確性ではザモラが優ったが、決め手に欠ける。ペレスも粘り強かった。

 結局、試合は判定まで縺れ、80-72、80-72、79-73でザモラが全勝記録を更新した。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

 このカードは、Top Rank社によって組まれたものであり、米国で井上尚弥や中谷潤人の試合を中継する「ESPN +」が放映した。試合中のほとんどの間、画面を2つに区切り、ザモラのトレーナーであるカイ・コロマの姿が映し出された。要するに、Top Rankはザモラを売り出したいのである。

 ザモラは2019年にプロに転向し、昨年注目を集めたWBA/WBC/IBF/WBO統一ウエルター級タイトルマッチ、テレンス・クロフォードvs.エロール・スペンス・ジュニア戦の前座にも出場している。彼にとって初の8回戦を経験した。同ファイトの前、ザモラは話していた。

 「自分のチーム、そして彼らが導く僕のキャリアの方向性を完全に信頼しています。ただコーチの言うことを聞いて、やるべきことに集中するだけです。初めての8ラウンドになりますが、130パウンドで未来を築くことに胸が躍りますよ。良い形で勝利し、有望選手として認められたいですね。そうなれると信じています」

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

 ザモラは確かにデビューから連勝中だ。とはいえ、2023年7月29日の一戦、そしてペレス戦を判断材料とするなら、その可能性には、疑問符しか付けられない。マニー・パッキャオはもちろんのこと、元WBCフェザー級王者のマーク・マグサヨにも遠く及ばない。

 ボクシング界では<チャンピオンはプロモーターが作り出すもの。連戦連勝なんて、やろうと思えば簡単に出来る>という言葉が囁かれる。まさにそれを象徴するファイトだった。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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