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台風20号が発生し総選挙投票日に影響か? 過去7回の総選挙投票日で3回は実在の「台風の目」が存在

饒村曜気象予報士
選挙イメージ(写真:アフロ)

第50回の衆議院議員総選挙

 令和6年(2024年)10月27日の日曜日に、第50回の衆議院議員の総選挙が行われます。

 選挙の投票率には、その日の天気が大きく関係するといわれ、その結果として選挙結果が変わる可能性があります。

 一般的には、投票率が上がるのは曇りの日で、下がるのは晴れの日といわれています。

 投票日は日曜日に設定されていますが、晴れの日は遠出などのレジャーに出かけたいと考える人が多いのかもしれません。しかし、レジャーに出かけるなどの予定があるかたは、期日前投票を利用するなどして、ぜひ一票の権利を行使してください。

 雨が降りそうで降らない曇りの日が選挙日和なのかもしれませんが、雨の日でも「外出するのがおっくう」とはいわないで投票所へ行ってほしいほしいと思います。

 とはいえ、大雨等の場合は安全を確保しての行動ということになりますので、気象情報に注意し、期日前投票も選択肢の日の一つと思います。

 気象庁が発表した週間天気予報によると、ほぼ全国的に曇りで選挙日和となっています(図1)。

図1 気象庁の天気予報(10月27日)

 ただ、この予報は大きく変わる可能性がある予報です。

 というのは、フィリピンの東の熱帯低気圧が台風20号に発達する見込みで、その影響により天気予報が大きく変わるかもしれないからです。

台風20号の発生か?

 気象庁は、10月20日15時にフィリピン東海上の熱帯低気圧が今後24時間以内に台風に発達するとの「発達する熱帯低気圧に関する情報」を発表しました(図2)。

図2 発達する熱帯低気圧の進路予報(10月20日15時)
図2 発達する熱帯低気圧の進路予報(10月20日15時)

 台風になれば、10月に入って2個目で、台風20号ということになります(表1)。

表1 台風の発生数・接近数・上陸数(令和6年(2024年)10月20日までと平年値、接近数については月をまたがる場合があるので月の値の合計は年の値と一致しない)
表1 台風の発生数・接近数・上陸数(令和6年(2024年)10月20日までと平年値、接近数については月をまたがる場合があるので月の値の合計は年の値と一致しない)

 今年は、10月に入ってすぐに、台風18号が台湾に上陸したものの地形の影響を受けて迷走し、逆戻りして南シナ海で熱帯低気圧南下して熱帯低気圧に変わりました。

 また、10月9日15時に南鳥島近海で発生した台風19号が日本の東を接近して北上し、日本のはるか東で温帯低気圧に変わり、加えて、今回の台風20号に発達しそうな熱帯低気圧です。

 今年は、10月になっても、まだまだ台風シーズンが続いています。

 台風が発達する目安となる海面水温は27度ですが、これを大きく上回る30度以上の海域を熱帯低気圧が西進するので発達するのですが、雲の塊が広い範囲に散在しているというタイプの熱帯低気圧です(図3)。

図3 雲の塊が広い範囲に存在する熱帯低気圧の気象衛星画像(10月20日15時)
図3 雲の塊が広い範囲に存在する熱帯低気圧の気象衛星画像(10月20日15時)

 雲の塊が狭い範囲に集中しているというタイプの熱帯低気圧ではありません。

 このため、台風にはなるのですが、暴風域を伴う所までの発達はしないでフィリピン北部に接近する見込みです。

 逆に言うと、集中していないかわりに、広い範囲に雨雲があり、雨に警戒すべき台風となって接近するおそれがあります。

 10月25日の金曜日にフィリピン北部に接近するときの予報円は大きく、その後どこに向かうのははっきりしていませんが、日本付近には前線が停滞してる可能性が高いことから、日本の広い範囲で雨となる可能性もあります。

 ただ、熱帯低気圧の発達の程度や進路予想には、まだ幅がありますので、熱帯低気圧の情報については、常に最新のものを入手して下さい。

本来の意味ではない「台風の目」

 「台風の目(眼)」あるいは「台風」という言葉は、本来の意味の他に、「社会に多大な影響をあたえるもの(人)」という意味でも広く使われています。

 選挙などでは、「この選挙区では○○候補が台風の目だ」ということが、よく言われます。

 選挙を台風で例えることが何時から一般的になったのかよく分かりませんが、昭和時代末期の総選挙では、盛んに「台風の目」という言葉が使われていました。

 最近の総選挙でも、「台風の目」という言葉は使われていますが、「風が吹いている」という言葉の方は多く使われている印象があります。

 いずれにしても、台風という言葉が、本来の意味以外に色々と使われているということは、台風が国民生活に非常に大きな影響を与え、あるいは、馴染みの深い現象の反映といえると思います。

 ただ、最近の7回の総選挙投票日をみると、このうち3回は「台風の目」が例えではなく、実在の台風として日本を襲っています(表2)。

表2 最近の7回の総選挙と台風
表2 最近の7回の総選挙と台風

 平成17年(2005年)の第44回総選挙は、選挙期間中の9月6日に台風14号が沖縄近海を通って長崎県に上陸し、日本海を北東進しています。また、投票日前日の9月10日には台風15号が南西諸島南部を通って東シナ海を北西進しています。

