びわ湖ホールオペラ無観客上演・ネット中継はどのように実現したか~文化や経済の黄昏を招かないために
政府の文化・スポーツイベントなどの自粛要請で、クラシックのコンサートやオペラ公演も相次いで中止に。そんな中、通常の公演は断念したものの、無観客上演を行い、それを動画配信サイトYouTubeで無料生中継した滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールのオペラ《神々の黄昏》が、大きな評判を呼んでいる。
視聴数は、最も多い時で同ホールの客席(1,848席)の6.6倍を超え、2日間でのべ36万8520アクセスを記録した。日本のオペラ史上に記録されるだろう、今回の出来事はどのようにして実現し得たのだろうか――。
「なんとかやれる方法はないか」
安倍首相が自粛要請をしたのは、2月26日。首相はさらに翌日夕、全国の学校の一斉休校の要請も行った。そのニュースに、びわ湖ホールの山中隆館長は危機感を深めた。
「『これは(開催が)危ないな』と思いました。でも、1か月くらい前から、ヨーロッパからも歌手が集まって、公演に向けて、まさに稽古の真っ最中なんです。彼らに『公演は中止する』なんてとても言えません。ギャラを払えばよいだろう、などという話ではありません」(山中館長)
《神々の黄昏》は、ワーグナーの大作《ニーベルングの指輪》4部作の最終章。びわ湖ホールは、2017年の《ラインの黄金》を皮切りに、毎年1作ずつチクルス上演してきた。ドイツのオペラ演出家ミヒャエル・ハンペさんと美術担当のヘニング・フォン・ギールケさんが作る舞台は、ワーグナーがオペラに込めたイメージを、巧みなプロジェクション・マッピングなど現代技術生かして再現する美しいものだ。
歌い手は日本人歌手が多くを担う。今年も、両日のジークフリート役と初日のブリュンヒルデ役以外は、日本で活躍する最も優れた歌い手を集めて配役が組まれた。指揮は、ホール芸術監督の沼尻竜典さんが務め、演奏は京都市交響楽団が担った。
オペラは準備に時間がかかる。主役のブリュンヒルデを務めた池田香織さんの場合、2年前に譜読みを始め、時間をかけて音楽を体に落とし込むと共に、高い音域を常に出せるようにトレーニングを積んできた、という。歌手だけでなく、スタッフもいっしょに、大がかりなプロジェクトを作り上げてきた。現場の舞台作りにかける思いとこれまでの努力を考えると、締めくくりとなる《黄昏》が上演できないのは、山中館長にはあまりに忍びなかった。
それに、《びわ湖リング》は好評で、《黄昏》は昨年11月にチケットが売り出されると、すぐに2公演とも完売した。中止となれば、お客の期待に応えられない。オペラは指揮者、歌手、オーケストラなど多くの人が関わっており、延期してスケジュールを再調整する選択肢はなかった。
「県から中止の指示が出たとしても、何とかやれる方法はないか、と職員たちと話し合いました。そんな中、みんなからいろいろ知恵が出てきた。まず出てきたのが、無観客で上演してDVDに収録する、という案でした」(山中館長)
県からは、中止になりそうだ、という話が伝わってきた。山中館長は、居ても立ってもいられず、県庁に乗り込み、「なんとかやりたい」と訴えた。いざとなれば責任をとる腹はくくっていた。そのうえで、「どうしても中止という結論になる場合は、それを決定する会議で、必ず無観客上演とDVDの話をして欲しい」と頼み込んだ。
重大なお知らせと提案を同時に
稽古の現場にも、雲行きが怪しいという雰囲気は伝わっていた。ダブルキャストの初日組に出演の金子美香さんは「毎日毎日、これは危ないんじゃないかとみんなで言いながらの稽古の日々でした」と言う。一方、二日目組の池田香織さんは、「世の中がそういう雰囲気になっていたから、いつ(中止決定が)来てもおかしくないな、とみんな心の中で思いながら、それを誰も口に出さずにお稽古してました」と語る。どちらの組も、稽古場に微妙な空気が流れる中、それでも現場は公演に望みをつないでいた。
