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殺人目的で大学に「おの」を持参か?青酸ソーダ窃盗事件にまさかの展開

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 大阪公立大学の元大学院生の男が在学中に研究室から青酸ソーダを盗んだとして5月28日に逮捕され、窃盗と父親に対する殺人予備の容疑で送検された事件がまさかの展開を迎えている。検察が勾留期限である6月17日の起訴を見送って処分保留とした上、警察も「おの」を使った全く別の人物に対する殺人予備の容疑で男を再逮捕したのだ。

なぜ再逮捕に至った?

 発端は5月17日に大学で約160人分の致死量に相当する青酸カリと青酸ソーダの瓶1本ずつ、計50グラムの紛失が判明したことだ。保管庫の鍵はキーボックスのカードリーダーに学生証をかざすとその時間が記録されて取り出せる仕組みとなっており、昨年8月に男の開閉履歴が残っていた。

 男は警察の取調べに対し、青酸カリは研究室で捨て、青酸ソーダだけを外部に持ち出したと認めた。父親から就職活動のことを口うるさく言われるのが嫌で、父親を殺害するためだったと供述したことから、警察は逮捕した青酸ソーダの窃盗容疑に加え、父親に対する殺人予備の容疑でも送検した。

 一方、男の自宅を捜索したところ、クローゼットの中から長さ約40センチのステンレス製のおのが発見された。警察が男に問いただすと、命令口調の言葉遣いに恨みがあった大学の知人を殺害するため、1月にネット通販で購入したものだと供述した。かばんに入れて大学に持参したものの、知人が大学におらず、怖くなって使わずに持ち帰り、そのまま自宅に置いていたという。そこで警察は、知人に対する殺人予備の容疑で男を再逮捕するに至ったというわけだ。

検察は一括して処分を決する意向では

 そうすると、男が研究室で捨てたという青酸カリや、外部に持ち出したもののこれまた使わずに捨てたという青酸ソーダも、本当に父親を殺すためのものだったのか、改めて動機の徹底解明を要する。

 殺人予備罪は最高で懲役2年であり、殺人関連の犯罪の中では格段に軽いが、それでも毒物による大量殺人を目論んでいたということになると、情状面で大きな違いが出てくる。しかも、本当に捨てたのか、どこかに隠していて釈放後に使う可能性があるのではないかといった疑念も払拭できない。

 そこで検察は、青酸ソーダの窃盗容疑などについてはいったん処分保留とし、知人に対する殺人予備による再逮捕で捜査の時間を得た上で、一連の事件の全容解明を果たし、一括して処分を決する意向ではないか。男の行動には支離滅裂な面も見受けられるので、場合によっては鑑定留置を行い、男の責任能力の有無や程度を見極めることになるかもしれない。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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