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「バイデン家の歴史は悲劇」大統領のお騒がせ次男と複雑な家庭環境、前妻の告白本で再燃

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
今年4月、2歳の息子ボー・ジュニアを抱えるハンター・バイデン氏。(写真:ロイター/アフロ)

脱税やマネーロンダリング容疑など、何かとお騒がせなバイデン大統領の次男、ハンター・バイデン氏。

14日、前妻のキャスリーン・ブール(Kathleen Buhle)氏がハンター氏との泥沼の結婚生活を綴った『If We Break: A Memoir of Marriage, Addiction, and Healing』を上梓し、バイデン一家にまた注目が集まっている。

ブール氏はまた今週、朝の番組に複数回出演し、24年間にわたる結婚生活、ハンター氏の薬物依存や不倫問題、離婚申請から1年も経たないうちに見つかった自身のステージ3の大腸癌(がん)のことなど、激動の半生についても告白している。

ジョー・バイデン氏が副大統領だった2009年、夫のハンター氏と腕を組んで歩くキャスリーン・ブール(当時はキャスリーン・バイデン)氏。
ジョー・バイデン氏が副大統領だった2009年、夫のハンター氏と腕を組んで歩くキャスリーン・ブール(当時はキャスリーン・バイデン)氏。写真:ロイター/アフロ

複数の報道によると、ブール氏は23歳だった1992年、オレゴン州のイエズス会ボランティア隊で働いていた時に、同い年のハンター氏と出会った。翌年妊娠がわかり結婚し、3人の娘を育て上げた。

複雑なバイデンファミリー。「一家の歴史は悲劇と喪失」と主要紙

回顧録『If We Break~』に関する報道やインタビューの情報をまとめると、結婚から11年経った2003年、ブール氏はハンター氏から、夫妻で背負っているという税金の支払い義務について告白され、それ以降ハンター氏の飲酒量が増えたという。リハビリ施設に通い薬物依存と闘ってきたが、15年に仲の良かった兄のボー氏が脳腫瘍で亡くなると、再び薬物に手を出し依存がエスカレートしていった。クラックパイプが自宅で見つかるようになったり、複数の女性との不貞行為が明るみに出たりなどし、それらが追い風となって2人は17年に離婚に至った。

ブール氏の回顧録には、ハンター氏と不倫関係になったハリー・バイデン氏のことも綴られている。

ハリー氏とは、バイデン大統領の亡くなった長男、ボー・バイデン氏の未亡人で、ハンター氏にとっては義理の姉、娘たちにとって叔母にあたる人物だ。この秘めた2人の関係について、当時ブール氏は娘たちからの告白で知ったという。

ハンター氏の兄、故ボー・バイデン氏と妻のハリー・バイデン氏(2011年)。
ハンター氏の兄、故ボー・バイデン氏と妻のハリー・バイデン氏(2011年)。写真:Shutterstock/アフロ

ハンター氏は結局ハリー氏とも別れ、19年に17歳年下のメリッサ・コーヘン氏と、出会って6日後に結婚し、翌年息子が誕生している(子の名は、亡き兄を継承したボー・バイデン・ジュニア)。

ほかにもハンター氏のこれまでの不可解な言動として、ホテルの一室で裸で銃の引き金に指をかけている動画や、クラック・コカインとされるものを吸っている写真もメディアに公開されてきた。これらについて朝の番組で「自分の知っている元夫の姿か?」と聞かれたブール氏は「いいえ、まったく」と否定するも、「ドラッグ(問題)は酷かった」と打ち明けた。「彼は深刻なドラッグ中毒に苦しんでいた。悲痛なその姿は、私が結婚した彼ではなかった」。

アルコールを含む薬物への依存と言えば、長年バイデン一家の悩みの種だ。 08年、当時上院議員だったジョー・バイデン氏は、なぜ飲まないのか尋ねられ「私の家族にはもう十分にアルコール依存症がいるから」と答えている。ハンター氏自らも、昨年上梓した自らの回顧録『Beautiful Things』(21年)で、薬物依存との闘いについてオープンにした。

ハンター氏の奇行、そして薬物依存や金銭問題は、父ジョー・バイデン氏の20年の大統領選出馬の際、トランプ陣営の格好の餌食となった。投票日の2週間前になって、コンピュータ修理店で前年に回収されたハンター氏のラップトップの内容が、共和党員によって槍玉に挙げられた。

ハンター氏のウクライナのエネルギー会社「ブリスマ」関連やラップトップの内容などに対する連邦当局の捜査は今年に入って加速していると、ニューヨークタイムズなど主要メディアが報じたが、決定的な証拠が出るまでには至っていない。そんな中、多くの人が知りたいのは捜査に関わる内容なのだが、今回の回顧録にはほとんど肝心なことが書かれていない。

「この本はブール氏に収益をもたらすかもしれないし、アルコール依存症に悩む人にとって慰めになるかもしれないが、これは本当に大衆が読みたがっている本なのだろうか?」とワシントンポストは疑問を投げかけた。

また同紙は「バイデン一家の歴史は、とてつもないほどの悲劇と喪失によって特徴づけられている」と、改めて辛辣に指摘した。ハンター氏の母と妹は、彼が3歳、兄のボー氏が4歳のときに交通事故で亡くなっている。兄弟仲は良く、理解者のボー氏まで病気で亡くしたハンター氏。ブール氏は著書で「政治家としての父と兄の素晴らしい業績や成功は、ハンター氏に打撃を与えたのかもしれない」と分析。ハンター氏の胸の内は他人が知る由もないが、エリート一家に生まれ、さまざまな悲劇が人生で起こる中、ストレスに打ちのめされやすく、自分をうまく自重できない性格なのかもしれない。

そしてブール氏だが、彼女にとっては長年にわたって義理の父だった人、そして自分の娘の祖父でもある人物がこの国の大統領職に現在務いているという身だ。バイデン家とは今も家族行事で顔を合わせる関係で、今年11月19日にホワイトハウスで予定されている長女ナオミ(これもややこしいのだが、事故で亡くなったハンター氏の妹の名と同じ)の結婚式にも出席するという。そんな中、このような暴露本を出版し内部事情を告白したことは、イギリス王室版のメーガン・マークル氏を彷彿とさせる。

ブール氏はなぜそこまでして、今のタイミングで赤裸々な告白に至ったのだろうか?

執筆してきた過程の自身の心境は「カタルシス(溜まった感情が解放され、気持ちが浄化される状態)だった」と語っている。また執筆中に気づいた自分にとっての重要なことは「手放すこと、許すこと、それだけだ」とも語った。「(ハンター氏は)自分のしたことについて、悪いと思っているだろう。そんな気持ちのままこれからも生きていくのは大変だ。彼が良い気持ちになれるよう願っている。本当にそう思う」。同氏曰く「特別」だったというハンター氏との結婚生活。内情は依存問題に翻弄され続けてきたわけだが、タイトル通り、本にまとめることで完全に癒されたようだ。彼女には、このようにして恨みつらみを吹っ切る手段が必要だったのかもしれない。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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