【JND】ダン・シーゲル『インディゴ』には“同時代のジャズ”の確信が詰まっている
話題の新譜を取り上げて、曲の成り立ちや聴きどころなどを解説するJND(Jazz Navi Disk編)。今回はダン・シーゲル『インディゴ』。
スムース・ジャズ界の大御所ピアニスト&キーボーディスト、ダン・シーゲルの5年半ぶりとなるニュー・アルバム。
米ワシントン州シアトルで生まれた彼は幼いころにオレゴン州ユージーンへ引っ越して8歳でピアノを習い始め、12歳で早くもロック・バンドのヴォーカル&リード・ギタリストとして活動していたというマセた少年だった。ボストンではマダム・チャロフにピアノを習っている。マダム・チャロフはバリトン・サックス奏者のサージ・チャロフの母親で、著名なピアノ教授。
シーゲルはオレゴン大学を卒業した後、ニューヨークのインディーズ・レーベル(インナー・シティ)と契約して自分のバンドで自作曲を録音。これがデビュー作『NITE RIDE』(1979年)だ。セカンド・アルバム『THE HOT SHOT』は米ビルボード誌のジャズ・アルバム・チャートで10週間もトップ10入りするというヒットを記録し、一躍クロスオーヴァー/フュージョン・シーンの最前線に躍り出す。1983年にはロサンゼルスに移って、テレビや映画などのスタジオ・ワークにも引っ張りだこになっていった。
日本ではサード・アルバムの『OASIS』が輸入盤で評判となり、次の『DAN SIEGEL』から日本盤がリリースされるようになった。この4枚目のアルバム、日本向けジャケットに水着女性のバック・ショットが使われて話題になったのだけれど(当時の邦題は『ロスト・イン・メモリー』)、往年のフュージョン・ファンには懐かしい想い出なのではないだろうか。
新作『インディゴ』は、前作『スフィアー』の延長線上にある内容だ。いや、1980年代後半にはすでに確立させていた“ダン・シーゲルのスムース・スタイル”を踏襲していると言ったほうが正しいだろう。フィーチャリング・アーティストもなく、気心の知れた仲間たちと、自分が気持ちいいと感じる音楽を作るというスタンスが、このアルバムの軸をしっかりと支えている。
コンテンポラリー・ジャズと呼ばれるようになったポスト・フュージョンのサウンドは、多様化していく音楽ニーズのなかで居場所を探しきれずにさまようことも多いように感じる。しかしダン・シーゲルが示してくれる“普遍の美学”に触れると、コンテンポラリー=同時代的であることが“共感を呼ぶ”という重要なキーワードを含んでいることに気づかされる。
時代の流れのなかで自分を見失わず、いいと感じるサウンドを送り出し続けることが“同時代感”を醸成しているということを、ダン・シーゲルのサウンドから教えられたような気がする。
See You Next Time !