那覇地裁での初公判 米兵の「否認」、その詳細は
7月12日、那覇地裁で16歳未満の少女に対するわいせつ目的誘拐と不同意性交に問われた、嘉手納基地所属の空軍兵長、ブレノン・ワシントン被告(25)の初公判が開かれた。公判の様子をリポートする。
騒然とする那覇地裁
傍聴抽選倍率は8.25倍
この日、那覇地裁では傍聴抽選券の配布が始まる12時40分の前から傍聴希望者やマスコミが集まり始め、一般傍聴席32席に対して配られた抽選券は最終的に264枚だった。
法廷前では荷物検査が行われ、緊張した雰囲気が漂う中、予定より10分遅れで公判が始まった。
検察の冒頭陳述などによる事件当日の経緯は次の通り。※直接的な性暴力行為(性的行為)については省略。
昨年のクリスマスイブ、夕刻のまだ明るい時刻。母親とけんかをしたために家を出て公園に座っていた少女は、ワシントン被告から「あのー、大丈夫?」と日本語で声をかけられた。被告は前日に妻と口論をし、その気晴らしをするために自動車で公園に来ていた。
被告と少女は翻訳アプリを使用してやりとりをし、このとき少女は母親とけんかをして公園に来たことを被告に伝えていた。被告は自分のことを「軍の特別捜査官」と嘘を伝えた。
また、「何歳ですか?」と尋ねられた少女は、両手を使ったジェスチャーと日本語・英語で年齢を告げた。
この後、被告は「寒いから車の中で話さない?」と少女を誘い、自分の車に乗車させて自宅へ連れて行った。被告は自宅内を案内し、軍服を見せるなどした。
帰宅した少女は「どこへ行ってたの?」と聞く母親に泣きながら被害を申告し、母親はその場で110番通報をした。
検察側が提出している証拠は、公園で2人が会話している様子が映った防犯カメラの映像や、翻訳アプリのやり取りの記録、少女に付着した被告のDNA型と一致する微物など。
被告側は「18歳だと思った」
「同意があった」と無罪を主張
証言台に座ったワシントン被告は白シャツに黒いズボン。身長は兵士にしてはそれほど高くないように見えたが、筋肉質で肩周りの太さが目についた。顔つきは年齢よりも幼く見えた。
罪状認否では最初にはっきりと「I'm not guilty(私は無実です)」と述べ、誘拐もレイプもしていないと続けた。被告の発言はすべて法廷通訳が入っている。
弁護人による被告の主張は、性的行為の一部は認めるものの、少女を18歳だと認識し、さらに性的行為には同意があったというもの。18歳と思い同意の元に行為を行ったため、不同意の故意はなく、わいせつ目的誘拐や不同意性交の構成要件は満たさないと主張した。
傍聴席の後方からでは聞こえづらい検察官の声に比べ、弁護人の声はよく響いて聞こえた。
焦点となるのは
「18歳と認識した」のかどうか
被告側の主張を聞いて、証拠から否定できないものについては認め、決定的な証拠がないものはすべて否認したという印象を受けた。
ちょうど1年前、2023年7月13日に改正法が施行された性犯罪に関する刑法では、性交同意年齢が16歳に引き上げとなった。13歳以上16歳未満については、相手が5歳以上年上だった場合、年齢差による関係性から両者の間には「性的同意がない」という判断になる。
しかし被告側は「18歳と確認した」「18歳と認識していた」「解散するまで16歳未満とは思っていない」と再三主張した。被告が被害者を18歳だと誤認していた場合、16歳未満に対する不同意性交の故意がないことになる。
両者のやり取りは、被告が「私の車まで一緒に来て」と伝えた文面など翻訳アプリの記録に残っているものもあるが、年齢については少女がジェスチャーや口頭で伝えたために記録がないと思われる。
また、たとえ18歳であったとしても、同意がなかったことが立証されれば不同意性交等罪は成立するが、弁護人は不同意ではなかったと主張している。
