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この夏注目された愛子さまの作文 世界平和に寄与することを期待

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
(写真:ロイター/アフロ)

■成長された愛子さまが国連事務次長を動かした作文

 日本人女性で初めて国際連合事務次長に就任し、軍縮担当上級代表として世界平和に尽力する中満 泉(なかみつ いずみ)さんが、終戦記念日を前にした8月12日、以下のような興味深い一文をツイートしている。

“「『平和』は人任せにするのではなく、一人ひとりの思いや責任ある行動で築き上げていくもの」「そう遠くない将来に、核兵器のない世の中が実現し、広島の『平和の灯』が消されることを心から願っている」 両陛下に頂いた、愛子様の中学卒業文集『世界の平和を願って』より”

 核のない世界を求めて精力的に活動する中満さんが、天皇皇后両陛下の一人娘である愛子さまの作文を引用していたのだ。実はこの前日、両陛下は赤坂御所で中満さんとお会いになり、被爆地での若者の取り組みや世界の軍縮の現状などについて説明を受けられていた。

 その際、両陛下は愛子さまが中学校の修学旅行で訪れた広島について書かれた作文のコピーを、中満さんに手渡されたという。

 愛子さまの作文は、「平和記念資料館」や「原爆ドーム」を訪れた際、その凄惨な悲劇を目の当たりにされ、名状し難い悲しみや怒りを10代の純粋かつ豊かな感性で綴られたものだ。

 中満さんは愛子さまの作文を読み、反戦への思いと平和を希求される強い意志に大きな感銘を受け、翌日のツイートに繋がったのだろう。国連で難民支援や平和維持活動(PKO)に従事し、その最前線で汗を流してきた中満さんにとって、愛子さまの作文は皇室の若い世代に、国連の理念が浸透していることを確信させる出来事であったと推察できる。

 皇后・雅子さまと中満さんは多くの共通点があり、同じ1963年生まれで、ご結婚前の雅子さまも外交官として国際的な活動を行っていらっしゃった。また、中満さんの2人のお嬢さんたちも愛子さまと同世代である。戦後75年を迎え、戦争を経験した人たちが減っている中、愛子さまが平和について鋭い視点を持っていらっしゃることを、とても頼もしく感じたに違いない。

■作文から読み取れる、愛子さまの皇室の一員としてのご自覚

 広島を訪れた時の愛子さまの作文には、こんな文章がある。

「これが実際に起きたことなのか、と私は目を疑った。平常心で見ることはできなかった。そして、何よりも、原爆が何十万人という人の命を奪ったことに、怒りと悲しみを覚えた。命が助かっても、家族を失い、支えてくれる人も失い、生きていく希望も失い、人々はどのような気持ちで毎日を過ごしていたのだろうか。私には想像もつかなかった」

 皇室の方々が実践してこられた「国民に寄り添い、心を寄せる」ことには、さまざまな苦難に直面している人々が何を感じ、何を必要としているのか、思いを致すことが必要となる。自分が経験していないことに思いを馳せることには、想像力が求められることを、愛子さまは中学生の頃から感じ取り、理解されていたことがこの文章からうかがえる。

「これが実際に起きたことなのか、と私は目を疑った」「人々はどのような気持ちで毎日を過ごしていたのだろうか。私には想像もつかなかった」と書かれた愛子さまには、皇室の一員としての自覚がすでに芽生えていらっしゃったのではないかと思う。

 その後、愛子さまは両陛下とともに公務に参加されたり、多くの人びとと触れ合ったりなどする中で、自分が知らない世界への想像力を培ってこられたのではないだろうか。

■愛子さまは来年12月、成年皇族に

 今年の4月、愛子さまは学習院大学文学部日本語日本文学科に入学された。上記の広島についての作品だけでなく、これまで愛子さまが書かれた数々の作文は、大人たちが驚くほどの優れた文才と想像力にあふれている。

 早いもので、来年12月には愛子さまは20歳を迎え、成年皇族となられる。皇室の一員として公務にのぞまれる日も、そう遠い日ではない。また、成年皇族になれば、皇室の伝統でもあるお歌も詠まれることになるが、豊かな文才をお持ちだと言われている愛子さまがどんな作品を発表されるのか、期待が高まりそうである。

 今年の「終戦広島・長崎の原爆の日」、そして「終戦記念日」はコロナ禍の影響で静かなものとなった。しかし、ひとつの作文を通した愛子さまと中満さんの出会いは、反戦の誓いと平和への祈りが世代を超えて、未来永劫受け継がれなくてならないことを改めて教えてくれた気がする。

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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