28日朝10時頃、県から「公演中止」の指示が来た。ただ、山中館長が訴えていた次善の策、無観客上演とDVD化は容認された。13時にすべてのスタッフとアーティストを大ホールに集め、山中館長がこう切り出した。
「重大なお知らせと提案があります」
県の指示があり、今の状況から見て公演を中止にせざるを得ないことを伝えた後、「提案」を伝えた。
「無観客で上演して、それをDVDにしたい。コロナに負けずに、最後までやり抜きましょう」
一人でもイヤだと言う人がいれば…
一斉に拍手が起きた。山中館長は、率直に内情を打ち明けた。
「ただ、私たちの財団には余裕がなく、(DVD化に伴う)フィーを払うことができません。無料で承諾していただけますか」
これにも皆が賛同した。それでも、山中館長は次のように告げるのを忘れなかった。
「今のこの雰囲気の中で、本当はイヤなのに言い出せない方もいるかもしれない。今日いっぱい待ちますので、イヤだという人は、そっと伝えて下さい」
館長の言葉に一致団結
1人でも反対する人がいればできない、と山中館長は考えていた。歌い手たちも、どきどきしながら1日待った。しかし、ノーを告げる人は、1人もいなかった。
歌手の池田さんは、この時のことを、こう振り返る。
「館長が、『これまでやってきたことに誇りをもって、コロナに負けないで、私たちの気概を世間に示したい』をおっしゃった時、この作品をどれだけ大切に思っているかが伝わってきて、胸にぐっと来ました」
中止決定と同時に、「提案」で新たな目標を提示され、アーティストやスタッフの集中力は高まった。
歌手の金子さんも、館長の言葉は大きかった、という。
「館長さんが『コロナに負けないで最後まで駆け抜けましょう!!!』とおっしゃったとき大拍手でした。それで、みんなで一致団結して、がんばってきました」
金子さんの役は、作品の冒頭に登場する、「運命の綱」をあざなう3人の女神ノルンの1人。両組のノルン役6人は、毛糸で「運命の綱」を編み、英断に対する感謝の思いを込めて山中館長にプレゼントした。
スタッフの発案で決まったネット中継
山中館長は、テレビ局に収録ができないかも打診してみたが、「話があまりにも急で準備ができない」と断られた。テレビ局収録の場合、数台のカメラを用意し、カット割りをあらかた決めておくなどの準備に相当の時間がかかる。やむを得ないと断念した。
すると、同ホールのスタッフが「こういうこともできるんじゃないか」とYouTubeを使った生中継を提案。アーティストたちの意見を聞くと、これも皆の賛同が得られた。
一人でも感染者が出たら……
3月5日に無観客公演と無料ライブ・ストリーミングの実施を公表。しかし、その後も山中館長は薄氷をふむような思いでいた。
「ずっと不安だったのは、アーティストや僕たち職員の中から、1人でも感染者が出たら、やめなければならない、ということです」
職員らはマスクを着用し、館内のあちこちにアルコール消毒液を置くなど、感染防止に気を遣った。
無人の客席、静かなカーテンコール
そして迎えた初日。客席の1、2階は無人で、3階席に報道陣や関係者数十人がいるのみだった。その前で、山中館長はこう挨拶した。
「ここまでの懸命の努力を無駄にしないために、無観客公演を決めました。ここまでこぎ着けた、アーティスト、スタッフ全員に感謝し、彼らを誇りに思います」
その後登場した、指揮者の沼尻音楽監督が客席に向かって一礼。通常はここで拍手が起きるが、今回はそれがない。オーケストラに向かいタクトが振り下ろされると、その後はひたすら豊穣な音楽がホールに響いた。上演中は、指揮者も歌い手も、無観客であることはほとんど意識せず、音楽に集中していた、という。
6時間の熱演が続き、上演は終了。普通であれば、割れんばかりの拍手や「ブラボー!」が飛び交うはずが、それがない。静かな静かなカーテンコールは切なく感じられたが、ソリストや合唱団、最後に舞台に上がったオーケストラのメンバーらは、それでも笑顔で何度もカメラに向かって挨拶した。緞帳が下りると、その向こうでは歓声と拍手が上がった。
