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アトピー性皮膚炎の標的療法と眼の健康 - デュピルマブによる眼合併症とJAK阻害薬へ切り替えの可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

アトピー性皮膚炎は、全身の免疫機能の異常から起こる慢性の炎症性皮膚疾患です。皮膚の症状だけでなく、眼にも影響を及ぼすことが知られています。実際、アトピー性皮膚炎患者の約3分の1に結膜炎が認められ、皮膚から眼への因果関係が示唆されています。

近年、アトピー性皮膚炎に対する全身療法として、IL-4受容体αに結合してアトピー性サイトカインの作用を阻害するデュピルマブが使用されるようになりました。デュピルマブは優れた効果と安全性を示していますが、一部の患者では眼表面の炎症を悪化させたり、新たに引き起こしたりする可能性があります。

【デュピルマブ関連眼表面疾患の実態】

フランスの12施設による共同研究によると、デュピルマブを投与された1109人のアトピー性皮膚炎患者のうち、83人(7.5%)が眼表面疾患のために治療を切り替えたそうです。その多くは軽度から中等度の眼瞼炎や結膜炎であり、アトピー性皮膚炎に最も強く関連するタイプの眼表面疾患でした。

デュピルマブ関連の眼表面疾患は、アレルギー性や通常のアトピー性皮膚炎に伴うものとは異なる機序で起こると考えられています。デュピルマブの使用により、Th1型の炎症経路が増加し、リモデリング(組織の再構築)に関与する物質が増えることなどが関与しているようです。ただし、現時点でのデータは限られており、さらなる研究が必要とされています。

【JAK阻害薬への切り替えによる改善の可能性】

先の研究では、デュピルマブによる眼表面疾患のために治療を切り替えた患者の65%がJAK阻害薬に、35%がIL-13を阻害するトラロキヌマブに変更されました。JAK阻害薬に切り替えた患者では、眼症状が完全に改善する確率が有意に高かったとのことです。

JAK阻害薬は、IL-4やIL-13などの炎症性サイトカインの作用を広範に抑制することから、デュピルマブとは異なる作用機序で眼表面の炎症を改善する可能性があると考えられます。ただし、現時点ではデータが限られているため、今後さらなる検証が必要でしょう。

【アトピー性皮膚炎患者における眼症状管理の重要性】

アトピー性皮膚炎患者、特に全身療法を検討している患者については、皮膚科医が眼の健康状態にも注意を払うことが大切です。

眼表面は涙液によって保護されていますが、アトピー性皮膚炎ではマイボーム腺、涙腺、結膜杯細胞など涙液の分泌に関わる組織の機能低下がみられます。その結果、ドライアイや眼表面の炎症を生じやすくなります。デュピルマブによる眼合併症も、こうした背景を考慮して適切に対処する必要があるでしょう。

アトピー性皮膚炎は皮膚のみならず眼をはじめとする全身の症状に目を向け、専門医が連携して治療にあたることが望まれます。デュピルマブによる眼表面疾患への対策として、JAK阻害薬への切り替えが選択肢の一つとなる可能性が示されましたが、個々の患者の状態に応じて慎重に判断する必要があります。今後、デュピルマブ関連の眼合併症の機序解明が進み、より効果的な予防法や治療法の開発につながることが期待されます。

参考文献:

1. Reguiai Z, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2024;38:2149–2155.

2. Ravn NH, et al. J Am Acad Dermatol. 2021;85(2):453-461.

3. Shi VY, et al. J Am Acad Dermatol. 2023;89(2):309-315.

4. Achten R, et al. Allergy. 2023;78(8):2266-2276.

5. Thormann K, et al. Allergy. 2024;79(4):937-948.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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