さらに被告側は、キスや体を触ったことは認めたものの「性交等」にあたる行為については否認した。DNA型の付着から体を触るなどの行為は否認できなかったものの、それ以上の行為についてはお互いの証言しかないと見込んでの否認だと感じた。「性交等」にあたる行為でなければ、不同意性交等罪よりも軽い罪である不同意わいせつ罪となる。
以上のように、検察側は「被告が少女を16歳未満と認識していたこと」あるいは「両者の間に同意がなかったこと」、そして「キスなどだけではなくそれ以上の行為が行われたこと」を立証する必要がある。最も重要なのは年齢の件だ。
これらについて、被告と少女、どちらの証言に信憑性があるのかが法廷で問われることとなる。8月に、少女と母親、そして被告の尋問が予定されている。
言葉が通じない少女に対して
どのように明確な「同意」を取ったのか
初公判の前日、沖縄県庁前では今回の事件に抗議するフラワーデモの緊急集会が行われており、傍聴席にはフラワーデモの主催者や、参加者も座った。否認事件となったことに、彼女たちは一様にショックを受けた様子だった。
否認事件の場合、被害者側の出廷がほぼ必須となる。弁護人から当時の様子を厳しく聞かれることも当然予想される。16歳未満を法廷に立たせることの残酷さを思うと、今から憂鬱になるのは私も同じ気持ちだ。
被告側の「年齡誤認」や「同意主張」について、傍聴者たちから聞かれたのは次のような声だった。
・検察官が被害者の身長や体重を示したが、体格からして18歳と誤認するのは難しいのではないか
・クリスマスイブの夕方に「母親とけんかしたから公園にいる」と話したり、年齢を両手を使って示そうとしたりする少女を18歳と誤認するとは考えづらいのではないか
・翻訳アプリを使って会話をする初対面の両者の間で、どうやって性的同意が取れるのか
・少女は帰宅してすぐに泣きながら母親に被害申告しているのに、同意と言えるのか
・公園での会話から母親の通報までが短時間であり、この経緯で「わいせつ目的」ではなかったと言えるのか
少女のケアはどうなっているのか
支援者の関心点
性犯罪事件の公判では、検察側の席に被害者参加のための代理人弁護士が出廷することがある。犯罪被害者の法廷でのサポートを行うための被害者参加人弁護士だ。しかし今回の初公判では、検察官の隣に代理人弁護士の姿は見えなかった。被害者参加人弁護士をつける権利が、被害者側に伝わっているのかが気になった。
また、証言する際には法廷内での遮蔽措置ではなく、別室からのビデオリンクで証言することもできる。「加害者」と同じ部屋に入ることに抵抗感を感じる「被害者」への措置である。心情を裁判官に直接的に伝えるために、あえて法廷内での証言が採用されることもあるが、今回の場合はどうなのかが気になった。
これまで沖縄の性暴力事件の支援に携わってきた人たちからは、少女がカウンセリングやケアを受けられているのか心配する声が上がった。
今回の事件は「被害者のプライバシー保護」という理由で、県警や外務省から沖縄県への連絡が行われなかったとされる。しかし「被害者のプライバシー保護」と、被害者の心情へ配慮するようなことを声高に言うのであれば、少女が現在どのようなカウンセリングやケアを受けることができているのか(被害を知っていた警察が、少女を県の性暴力被害者ワンストップセンターなどにつないだのか)も同時に明らかにしてほしい。それは同様の被害に遭った人のための情報になり得るし、今回の対応で不信を招いている県警への一定の評価にもつながるかもしれない。
付け加えると、少女と被告が公園で「翻訳アプリ」でやり取りをしたという情報が誤解されて伝わっているのか、少女がSNSアプリで「出会い」を求めたというデマ情報がネット上に書き込まれているのを目にした。こういった間違った情報に基づく書き込みは当事者や関係者を傷つけかねないため、注意が必要だ。
※記事内の画像は全て筆者撮影