「これは奇跡だ」
この時、その間全国のパソコンの前では、たくさんの拍手が鳴っていただろう。中継は最多の時で1万1916人、延べ20万646人が鑑賞し、「#神々の黄昏」はツイッターでトレンド上位に上がり、ニュースにもなった。評判が評判を呼ぶ形で、2日目には最多時の視聴者が1万2246人に達した。
この結果に、山中館長は驚きを隠さない。
「すごく心配だったんです、実は。どんな映像になるのか、どんな風に聞こえるのか、ちゃんと配信できるのか……。チケット買った方たちくらいは見てくれるかな、というくらいに思っていたんですが、やってみたら、きれいな映像で、こんなにたくさんの方に見ていただけた。見てくださった方から、インターネットでご寄付も相次いでいる。見ていただいてうれしいし、たとえ少額でもご寄付下さるというお気持ちが本当にうれしい。これをきっかけに、オペラに興味を持って下さる方が増えてくだされば、素晴らしい展開だと思う」
沼尻芸術監督も、「これは奇跡だ」と驚嘆する。
「ドイツの仲間も(時差のために)朝5時から見てくれたり、私の父も87歳になってここ(びわ湖)まで来るのはしんどくなっていますが、今回は自宅で見てくれた。ネットの力を感じた」
できるだけ早く次善の策を準備する
このような結果を生み出した山中館長の危機管理の秘訣を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「何かあって計画通りコトが進まない時には、できるだけ早く『次善の策』を考えることが大事。うちの職員は、すぐに前向きに考えを切り替えて、『こういうことができるんじゃないか』と考えてくれる。それで、中止という残念な結果を伝えると同時に、新たな提案をすることができた。いいスタッフに囲まれて幸せです」
危機を乗り越えるたびに高まる現場力
実はびわ湖ホールは、これまでもいくつかの「危機」を乗り越えてきた経験がある。
2018年9月30日には、開館20周年記念演奏会として、「千人の交響曲」と呼ばれる大規模なマーラー交響曲第8番を演奏することになっていた。合唱には、アマチュアの市民も加わって練習を重ねた。
ところが、天気予報でその日は大型台風が接近し、公演ができない事態が予想された。
稽古が順調に進んでいたので、前倒しで本番ができないかと考えた沼尻さんが、山中館長にメールで打診。それを受けた山中館長はスタッフと相談のうえ、28日午前、翌日に緊急特別演奏会を開くことを決定。異例の対応だった。スタッフ総出でチケット購入者に電話やSNS、ホームページで連絡し、出演者のスケジュールを調整した。29日(土)午後4時からの演奏会には、30日のチケットはそのまま使え、当日券も販売。告知時間は1日しかなかったが、それでも800人ほどの観客が集まった。
予報が伝えていた通り、30日は大型の台風により大荒れ。電車も止まり、本来予定していた公演は中止となった。緊急公演を聞けなかった人には、チケットの払い戻しを行った。
昨年も、オペラの公演中に突然停電が発生し、歌手が空中のゴンドラに取り残されるアクシデントがあった。15分ほどで復旧したが、設備点検のために公演は1時間ほど中断。スタッフは観客の対応に追われた。
ホールのスタッフは、「危機があるたび、”現場力”は高まっていきました」と言う。
そんなこのホールについて、歌手の池田さんは賛辞を惜しまない。
「びわ湖ホールさんは、フットワークが凄い。いろいろ事件があっても、パッパッと次の策を打ち出して、トップがどん!と勇気を持って動いて下さるから、私たちもがんばろうという気になります」
勝手に応援団
今回のライブ・ストリーミングの成功は、なんとか上演を実現しようとするホール側の決断と努力、そして何より演奏や演出の素晴らしさがもたらしたものだが、もう1つ忘れてはいけない要素がある。それは、この企画を応援しようという音楽愛好者の勝手連的な応援の力だ。
