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tvk「ライブ帝国 ザ・ファイナル」が見せた音楽アーカイブ番組の正しいあり方

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
番組公式サイト

圧巻だったと言っていいだろう。

テレビ神奈川(tvk)の開局50周年特別番組として、4月2日(土)に、第1部・第2部、計約7時間にわたって放送された『ライブ帝国 ザ・ファイナル』。

神奈川県とその周辺地域でしか見られなかった番組なので、本来ならここで書くのもはばかられるところかもしれないが、逆に、この番組の凄みを広く知っていただきたく、あえて書いておきたい。

約7時間、内容はいたってシンプル。tvkで50年間に放映された音楽ライブ映像をひたすら流す、流し続けるというもの。

音楽好きなら承知しているところだろうが、『ヤングインパルス』『ファイティング80's』『ライブトマト』『ライブY』と、tvkにはライブ番組を放映し続けた「ロックステーション」としての長い歴史があり、ライブ映像アーカイブが豊富に存在するのだ(このあたりについては、兼田達矢著『横浜の“ロック”ステーション TVKの挑戦』-DU BOOKS-に詳しい)。

ひたすら流し続けて、トータル何と65曲。その垂涎のラインナップは、同番組の公式サイト(リンク)を確認していただきたい。

55歳の音楽評論家として個人的にグッときたのは、やはり『ヤングインパルス』(1972~1976年)時代の古い映像だ。特に第1部の、チューリップ『夢中さ君に』→ガロ『学生街の喫茶店』→RCサクセション『ぼくの自転車のうしろに乗りなよ』の3連発には度肝を抜かれた。

それ以外にも、吉川晃司『You Gotta Chance~ダンスで夏を抱きしめて~』→山下久美子『So Young』という「ナベプロ(当時)ロック・メドレー」(筆者命名、以下同)や、ZIGGY『GLORIA』→PERSONZ『DEAR FRIENDS』という「1989年夏の月9ドラマ主題歌対決」、大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』→久保田利伸『流星のサドル』という「80年代ファンキーリレー」など、コンセプチュアルな曲順も含めて大満足。

好感を抱いたのは、まず、その淡々とした構成と進行である。吉井祥博と岡村帆奈美というtvkの2人のアナウンサーが、リクエストのメッセージを読んで、映像を流す。それだけ。

加えて、上記の音楽番組を手掛けた元tvkプロデューサーの住友利行氏(体調不良で欠席した宇崎竜童の代打)が必要最小限の解説を加えるのだが、その割合も絶妙で、好感の持てるものだった。

「リクエストを読んで映像を流す、当たり前じゃないか」と思われる向きもいるかもしれないが、言いたいことは、それが当たり前ではないということ。つまり、たくさんのゲスト、それも音楽に対して造詣や愛のないタレントや芸人を、まったく介在させなかったのが素晴らしいと思ったのだ。

視聴率のことが気になるのか、サービス精神か、もしくは単に不安なのか、数多くのゲストがワイワイと話している音楽アーカイブ番組を見ていて私は、「それよりも、もっと音楽を見せて・聴かせてくれ」と思うことが多い。対して『ライブ帝国ザ・ファイナル』には、そんなイラッとくる場面などまったくなかった。

また、古ぼけた映像や音について、かなり丁寧な補正を行ったのではないか。詳しくは分からないが、吉井祥博アナのトークには、そのあたりをにおわせる発言があったし、また『ヤングインパルス』の映像、具体的にはダウン・タウン・ブギウギ・バンド『スモーキン・ブギ』のドラムスの音にシビれたものだ。

細かな話になるが、過去の「4:3」の映像を現在の「16:9」に挿入する方法も理想的だった。「4:3」映像を右側に寄せて、空いた左側に文字情報を入れていた。感じたのは、貴重なアーカイブ映像を「汚す」文字情報を最小限にしたいという作り手の配慮である。

加えて、選曲のセンスも十分に伝わった。先に書いたように、単に時系列で垂れ流すのではなく、音楽好きの視聴者の記憶と関心を呼び起こすように、慎重に並べられた選曲とセットリスト。

ちなみにtvk音楽番組の顔と言える佐野元春については『君を連れてゆく』(1993年)という曲が選曲された。正直、個人的には『アンジェリーナ』や『SOMEDAY』で盛り上がりたかったところだが、それでも、意志のある選曲に悪い気はしなかった。

長々と書いたが、言いたいことは、冒頭にも書いたように、音楽好きにとって圧巻だったということ――。

そして、こんな番組をもっと見たい、「ファイナル」などと言わずにtvkでも、そして他局でももっともっと、ということだ(ちなみに番組内で「様々なライブ映像をオンエア」する新番組『音楽のカタチ』の告知があった。楽しみだ)。

映像の権利関係の調整が大変だったという話を、吉井祥博アナが番組内で明かしていたが、確かにそうだろうと思う。細々とした調整をしてくれたスタッフに感謝したいし、逆にミュージシャンの側には、できるだけ寛容な対応をしてほしい。だって、音楽の映像アーカイブは、今やおそろしく貴重な文化遺産なのだから。

最後に。「ダウン・タウン・ブギウギ・バンド」と「ダウン・タウン・ファイティング・ブギウギ・バンド」を別バンドだとすれば、全65曲の中で2曲流れたのは唯一、RCサクセションだけだった。

放送された4月2日は忌野清志郎の誕生日。はつらつと歌う若き自分の姿が、令和のテレビに映っているのを見て、さぞかし遠い空の上で喜んだことだろう。

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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