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レアルが勝ちバルサが敗れたのは なぜか。CL準々決勝の明暗

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

レアル・マドリード対バイエルンは、4月18日、19日に行なわれたチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝4試合の中で最も競った一戦だった。

昨季のCL覇者で、UEFAチームランキングで現在首位をいくR・マドリード。対するバイエルンは同ランキング2位。この両チームに同ランキング3位のバルセロナを加えた3強時代にある欧州サッカー界にあって、その1位対2位の直接対決は、準々決勝で見るには早すぎる試合と言えた。

ベスト4に過去3シーズン連続して駒を進めているバイエルン。だが、準決勝で敗れた相手はいずれもスペイン勢だ。2013~2014がR・マドリード(通算0-5)、2014~2015はバルセロナ(通算3-5)、2015~2016はアトレティコ・マドリード(通算2-2、アウェーゴール差)である。

スペインの両雄とは互角、アトレティコには有利の下馬評だったにもかかわらず、バイエルンは3連敗。実力は満たしているのに勝てない状態が続いていた。今季はどうなのか。

過去3シーズンの敗因をひと言でいえば、対応力不足。バイエルンに即対応できたスペインの3チームに対し、バイエルンは対応できなかった。強者との戦闘に求められる心構えができておらず、面食らい、慌てた。

バイエルンはドイツ国内において無敵を誇る。迫るのはドルトムントぐらいだ。1強の状態にあるブンデスリーガに対し、スペインリーグは2強+アトレティコだ。アトレティコも欧州クラブランキングでは、バイエルンに次いで4位につける。高い次元で拮抗した関係にあるスペインの3チームと対するバイエルン。注目すべきはR・マドリードというより、バイエルンの戦いぶり。対応ぶりだった。これまで露呈させた悪い傾向から脱却できるか。

しかし4年連続、バイエルンはスペイン勢相手に慌ててしまった。夢中になりすぎて我を忘れた。その結果、勝てる可能性の高い試合を落とした。昨季より戦力を上げていたのはバイエルン。横ばいを示すR・マドリードに対し、第1戦、第2戦とも、優位な戦いをしていながら、自ら好ましくない展開に持ち込んでしまった。

第1戦では前半、先制点を挙げた。だがR・マドリードのトニ・クロース、ダニエル・カルバハルがイエローをもらい、やや浮き足だったかに見えたとき、アルトゥーロ・ビダルがPKを外してしまった。そして後半早々、同点に追いつかれ、ハビ・マルティネスの赤紙退場後に逆転弾を許す。

第2戦でも、通算スコア3-3に追いつき、さあこれからという段になって、ビダルがレッドカードをかざされた。

CL優勝3度を誇る名将カルロ・アンチェロッティが監督の座に就いていながら、試合巧者ぶりを発揮できなかった。“1強の悲劇”をさらけ出すことになった。

一方、この天王山を制し、ブックメーカーから大本命に推されることになったR・マドリードだが、強いという印象は抱かない。この試合でも、耐えているうちにバイエルンが勝手に転んだ。そんな印象だ。

これで、3強のうちの2チームが舞台から消えたことになる。R・マドリードの準決勝の相手はアトレティコ。昨季の決勝のカードだ。1年前はPK合戦だった。2013〜14も決勝で対戦した。こちらも延長に及ぶ熱戦。まさに紙一重の戦いだった。1988~89、89~90のミラン以来、26年間現れていない2連覇への道のりは、いまも険しい。予断を許さない状況にあると思う。

決勝トーナメント1回戦の第2戦で、パリSGを0−4から逆転したバルサは、準々決勝の対ユベントス戦でも同様に、第1戦を終えて0−3という苦境に立たされた。

バルサ対ユーベで想起するのは、3−1でバルサが勝利した2014~15のCLファイナルだ。ユーベはよく健闘したが、その時、両チームの力にはスコア以上の差があった。あと2、3回戦っても、ユーベは勝てそうもなかった。その時、2年後の準々決勝でユーベが第1戦を3-0でものにすることは、想像できなかった。さらにその第2戦で、守りを固める作戦に出なかったことも、想像の範疇を超えていた。