今回の中継は準備に時間がなく、ドイツ語上演なのに中継映像に字幕をつけることができなかった。《黄昏》はクラシックファンでも食わず嫌いがいるほどの大作。しかも前3作を見ていない人には敷居が高い、と思われた。
その敷居を少しでも低くしようと、自発的な協力者があらわれた。
アマチュアながら、4年間かけて《リング》全曲を演奏会形式で演奏した愛知祝祭管弦楽団は、「びわ湖ライブビューイング勝手に応援企画」として、自分たちの公演プログラムで好評だった、あらすじ漫画をネット上で公開した。「オペラ対訳プロジェクト」も、「びわ湖がんばれ!ワーグナー《神々の黄昏》歌詞対訳あります」と対訳の掲載ページをSNSで案内。
広瀬大介・青山学院大教授(音楽学)は、「びわ湖ホールでの『神々の黄昏』無観客配信を応援するため」として、《黄昏》に関する自身の過去ツイートを選んで、「見どころ・聞きどころ」をTogetterにまとめた。オペラの演出研究が専門の森岡実穂・中央大准教授は、オペラの進行に合わせて、物語の展開や歌詞をツイッターで次々に伝えた。
新しい扉が開いた
森岡さんは、その動機を次のように語る。
「今回のストリーミングを知った時、うれしいと思ったのと同時に不安も感じました。多くの方に素晴らしい舞台を気軽に『お試し』いただけると思う一方、初めての人が字幕なしで、このややこしく長大な《黄昏》を見たら、『ワーグナーって難しい』『オペラは難しい』という印象を持たれてしまう可能性も大いにあるな、と。そこで、どうせPCやタブレットで見るなら、ツイッターで実況ガイドをするのもありだな、と思いつきました。基本的に初見の方を対象に、『長さ』『難しさ』による苦手意識を回避できるようなリードをするという方針で」
6時間キーボードを打ち続けるのは結構大変だった、という森岡さんだが、終演後は多くの感謝の言葉が寄せられた、とのこと。
「やっぱり『字幕がなくて困っていた』という方が多くて、迷子係をやっておいてよかったと思いました。長い作品ですが、『リアルタイムで説明が入ることで挫折せず見通せた』という方もいらっしゃいました。『自宅で、リラックスして観られた』『SNSでワイワイ突っ込みを入れながら観られた』という意味では、新しい楽しみ方の開拓につながるのかもしれません。
このストリーミングを通して新しい扉が開いたといっていいのではないでしょうか。状況が落ち着いたらもちろん劇場に足を運んでいただきたいですが、オペラを提供する側ももっといろいろな選択肢を用意することができると気づきました」
沼尻芸術監督も、「毎回、しかも無料でやるわけにはいかないけれど、折を見て、またこういうことができないかな、と思う」と語る。
文化芸術は水道の水ではなく…
そんな期待が膨らむ一方、突然の首相による要請で、あっという間に全国に広がった文化行事自粛モードが、いつまで続くのか分からない不安は、文化芸術に関わる人々に広がっている。山中館長もそんな思いを吐露する。
「今回の公演だけで払い戻しが6000万円近く。他の公演も中止が相次いで決まっています。それで終わるのか、今度もまた中止が続くのか、どこまで損害が膨らんでいくのかを考えるので、頭がいっぱいの状態です」
沼尻芸術監督もこう訴える。
「自分たちはできることを精一杯やるだけなんですが、この災難がどれだけ続くか分からない。文化芸術は水道の水じゃない。今は水不足だからと、ちょっとの間止めておくつもりが、次に蛇口をひねった時には何も出なくなる、という可能性があるんです。文化芸術は、ずっと継続してやってきているからできる。そういうことを考えていただきながら、この騒ぎが収まった時に、また活気が戻るようにして欲しい」
お金ややりがいを失っても人は死んでしまう
主役を務めた池田さんにも聞いた。
「人は、ウイルスでも死ぬけれど、お金がなくなっても死んじゃうし、やりがいがなくなったり気持ちが落ち込んだりしても死んでしまうことがある。その人にとって今、何が大事かを、考えていきたい。何がなんでも演奏会を開く、というのはよくないでしょうし、お客様には(演奏会に)来ない自由もある。けれど、来たいという人もいらっしゃるので、どうやってバランスをとっていくか、ということではないかと思います」
