なでしこジャパン、W杯まで1年3カ月。チーム力を底上げする新戦力は?
【新戦力のアピール】
女子W杯(オーストラリアとニュージーランドの共催)が、来年7月に迫っている。なでしこジャパンは、W杯予選を兼ねた1月のアジアカップで出場権を獲得。残された準備期間は1年3カ月となった。
次の大会から、W杯出場国が24から32に増える。多くの国にチャンスが与えられ、枠の関係で出場できなかった各大陸の強豪国が台頭することで大会のレベルも上がっていくと予想される。
アジアカップでは準決勝で中国に敗れて3連覇を逃した日本。これまではコロナ禍で強豪国とのマッチメイクが思うように組めなかったが、今年は6月に欧州遠征(フィンランドと対戦)、7月にE-1選手権、9月にアジア競技大会(開催地はいずれも中国)があり、10月にも国内で国際親善試合が2試合(神戸、長野)予定されている。W杯に備えて、アジアでは勝ち癖をつけておきたい。
4月4日から10日まで福島県のJヴィレッジで行われた合宿では、「ボールを奪う」「ゴールを奪う」「奪ってからの切り替え」といったチームコンセプトの浸透とともに、チームの底上げを図った。
池田太監督は、「国内の選手を中心に招集して、WEリーグでのチーム力のベースアップ、全体のなでしこの力の輪を広げることで、来年のW杯に向けて積み上げていきたい」と語った。
当初、26名が招集されていたが、直前のコンディション不良やケガなどで7名が不参加になり、4名が追加招集に。
23名のうち、1月のアジアカップに出場しなかった選手が過半数の13名を占め、フレッシュな顔ぶれとなった。
WEリーグで得点ランク上位のFW井上綾香(大宮)とFW白木星(しらき・あかり/仙台)、埼玉の攻撃を牽引するMF祐村ひかると、 WEリーグで3月にデビューしてから5試合で3ゴールと絶好調のFW千葉玲海菜(千葉)らが初招集。
また、東京五輪に出場したMF三浦成美(東京NB)、GK平尾知佳(新潟)、MF塩越柚歩(浦和)の他、MF阪口萌乃(神戸)、DF佐々木繭(浦和)、DF清家貴子(浦和)、MF脇阪麗奈(相模原)らが新体制になってからは初の候補入りを果たした。
アタッカーではドリブルやスピードに特徴のある選手が多く、
「ドリブルや、背後に抜ける動き」(井上)
「受ける前のポジショニング、ボールが来る直前の判断、ワンタッチで抜け出す、触らずにスルーして前に流す、ワンツーなどのアイデア」(清家)
「裏に抜けるタイミング」(祐村)
「フィジカル(の強さ)でキープしたり、ためを作れること」(千葉)
というように、多様な武器で攻撃のバリエーションを増やす狙いが見られた。
また、新たな戦力を探っているのが左サイドバックだ。これまで同ポジションの本職はDF宮川麻都(東京NB)だけで、センターバックのDF乗松瑠華(大宮)やDF三宅史織(神戸)、DF宝田沙織(リンシェーピングFC)などが起用されてきたが、今回の合宿では新たに本職の左サイドバック2人が参加。アグレッシブな攻撃参加やクロスが魅力のDF北川ひかる(新潟)と、高い戦術眼でゲームを作る佐々木が、それぞれの魅力をアピールした。
【「自分がチームを勝たせる」という意識】
トレーニングは入念なウォーミングアップに始まり、ビルドアップを意識したパス&コントロールやプレッシング、セットプレーなどを確認。
4日目と7日目に男子高校生と練習試合が行われ、4日目の東日本国際大学附属昌平高校との試合は3-1で勝利。先制を許したものの、MF成宮唯(神戸)が相手陣内で奪い返し、千葉のクロスを植木理子(東京NB)が豪快なダイビングヘッドで決め先制。その後、フリーキックの場面で、乗松の折り返しを清家が頭で決めて勝ち越し。終盤にはコーナーキックからMF松原有沙(相模原)がダイビングヘッドで決めてリードを広げ、勝利した。
一方、7日目のいわきFC U-18戦は、ミドルシュートとクロスからの失点で0-2と敗れている。
「初戦は攻撃の部分でいろいろな関係性を求めていき、2戦目は対戦相手の強度も上がった中でどれだけできるかトライしました」(池田監督)との狙いだったが、相手のプレッシャーやスピードが上がった中での対応や得点力に課題を残した。
最終日には「残りの時間、点差を考えた時にどう向き合って行動していくかを一人一人に問いかけ、なでしこで求めているのはそのレベルではない、ということを伝えました」と、危機感も口にした指揮官。
チームとして目に見える結果を得るまでにはまだ時間がかかりそうだが、戦力の底上げを図る中では、アピールが光った選手が複数いた。
4日目の練習試合では、右サイドで清家のドリブルや攻め上がりが光った。アシストも多いが、浦和では得点がほしい時にFWで起用されることも。リーグ戦では技ありのミドルシュートも決めている。
「ここ数年で自分は欧米のチームと対戦していないので、実際に対面したときのスピードはわからないですけど、チーム(浦和)では組織というより個の力、ほぼ1対1の局面が多いので、その部分は絶対的な自信がありますし、むしろそれが通用するのかというところを(世界で)確かめたいです」と、揺るぎない口調で語った清家。得点力アップの切り札になるかもしれない。
また、清家も含め、東京五輪やアジアカップに参加していなかった選手たちが「自分だったらこういうプレーができた」と語っていたのは頼もしかった。「自分がチームを勝たせる」という、各選手の意識の高まりに期待したい。
池田監督は、「プレースピードや判断スピードなどのスピード感はもっとあっていい」と、日常からのスピードアップを求めた。
各チームに戻った選手たちのプレーの変化を注視しつつ、残り6節となったWEリーグの戦いに注目したい。
*文中の写真は筆者撮影