Yahoo!ニュース

アトピー性皮膚炎と経口ステロイド(飲み薬):長期使用で起こりうる11の副作用と最新の研究結果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

アトピー性皮膚炎でお悩みの方、経口ステロイド薬(ステロイドの飲み薬)を長期服用されていませんか?韓国で行われた100万人以上を対象とした大規模研究で、その長期使用に伴うリスクが明らかになりました。今回は、経口ステロイド薬の長期使用が引き起こす可能性のある副作用について、最新の研究結果をもとにお伝えします。

【経口ステロイド薬とは?アトピー性皮膚炎治療における位置づけ】

経口ステロイド薬は、強力な抗炎症作用を持つ薬剤です。アトピー性皮膚炎の症状を素早く改善する効果があるため、しばしば処方されます。特に、中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者さんの約10%が、局所療法(塗り薬)だけでは十分な効果が得られないために経口ステロイド薬(飲み薬)を使用しているという報告があります。

しかし、その使用には慎重を要します。国際的なガイドラインでは、アトピー性皮膚炎の治療において経口ステロイド薬の使用を避けるか、短期間の使用に限定することを推奨しています。にもかかわらず、症状のコントロールが難しい患者さんの中には、長期にわたって使用している方も少なくありません。

【経口ステロイド長期使用のリスク:100万人超の大規模研究が明らかにした事実】

韓国の研究チームが、2013年から2020年にかけて100万人以上のアトピー性皮膚炎患者のデータを分析しました。この研究では、経口ステロイド薬の使用期間を30日以上と90日以上の2つのケースに分けて調査しています。

結果として、1年間で90日以上経口ステロイド薬を使用した場合、様々な副作用のリスクが11%増加することがわかりました。一方で、30日以上の使用では、リスクの有意な増加は見られませんでした。

具体的には、以下のような副作用のリスクが高まる可能性があります:

1. 骨粗しょう症

2. 骨折

3. 2型糖尿病

4. 高脂血症

5. 高血圧

6. 心筋梗塞

7. 脳卒中

8. 心不全

9. 大腿骨頭壊死(骨の一部が壊死する病気)

10. 白内障

11. 緑内障

特に注目すべきは、90日以上の使用で以下のリスクが顕著に増加したことです:

- 骨折のリスクが1.22倍に増加

- 高脂血症のリスクが1.16倍に増加

- 心筋梗塞のリスクが2.22倍に増加

- 大腿骨頭壊死のリスクが6.88倍に増加

これらは重大な健康問題につながる可能性があるため、要注意です。

また、興味深いことに、経口ステロイド薬の長期使用年数が増えるほど、副作用のリスクも徐々に高まることがわかりました。累積使用年数や連続使用年数が1年増えるごとに、副作用のリスクが約6%ずつ上昇する傾向が見られました。

【安全な治療のために:経口ステロイド使用の新しい指針】

では、アトピー性皮膚炎の治療において、経口ステロイド薬をどのように使用すべきでしょうか?

研究結果から、1年間で90日以下の使用であれば、副作用のリスクは大きく増加しないことがわかりました。したがって、症状が悪化した際の短期的な使用に限定することが望ましいと言えます。

具体的には以下のような使用方法が推奨されます:

1. 使用期間を90日以内に抑える

2. 症状の急性増悪時のみの使用に限定する

3. できるだけ低用量から開始し、徐々に減量する

4. 長期使用が必要な場合は、定期的に副作用のチェックを受ける

アトピー性皮膚炎の治療において、経口ステロイド薬の使用は避けられない場合もあります。しかし、その使用は必要最小限に抑え、他の治療法との併用を検討することが重要です。

また、新しい治療法として注目されている生物学的製剤(デュピルマブなど)も選択肢の一つです。この研究でも、中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者の約1%がこれらの新しい治療法を受けていることが報告されています。これらは、アトピー性皮膚炎の原因となる炎症を抑える効果があり、経口ステロイド薬に比べて長期使用時の副作用が少ないとされています。

【患者さんへのアドバイス:アトピー性皮膚炎と上手く付き合うために】

アトピー性皮膚炎の治療は、一人ひとりの症状や生活環境に合わせて、最適な方法を選択することが大切です。経口ステロイド薬の使用に不安がある場合は、以下の点に注意しましょう:

1. 担当の皮膚科医に相談し、適切な治療プランを立てる

2. 定期的に検査を受け、副作用の早期発見に努める

3. 症状の変化や気になる症状があれば、すぐに医師に報告する

4. 保湿や生活習慣の改善など、薬以外の対策も積極的に行う

5. 新しい治療法についても情報を収集し、医師と相談する

皮膚の健康は、全身の健康にもつながります。この研究結果を参考に、より安全で効果的なアトピー性皮膚炎の治療を目指しましょう。経口ステロイド薬は強力な治療薬ですが、その使用には十分な注意が必要です。医師とよく相談しながら、アトピー性皮膚炎と上手く付き合いましょう。

参考文献:

1. Jang YH, et al. Long-Term Use of Oral Corticosteroids and Safety Outcomes for Patients With Atopic Dermatitis. JAMA Network Open. 2024;7(7):e2423563.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

美肌アカデミー:自宅で叶える若返りと美肌のコツ

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

皮膚科の第一人者、大塚篤司教授が贈る40代50代女性のための美肌レッスン。科学の力で美しさを引き出すスキンケア法、生活習慣改善のコツ、若々しさを保つ食事法など、エイジングケアのエッセンスを凝縮。あなたの「美」を内側から輝かせる秘訣が、ここにあります。人生100年時代の美肌作りを、今始めましょう。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

大塚篤司の最近の記事