 当時の新聞には、候補者を台風の目に例えた記事の他、台風の目そのものの記事も掲載されています。

広い選挙区をくまなく回って、身近な所を大切にする候補であることを訴え、台風の目になって風を吹かす、という。(9月4日の毎日新聞)

◇3区 …ただ、無党派層でまだ4割程度の支持にとどまっている。台風の目とみられた○○は勢いがみられず…。(9月4日の朝日新聞)

 平成29年(2017年)の第48回総選挙は、選挙運動期間中から投票日まで、本物の「台風の目」により大きな影響が出た総選挙になりました。 

平成29年(2017年)の台風21号

 10月16日にカロリン諸島で発生した台風21号は、投票日前日の21日から投票日の22日にかけて日本の南を北上し、開票作業中の23日3時頃、超大型・強い勢力で静岡県御前崎市付近に上陸しました(図4)。

図4 平成29年10月20日(左上)から23日(右下)の地上天気図(時刻はいずれも9時)
図4 平成29年10月20日(左上)から23日(右下)の地上天気図(時刻はいずれも9時)

 台風を取り巻く発達した雨雲や本州付近に停滞した前線の影響により、西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨となり、近畿地方や東海地方を中心に500ミリを超える記録的な大雨となり、河川の氾濫や浸水害、土砂災害等が発生しました(図5)。

図5 総降水量分布図(10月21日0時~23日24時)
図5 総降水量分布図(10月21日0時~23日24時)

 また、沖縄から北海道に至る広い範囲で風速20メートル以上の非常に強い風を観測し、鉄道の運休や航空機・船舶の欠航等の交通障害が相次いでいます。

 図6は上陸寸前の台風21号の雲ですが、小さくてくっきりした台風の目がはっきり見えます。そして、台風の目付近とその北側には強い雨を降らせる雲が広がっています。

図6 総選挙の日の台風の目(平成29年(2017年)10月22日9時)
図6 総選挙の日の台風の目(平成29年(2017年)10月22日9時)

 地方自治体の職員は、選挙の時は担当部局以外から多くの人が集められる総動員体制ですが、この総動員体制の時に、超大型で強い台風によって別の総動員体制の防災対応が必要になっています。

 どちらもミスのないようにしっかり対応をとらなければならない業務で、職員の負担はかなりものものでした。

 離島をかかえる自治体は、投票日を前倒しにしたり、投票時間の締め切りを2時間繰り上げたり(山梨県南部町佐野分館では近くの町道では落石や倒木の危険ということで繰り上げ)、開票作業を翌日に延期したりしています。

引用:10月20日の読売新聞夕刊

台風接近 離島きょう投票も

衆院選が投開票される22日は、台風21号の影響で、全国的に大荒れの天気となる恐れがある。離島を抱える自治体などでは、投票日を前倒しするなどの対応を進めている。…。

投票箱の輸送に支障が出る恐れのある離島などでは、投票日を繰り上げたり、投票時間を短縮したりする動きも出ている。台風接近に伴う投票繰り上げは、2005年の衆院選でも沖縄県などで実施されたが、総務省によると、今回の選挙でも20日までに全国の11自治体が投票を1~2日前倒しすることを決めている。台風の進路によっては、こうした自治体が、さらに増える可能性もある。

高知県宿毛市は離島・沖の島と鵜来(うぐる)島で、三重県鳥羽、志摩両市も離島6島で、投票日を1日繰り上げた。宮城県石巻市の離島・田代島と網地(あじ)島では、衆院選と同日実施の知事選の投票が2日繰り上げられ、20日午前7時から始まった。

  また、投票所が急遽、避難所に変わるという所もでてきました。

引用:10月23日の読売新聞朝刊

衆院選 台風 投票所が避難所に

 台風21号は衆院選の開票にも影響し、全国12市村(12選挙区)では、荒天で投票箱を開票所に運び込めないなどの理由で、22日に予定されていた開票作業が23日以降に延期された。

 愛知県西尾市選挙管理委員会は、海上タクシーが悪天候で欠航したため同市の離島・佐久島から投票箱を回収できなくなり、市全体の開票作業を23日午後に延期することを決めた。公職選挙法は、各選管が管理する全ての投票箱がそろわなければ開票作業はできないと定めており、票を集計する県選管の担当者は「こちらも23日に体制を維持する必要があり、休日出勤などで人員を確保しないと……」とため息をついた。…。

 一方、東京都日野市では、投票所の小学校体育館が避難所になり、館内を仕切って住民を受け入れた。

 さらに、総務省によると、この時の総選挙で、期日前投票をした有権者は2191万人となり、制度開始以降、初めて2000万人を突破しました。

 台風21号の接近に備えて、事前に投票した人が多かったと見られています。

 令和3年(2021年)の総選挙では、期日前投票をした有権者は2104万人と、平成29年(2017年)の総選挙より少し減っていますが、台風の影響がないのに2000万人を超えています。

 期日前投票が始まった平成17年の第44回以降、896万人、1398万人、1204万人、1315万人ときての2191万人、2104万人です。

 平成29年(2017年)の台風21号は、期日前投票を増やす大きな流れを作った台風なのかもしれません。  

図1、図2、図3、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図4、図5、表1の出典:気象庁ホームページ。

表2の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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