研究者VS出版社、仁義なき戦い
交渉決裂
ついにここまで…というニュースだった。ドイツ科学機構連合は、論文雑誌を多く発行するエルゼビア社(オランダ)との契約を解消したことが、世界中の研究者に大きな衝撃を与えている。
当然ではあるが、この結果、ドイツの科学者はエルゼビア社が発行する論文雑誌を読むことができなくなった。
ドイツのみならず、台湾も契約を打ち切り、また、ペルーでは予算のカットで、契約ができなくなったため、これらの国の研究者もエルゼビア社の雑誌を読めなくなる。
影響は甚大
ドイツ、ペルー、台湾の研究者にとって、影響は大きい。なぜなら、エルゼビア社が提供する「サイエンスダイレクト」に収録されている雑誌数が非常に多いからだ。
これがどの程度のものなのかぴんと来ない人も多いと思うが、全論文に占める割合は相当なものだ。
どうしてドイツ、台湾はエルゼビア社との契約を打ち切ったのか。それは、あまりに購読料が高騰してしまったからだ。
右肩上がりの購読料
近年、エルゼビア社を中心に、論文雑誌の購読料が高騰しており、大学や研究機関を悩ませている。
年に6~7パーセントも購読料が高騰していると言われ、大学などの予算を圧迫している。日本国内でも、名古屋大学がエルゼビア社との包括契約を破棄し、個別の契約に変更したことが話題になった(その後一部の分野で包括契約を復活しているが)。
エルゼビア社だけでなく、大手論文雑誌社であるワイリー社との契約を破棄した大学もある。
こうした状況のなか、2012年にはエルゼビア社に対するボイコット運動「学術の春」が勃発した。
高騰する価格、抱き合わせ販売、オープンアクセス(自由に論文雑誌を読むことができる)を阻止する姿勢などに研究者たちの怒りが爆発し、エルゼビア社の雑誌に論文を出すのをやめようという運動が拡大したのだ。
エルゼビア社だけが悪いわけではないが、怒りの矛先が最大手に向かったわけだ。
希望はオープンアクセス?
こうしたなか、期待を集めているのがオープンアクセス(OA)だ。
オープンアクセスにする方法としては、大学などの「機関リポジトリ」で論文を自由に読めるようにするグリーンOA(セルフアーカイブ)と、著者が料金を払うことで論文出版時に誰でも論文を読むことができるゴールドOA(オープンアクセス出版)がある(上記京都大学図書館機構ウェブより)。
最近EUがすべての論文をオープンアクセスにする方針を決定するなど、オープンアクセスが世界的な潮流となっていると言えるだろう。
とはいえ、よいことづくめではなく、偽のオープンアクセス雑誌が現れるなど、問題点も指摘されている。
仁義なき戦いに終わりはあるか
しかしながら、すべての論文がオープンアクセス化できるわけではない。こんななか、ひそかに使われているのがSci-Hubだ。
ネイチャー誌の「今年の10人」に、Sci-Hubの創設者、アレクサンドラ・エルバキャン氏が選ばれている。
当然、Sci-hubに対して論文雑誌側は訴訟を起こし抵抗している。
まさに仁義なき戦いと化している研究者VS出版社、どのような「オトシマエ」がつけられるのだろうか。