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新型コロナで市民が「絶対に外に出てはダメ」と訴えるのに、武漢の封鎖解除は安全か?

宮崎紀秀ジャーナリスト
武漢は明日封鎖を解除されるが、本当に安全か?(写真は2020年4月4日武漢)(写真:ロイター/アフロ)

 中国の武漢、新型コロナウイルスの「震源地」は明日4月8日、封鎖が解かれる。これまで武漢に閉じ込められていた人々が、飛行機、鉄道などで各地に移動できるようになる。もちろん健康状態など条件をクリアしなくてはいけないが...

 果たして本当に安全なのか?

応援の医療チームは次々と武漢を後に...

「武漢の人民は、あなたを永遠に忘れない」

 赤い横断幕を掲げ熱狂する人たち。一列になって通り過ぎる若い女性たちは、中国の小さな国旗を振ってにこやかに観衆に応えた。

 4月6日、北京、吉林省、山東省など、中国の各地から応援に来ていた医療チームが武漢を発ち、それぞれの本拠地に戻った。冒頭は、武漢の空港に現れた医療チームの様子だ。国営テレビが報じた。

 この日、1400人以上の医療関係者が「凱旋帰郷」した。同様のニュースは連日流れた。更に10日には1000人が武漢を後にし、最終的には応援の医療関係者は500人のみが残るという。

 湖北省の武漢は、新型コロナウイルスの感染の「震源地」である。1月23日に封鎖、いわゆるロックダウンされた。明日4月8日、その封鎖が解かれる。医療チームの帰郷は、武漢の復活を物語る恰好のニュースだ。

症状のない感染者をカウントせず

 習近平国家主席は、先月10日、感染拡大以来、武漢を初めて視察した。武漢での感染症との戦いに勝利したという立場表明だ。実際に、衛生当局が、武漢での新たな感染者数はゼロと発表する日も続いた。

 実は、中国は症状の無い感染者を、感染確認患者とはカウントしてこなかった。無症状の感染者とは、発熱や咳などの症状はないが、検査でウイルスの陽性反応が出た人を指す。

 中国の衛生当局は、無症状の感染者でも他人を感染させるリスクはあると明示している。「咳やくしゃみがないため、ウイルスが排出され伝染する機会は比較的少ないと、一部の専門家は指摘している」としながらも、同時に「潜伏期間や伝染力の強弱については、さらに科学的な研究が必要」と判断を留保している。

無症状感染者を加えたら...

 中国は、これまで基本的には明かしてこなかった無症状の感染患者数についても4月から発表するとした。新たな感染数をゼロと発表した日に、無症状の感染者が確認されていたなどと告発され、当局が説明に追われた「苦い経験」も影響したのだろう。

 武漢の衛生当局は、同市内で4月5日に新たに感染確認された患者はゼロと発表した。従来通りの好成績である。一方、無症状感染者は、同日新たに34人増えたとも発表した。

 さらに無症状の感染症患者をカウントするようになったため、武漢では「無感染」の小区が70か所減ったという。小区とは一般的に団地やマンションなどの集合住宅が存在する敷地全体を1つの区切りとするエリアを指す。

 武漢ではこうした小区を封鎖し、住民を外に出さない対策を採っていた。

武漢の女性は「外に絶対出てはダメ」

「電話をくれた目的は、『絶対に、絶対に外に出てはダメ』と私に言うためです。外の状況はとても深刻だから、絶対に交通機関を使ってはいけない。バスに乗ってはダメ、地下鉄も乗ってはダメ」

 これは、武漢に住むとみられる女性の音声通話のやり取りである。中国人の友人から私の元に送られてきた。

 この女性は、病院でボランティアとして働く別の女性が、自分に電話をかけてきて明かした内容を話している。興奮したような早口。言葉は訛りが強いので、武漢の方言が分かるという人に聞いてもらった。

状況は以前より深刻?

「外の状況は小区が封鎖されていた以前よりもひどい。病院では毎日、感染確認患者が出ている。医者には、『どうしても外に出なくてはならないなら、防疫対策を以前よりも厳重にするように』と言われた」

 応援の医療チームが武漢を去ってしまうことについても、電話の相手は病院で尋ねたようだ。

「彼女が『どうして、まだ良くなっていないのに、上海に戻ってしまうのですか』と応援の医療チームに聞いたら、医師は『私たちは皆さんが一番困難で人手が足りない時に助けに来ただけなのですよ。もう戻らなくてはなりません』と言われたそうです」

 武漢は明日封鎖解除されるが、その日程について、湖北省は先月24日にすでに発表していた。2週間も前に決めたスケジュールにぴったり添うものだ。

感染危険が潜伏化した?

「外は無症状の感染者も多く、感染確認者も多い。その上、前は国が払ってくれたけど、今は、どんな検査も自分で費用を払わなくてならなくなった。お金の無い人は病院に行きたがらない」

 そのため感染者が潜在化し、危険が増しているという話だ。さらにその先を聞くと、過去の衝撃が頭をよぎる。武漢を封鎖する前にすでに500万人が当地を離れていた、と封鎖の数日後に武漢市長が明かした事実だ。

「『どうして感染者がいるのに国に報告しないんですか』と病院に聞いたら、『国は今、(感染を)制御できる範囲にあると言っているから、報告をしないのです』。報告しないから皆の警戒心が弱まっていて、多くの無症状の感染者は職場に戻ろうと検査をした時に初めて分かるんです」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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