Yahoo!ニュース

「韓国に大敗」という結果以上に深刻なハリルJAPANの現状

小宮良之スポーツライター・小説家
E-1韓国戦は小林悠が先制したが・・・(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「韓国がすべてにおいて上回っていた。パワー、テクニックでゲームをコントロールされてしまった。A代表フルメンバーでも勝てたかわからないほどだった。受け入れがたいことかも知れないが、(このメンバーではこの戦いが)真実だ」

 E-1、最終戦で韓国に1-4で負け、優勝を逃した日本の指揮官ヴァイッド・ハリルホジッチはそう言って、白旗を掲げた。この戦力では勝てるはずはない、という全面降伏に等しい。

「しかし、この大会で2勝できたことは一定の結果を残したと言えるだろう」

 監督は少し胸を張った。

 しかし、北朝鮮、中国に2勝した試合と韓国に惨敗した試合は、本質的に違いがあったのか。

ハリルホジッチの局地的勝利

 

 北朝鮮戦、ハリルホジッチはいくつかの戦術的選択で正解を叩きだしている。

「伊東はボールを持ったら仕掛けられる。1対1で抜ける選手は多くはない」

 北朝鮮戦後にハリルホジッチは語っているが、中村航輔、伊東純也の抜擢はヒットだったと言える。また、終盤で投入した川又堅碁も高さ、強さを与えていた。それが井手口陽介の決勝点につながったのは間違いない。

「(北朝鮮戦では)室屋は5,6回、不必要なファウルがあった。未熟さも出た。しかしこれから改善できるだろう」

 そうした指摘も当を得たものだった。

 そして中国戦も、いくつかの戦術策が的中している。

「中国の高さに対し、セットプレーでどうすべきか、というところで、植田に右サイドでいけるか?と問うと、いけます、と即答した」

 植田直通の右サイドバック起用は、結果的に吉と出ている。中国の高さに負けなかった。センターバックに抜擢された三浦弦太も、比較的安定したプレーを見せている。

「(小林)悠は素晴らしいシーズンを送った。A代表で呼ばなくなったのは、リズムに付いていけない、と考えたから。フィジカル的な問題があった。しかし今は、守備に戻ってプレッシャーをかけ、落として背後にも出る。前は軽かったが、激しく動けるようになって、サイドでも真ん中でも計算が立つようになった」

 その分析も、ハリルホジッチらしい。彼の論理だ。

 局面で見れば、指揮官の戦い方は一つの正解を出していた。

 しかし大局的な視点、戦略において正しいのか?

選手の個の力で勝利したに過ぎない

 ハリルホジッチはスピード、パワー、激しさを選手に求める。それを軸にしたメンバー選考になったし、その戦いを浸透させようとしている。韓国戦の先制点は象徴的で、一気に縦を狙った連係から伊東が抜群の速さを見せ、PKを勝ち取った。

 どの試合も、選手たちは従順に指揮官の戦いを実行しようとした。ボールを奪うと、敵ゴールから逆算し、バックラインの背後を狙い、蹴り込む。それが功を奏した場面もあった。しかし高さ、強さ勝負に持ち込んでしまうと、日本のストロングは消えていた。

 連勝した北朝鮮、中国を相手にしても、実は試合を支配した印象はない。ぼかすかと蹴り込んでは失い、それを取り返す。技術的に数段劣る相手だから、それでも奪い返せたし、チャンスを作り出せた。GK中村がビッグセーブを連発し、小林がゴールゲッターの輝きを放ち、昌子源のスーパーなシュートが決まるなど、傑出した個の存在で勝ち点3を獲得している。

 しかしチームとしては、ほとんど機能していなかった。韓国戦で、その化けの皮がはがれたのだ。

ハリルホジッチの戦略はロシアで通用するのか?

 ハリルホジッチの志向するサッカーは悪ではない。球際の強さ、積極的に背後を狙う、どこでファウルをし、してはいけないか、など取り込まないといけない部分もある。しかし、一朝一夕で日本サッカーは変わらない。

 戦略として、まずは日本の長所を軸にするべきだ。

 日本は、ボールを持てる、運べる選手がアジアの中では突出して多い。海を渡って活躍している選手もそういうタイプ。ボールをつなげる、というインテンシティにおいて、日本の選手は世界的にも低くはない。そのボールプレーヤーを中心に自らのロジックを丹念に落とし込んでいくべきで、現状は指揮官が自らの戦い方に選手を当てはめるだけで、その窮屈さは度を超えている。

日本でリアクションサッカーをする限界

 ハリルホジッチのサッカーは究極的なリアクションだが、それを実行するには強靱なフィジカル能力が不可欠になる。受け身が基本だけに、力で跳ね返し、ゴール前に殺到する速さも必要。そこに固執すると、どこか歪な布陣になってしまう。例えば韓国戦は高さに対抗するために再び右サイドバックに植田を起用したが、スピードとコンビネーションで翻弄され、3失点目は中に引っ張られ、外を明け渡していた。

 戦略として、力勝負に傾倒するのは限界がある。

「この大会はいい結果を残した。韓国と比較してはいけない。その中で選手はベストを尽くして戦った。ワールドカップは別物」

 ハリルホジッチはそう言い残し、会見場を去った。

 ワールドカップは別物である。FWキム・シヌクに翻弄されたバックラインだが、ポーランド代表のロベルト・レバンドフスキやコロンビア代表のラダメル・ファルカオは数段上のゴールゲッター。それに力勝負を挑むというのか。

 日本のメンバーもがらりと変わる。策も打つだろう。しかし、その戦略が変わらないとすれば――。中村憲剛(川崎フロンターレ)を選ばなかったのは年齢的理由らしいが、狭い了見に囚われるべきではない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事