選挙活動での音楽利用を甘く考えてはいけない
「ごぼうの党が選挙カーでロート製薬に酷似したメロディを流す ロート製薬”一切の関与をしていない”と関係否定」というニュースがありました。ある程度以上の年齢の人ならお馴染みのオープニングキャッチの映像で流れる楽曲の替え歌を選挙カーで流したということだそうです。
この曲はパブリックドメインではなく、JASRAC管理曲(作品コード:017-0964-0)(作詞・作曲はCM音楽分野で有名な津野陽二氏)なのですが、選挙活動での利用はJASRACの許諾を得ればよいという話ではなく、著作者(津野陽二氏)本人の許諾が必要です。JASRACは、FAQにおいて、選挙活動での楽曲使用は特別扱い(人格権の観点から著作者本人の許諾が必要)というポリシーを明記しています。
選挙で楽曲を使用されるということは、一般大衆にその楽曲が特定の政党や候補者につながりがあるというイメージを与えてしまう可能性があります。著作者の承諾なしに、自分の思想と相反する政治活動に楽曲が使用されてしまうと著作者人格権が損なわれることは十分に考えられます。
これとはかなりスケールが違いますが、同様のケースとして、2016年にドナルド・トランプが選挙戦において、ローリングストーンズの楽曲を使用したことに対して、ストーンズ側が中止を申し立てた事件がありました(その時書いた記事)。その時はトランプ側がちゃんと権利処理はしている(BMIやASCAPに利用料は払っているという意)と主張したのですが、選挙での楽曲使用は利用料を払えばクリアーされるものではないことは米国も同様で、結局、BMIが法的措置をちらつかせてトランプ氏は楽曲使用を断念したようです。
承諾もしてないのに自分たちの楽曲がトランプのイメージソングのようにされてしまったらストーンズ側もやってられないでしょうから当然のことです。
選挙活動で音楽を使いたいのであれば、パブリックドメインの曲を使うか(ただし、比較的最近に権利満了した作品については遺族の承諾が必要と思われます)、支援者によるオリジナル楽曲を作るか、作詞家・作曲家本人に承諾を得るかの三択ということになるでしょう。
これと関連した話で、Adobe Stockの透かしが入ったままの写真を使って選挙ポスターを作った立候補者が炎上したケースがありました。立候補者は正規版も購入しているとして弁明したのですが、仮にそうだとしても、「作品に表示されている人物が政治的に他の運動を支持しているように示唆するような方法」での使用はAdobe Stockの利用規約違反という指摘があり、結局、ポスターは回収されたようです。こちらは著作者人格権の問題ではない(写っているモデルの方の人格権の問題)なのですが、選挙関連の素材利用は人格権の点で特に注意が必要という点では共通しています。