気持ちだけで動かず、自分で考えたい
日本の文化や経済が黄昏れてしまわないために、どうしたらいいだろう。この問いを池田さんに投げかけると、少し考えてこんな答えが返ってきた。
「ジョークでこういうのがありますよね。人に何かをさせたい時、イタリア人には『女性にもてますよ』と言い、ドイツ人には『それが決まりです』と言い、日本人には『お隣もなさってますよ』と言えばいい、と。私も日本人なので気持ちは分かるんですが、でも、それぞれ立場と事情があるんですよね。『みんながそうしているから』ではなくて、『私は、こういう状況だから今はコンサートに行かない』と考える人がいてもいいし、『私はこういう訳でコンサートに行きたい』という人がいてもいいのでは。周りに流されるんじゃなくて、きちんと自分の意思を持って、自分で考える。気持ちだけで動かないというのが一番大事かな、と思っています」
公演を実施する民間イベントも
民間主催の文化イベントの中には中止をせずに、様々な対策をとって行う選択をするところもある。たとえば、びわ湖リングが公演中止を余儀なくされた、3月7日と8日、東京・上野の東京文化会館では、パリ・オペラ座のバレエ《オネーギン》の公演が予定通り行われた。
会場入口に赤外線サーモグラフィを設置し、体温が高い人には検温のうえ入場を断ると告知し、換気のために休憩時には外につながるドアを開けたり休憩時間を長くとるなどの対策をしたうえでの実施。それでも健康への懸念から来場を断念する人には、払い戻しを受け付けた。
2月29日から自粛をしていた宝塚歌劇団も、3月9日には消毒を丹念にし、検温のサーモグラフィーを設置するなどの対策をして公演を再開。観客には、マスク着用や出演者の出待ち自粛を求めた。
萎縮もリスク要因の1つ
宝塚の判断に対しては、「無責任」「軽率」などという非難があり、歌劇団は再び中止に転じた。
ただ、文化イベントにも様々な種類があり、実施のやり方もいろいろだ。
新型コロナウイルスに関する専門家会議が指摘する、(1)換気の悪い密閉空間(2)多くの人が密集(3)近距離での会話や発声――が感染リスクを高めることを踏まえ、現在の感染状況を注意深く見つつ、様々な対策をとったうえで、実施できるかどうかをそれぞれの主催者が判断する、というのはありではないか。それを非難してやめさせようとするより、対策に不十分な点があれば、丁寧に指摘して改善を求めていく、という発想が必要ではないか。
そうなると観客も、会場やイベントの内容、そこに至るまでの交通経路、年齢や健康状態などを考えて、行くか行かないかを自分で判断する必要に迫られる。
今回のコロナ禍は、長期化する可能性もある、という。終息宣言がなされるまで、ずっと萎縮した状態が続けば、経済はどん底に落ち込み、文化の継続性も危うくなる。「お金がなくても人は死んじゃう」ことを考えると、萎縮もまたリスク要因の1つと言えよう。
ウイルス感染のリスクと萎縮によって文化や経済が崩壊するリスク。こうしたいくつものリスクを勘案し、どのようにバランスをとっていくか。イベントの主催者も観客も、自分自身でそういうことを考えながら行動していく時代にいるのだと思う。
みんなで乗り越えたい
最後に、ツイッターで《黄昏》中継のナビゲートをした森岡さんの言葉を紹介する。
「私は大学で職を得ているので、こういう時こそ『研究の社会への還元』のひとつとして、お役に立てればという気持ちもあります」
「ヨーロッパの歌劇場で音楽監督を務めた経験を持つ大野和士さんと沼尻さんが、東西の大劇場のトップとして、システムとしての『劇場』をちゃんと日本に根付かせることができたら、日本のオペラ界はおおいによくなると思います。だから私は機会があれば、できる応援は全部したいと思っています。当分難しい時期は続くでしょうが、文化にかかわる人間みんなで乗り越えていきたいですね」