バルサ61%対ユーベ39%。バルサは例によってボール支配率で上回ったが、この程度の差では、バルサらしさが発揮されたことにはならない。最低でも65%以上。70%を超えるぐらい一方的な展開にならないと逆転は難しい。そう見ていたが、結果は61%。それを下回った。

堅守を自慢にするユーベが守り切った。スポーツニュースのナレーションはそう伝えたが、ユーベは少なくとも、2年前よりよく攻めた。

なにより布陣が違っていた。4−3−1−2から4−2−3−1へ。その結果、2年前は単調だったカウンター攻撃に、バラエティが加味された。2方向が3方向に広がったことで一回一回、可能性のある攻撃を繰り返した。

バルサにはこれがボディブローのように効いた。バルサペースはそれによって寸断。連続攻撃を仕掛け、ユーベディフェンスを混乱に陥れるという狙いを阻止された。ユーベが90分間、バルサの攻撃をひたすら耐えたというわけでは全くない。

バルサは前の3人(ネイマール、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス)の力は相変わらずだが、それ以下の組織が弱体化している印象だ。サイドチェンジも少なく、両サイドバックが攻撃に効果的に絡めていない。レアル・マドリードの両サイドバック(カルバハルとマルセロ)と比較すると、バルサの両サイドバック(ジョルディ・アルバとセルジ・ロベルト)は大きく劣る。前の3人の力に頼るサッカーに陥っている。

クリスティアーノ・ロナウドはともかく、カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイルを試合途中でベンチに下げても何ら問題のないR・マドリードとの違いでもある。マルコ・アセンシオ、ルーカス・バスケスが投入されても、スタイルを保つことができるR・マドリードと、3人を常時ピッチに置いておかなければ、らしさを発揮できないバルサ。この差は大きい。

岡崎慎司所属のレスターを静かに下したアトレティコ。やや苦戦気味だったとはいえ、このチームの自慢は対応力だ。強豪を相手にしても慌てない場慣れしたサッカーができる。バイエルンのような負け方はしない。R・マドリードはもとより、ユーベにとっても戦いにくい相手になる。

未知の可能性を秘めているのは、ドルトムントを撃破したモナコだ。魅力という点では、2003~04シーズンに決勝進出を果たしたチームの上をゆく。ラダメル・ファルカオとキリアン・ムバッペという切れ切れの2トップ。その下で構えるトーマス・レマー(左)、ベルナルド・シルバ(右)も、見ていて楽しい上質なアタッカーだ。ユーベとの準決勝は好勝負必至だ。

なにより、レオナルド・ジャルディム監督がすばらしい。今季のCLで采配を振るったポルトガル人監督は4人。ヨーロッパリーグにも5人いる。計9人は欧州最多だ。優秀な若手監督が続々誕生しているポルトガルだが、42歳のジャルディムもそのひとり。攻撃的で今日的。そして監督のみならずチームも若々しい。

2014~15のCLではアーセナルを倒し準々決勝に進出。そこで、ユーベと白熱の大接戦を繰り広げた実績がある。今季の力はそれ以上。この4チームの中で下馬評は最も低いが、最も目を凝らしたくなるチーム。番狂わせが起きにくくなったCLに、新しい風を吹かすことができるか。

モナコに敗れたドルトムントの香川真司は、まずまずのプレーを見せた。小回りの利く自在なボール操作で相手を幻惑。攻撃に変化をつけることができていた。もうワンランク上の頼りがいのある選手になるために望まれるのは、縦へ推進力とシュート力。ゴールに向かう強い姿勢だ。これを機にプレーが覚醒することを期待したい。

(集英社 Web Sportiva2017年4月20日掲載原稿に加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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