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エンジェルスは先発投手を手に入れられるのか。ロックアウトが終わった途端、FAの大物2人は他球団と契約

宇根夏樹ベースボール・ライター
カルロス・ロドーン Jul 29, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ロックアウトが終わり、ストーブリーグが再開した。その動きは、ロックアウト前に交渉が進んでいたからなのか、開幕までの日数が少ないことが理由なのか、おそらくその両方だと思うが、極めて速い。FA市場に残っていた先発投手のうち、すでに3人の球団が決まっている。

 ジ・アスレティックのケン・ローゼンタールによると、クレイトン・カーショウは、1年1700万ドルでロサンゼルス・ドジャースへ戻った。カルロス・ロドーンは、サンフランシスコ・ジャイアンツと2年4400万ドル。こちらは、ESPNのジェフ・パッサンが報じている。また、MLBネットワークのジョン・ヘイマンらによると、菊池雄星は、3年3600万ドルでトロント・ブルージェイズに迎えられた。

 さらに、トレードも成立している。ニューヨーク・メッツは、マイナーリーガーの2投手と交換に、オークランド・アスレティックスからクリス・バシットを獲得した。昨シーズン、バシットは157.1イニングを投げ、防御率3.15を記録した。2020年の63.0イニングも、防御率は2.29と低かった。

 ロックアウト後のFA市場において、ロドーンとカーショウは、先発投手の「ビッグ2」だった。

 数日後に34歳の誕生日を迎えるカーショウは、サイ・ヤング賞3度の大投手だ。近年は故障が増えているとはいえ、その実力はまだ失われていない。昨シーズンは121.2イニングを投げ、奪三振率10.65と与四球率1.55、防御率3.55を記録した。カーショウにしては高めの防御率ながら、他2つの数値は全盛期と遜色なかった。

 ロドーンは29歳。こちらも故障は少なくないが、昨シーズンは、2014年にドラフト全体3位で指名された資質を、ついに発揮した。132.2イニングを投げ、奪三振率12.55と与四球率2.44、防御率2.37を記録し、規定投球回より約30イニングも少なかったにもかかわらず、ア・リーグのサイ・ヤング賞投票で5位にランクインした。

 ロサンゼルス・エンジェルスは、ロックアウトに入る前に、2人の「先発投手」と契約している。ノア・シンダーガードマイケル・ロレンゼンだ。現時点でローテーションを組むなら、大谷翔平、シンダーガード、パトリック・サンドバルホゼ・スアレス、ロレンゼンの5人に、残る1枠は、ハイメ・バリーアグリフィン・キャニングリード・デトマーズジェイソンジャンソン・ジャンクのいずれかだろう。

 シンダーガードは、大谷以上のハードボーラーだが、昨シーズンは2登板のみ。2020年の春に受けた、トミー・ジョン手術からの完全復活をめざす。一方、ロレンゼンがめざすのは、7年ぶりの先発再転向だ。2016年以降の6シーズンは、リリーフの263登板に対し、先発登板は5試合。しかも、メジャーリーグ1年目の2015年は、主に先発投手として投げたが、113.1イニングで防御率は5.40だった。サンドバルとスアレスは、25歳と24歳。2019年にメジャーデビューした。過去3シーズンとも、メジャーリーグで投げたのは100イニング未満だ。防御率が3.60を下回ったこともない。

 2014年以来のポストシーズン進出を果たすのに、万全のローテーションとは思えない。

 理想を言えば、大谷とシンダーガードとともに三本柱――シンダーガードが復活できなかった場合は大谷と二本柱――を形成できる投手が欲しいところだ。けれども、今オフのFA市場に出た、このクラスの投手たちは、すでに他球団と契約している(「今オフの「大型契約トップ20」。暫定1位の10年3億2500万ドルはロックアウト後に追い抜かれる!?」)。

 ロックアウトに入った時点で残っていたのは、実質的にはロドーンしかいなかった。カーショウは、プロ入りからずっと在籍していたドジャースか、故郷に本拠を置くテキサス・レンジャーズの二択だったようだ。菊池もそうだが、まだ市場に出ているダニー・ダフィーマイケル・ピネイダではやや心許なく、ザック・グレインキーもかつてのような投球はできなくなっている。

 となると、あとはトレードだ。今オフは、アスレティックスに加え、シンシナティ・レッズも売り手に回るらしい。MLB.comのジョン・ポール・モロシは、ロックアウトの直前に、エンジェルスとレッズがルイス・カスティーヨのトレードについて予備的な話し合いをしたものの、レッズが求める見返りが大きく、話は進まなかったと報じた。

 カスティーヨと、すでにメッツが獲得したバシットを除いても、レッズにはタイラー・マーリーソニー・グレイ、アスレティックスにはショーン・マネイアフランキー・モンタスがいる。この4人中、グレイ以外の3人は、昨シーズン、規定投球回をクリアし、防御率は3点台だった。グレイは、2014~15年と2019年にそれぞれ175イニング以上を投げ、3.10未満の防御率を記録している。

 いずれにせよ、トレードで選手を獲得するには、見返りが必要となる。エンジェルスは、25歳未満の外野手2人、ジョー・アデルブランドン・マーシュのうち、一方を手放しても、先発投手を手に入れるのか。あるいは、FA市場に残っている投手を手に入れ、人数を増やすことで、そのなかから好投する投手が出てくる確率を高めるのか。それとも、このままの顔ぶれでローテーションを組むのだろうか。

 ローテーションの整備を終えていない球団は、他にもある。迅速に動かないと、エンジェルスの選択肢は、さらに狭まっていく。

【追記:3/14】

 グレイは、レッズからミネソタ・ツインズへ移籍した。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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