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井岡一翔にはライバルとの名勝負が必要。ロマゴン、エストラーダ戦はいつ実現する?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
スーパーフライ級のV1戦でシントロンを下した井岡(写真:田村翔/アフロスポーツ)

  他のスポーツ、ショービジネス同様、ボクシングもコビット19(新型コロナウイルス感染症)の世界的感染拡大でイベント再開の見通しが立っていない。米国の興行大手、トップランク社やPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)はスタジオやジムを使用して無観客試合の開催を検討しているが、新型コロナウイルスの被害は収まる気配を見せずスケジュール発表には至っていない。

 試合というコンテンツがないため、映像メディアは過去の名勝負をピックアップし流している。その中で人気が高いのが2005年5月7日ラスベガスで行われたディエゴ・コラレス(米)vsホセ・ルイス・カスティーヨ(メキシコ)第1戦。このWBO・WBC統一ライト級タイトルマッチを私はライブで取材できる幸運に恵まれた。まだ未観戦の方はぜひユーチューブなどでご覧いただきたい。特に試合が決した10ラウンドは必見だ。

時代を象徴したレナード、ハグラー、ハーンズ、デュラン

 さて名勝負をシリーズとして見た場合、定番なのが1980年代に中量級で繰り広げられた黄金の4人によるリーグ戦。キャストはシュガー・レイ・レナード、マービン・ハグラー、トーマス・ハーンズ、ロベルト・デュラン。9年間にわたり9試合が行われ、今でも語り草となっているカードが多い。

 時代はグッと下って2012年から昨年19年まで。上記の四銃士に比べると小粒だが、軽量級で王座をめぐって4人の男が熱戦を繰り広げた。メンバーはローマン・ゴンサレス(ニカラグア=WBA“スーパー”スーパーフライ級王者)、フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ=WBCスーパーフライ級王者)、シーサケット・ソールンビサイ(タイ=前WBCスーパーフライ級王者)、カルロス・クアドラス(メキシコ=元WBCスーパーフライ級王者)。これまで8試合が行われ、中量級の4人同様すでに各自が当たっている。

 このシリーズのオープニングとなったゴンサレスvsエストラーダはWBAライトフライ級タイトルマッチとして行われた(ゴンサレスの3-0判定勝ち)。だが他の7試合はいずれもスーパーフライ級リミットで挙行されている。

筋金入りのスーパーフライ級4戦士

 今回、たたき台として取り上げるのは米国のボクシングサイト、ボクシングシーン・ドットコムに4月16日付で掲載された「A Closing Stretch fot the Hardcore Four」という記事。直訳すれば「筋金入り4人のための決着シリーズ」となろうか。著者はクリス・ロイド記者。権威があるといわれるBWAA(アメリカ・ボクシング記者協会)のメンバーの一人である。

 筋金入りというのは上記のゴンサレス、エストラーダ、シーサケット、クアドラスの4人を指す。これまでのシノギを削った対戦を振り返り、今後、彼らの再戦あるいは第3戦が見たいとロイド記者は期待を込める。

左からクアドラス、シーサケット、ゴンサレス、エストラーダの4人(写真:BoxingScene.com)
左からクアドラス、シーサケット、ゴンサレス、エストラーダの4人(写真:BoxingScene.com)

 記事のテーマや主旨は理解できるのだが、ツッコミを入れたくなるのは少し時代錯誤ではないかということだ。クアドラスには悪いが、16年と18年にゴンサレスとエストラーダに接戦ながら敗れ、その後ランカーのマックウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)にも判定負けしたクアドラスはトップシーンから後退した印象が否めない。現在3連勝中だが以前のキレを欠き、試合内容は不安定。他のメンバーとの再戦や再々戦ではかなり厳しい結果が待っていると推測される。

井岡ら新勢力の台頭

 記事で簡単にしか触れられていないが、むしろWBOスーパーフライ級王者井岡一翔(Reason 大貴)、IBF同級王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)、WBA同級“レギュラー”王者アンドリュー・マロニー(豪州)を入れた方がトップリーグと呼ぶに相応しく、ステータスが増すのではないだろうか。もちろん現在この3人をリーグに入れられない理由がある。前述の4人とは対戦歴がないからである。

 それでも仮に井岡ら3人を新勢力。ゴンサレスら4人を旧勢力と区分けすると、両勢力の交流が今後スーパーフライ級のさらなる隆盛につながることは自明の理である。前記の旧勢力同士の試合よりもゴンサレスvs井岡、エストラーダvs井岡、あるいはこれまで9度の防衛に成功しているアンカハス絡みのカードはファンに歓迎されるに違いない。当然ながら“プロモーションの壁”は存在する。だが、それを乗り越えて実現させる価値は限りなく大きい。

 そしてどうしても井岡に期待したくなる。1年の引退期間を経てスーパーフライ級でカムバックした井岡は海外志向をテーマに掲げた。2018年9月、ロサンゼルスのザ・フォーラムで行ったアローヨとの復帰第1戦でダウンを奪って快勝。同年大晦日、ベテラン、ドニー・ニエテス(フィリピン)とのWBO王座決定戦は超接戦となり、小差で落とした。しかし、昨年6月にはニエテスが放棄したベルトをアストン・パリクテ(フィリピン)と争いTKO勝ちで獲得。大晦日のV1戦で難敵ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)を退けた。

 井岡がプロキャリアで達成した日本人初の4階級制覇の偉業は燦然と輝く。海外での評価も高い。だが、中量級四銃士のように本場でリスペクトされるには文字通り筋金入りのライバルたちとの名勝負がどうしても必要だと思われる。同時に彼に残された時間はそう多くない。すでに次戦で統一戦を実現させる心意気で交渉に進めたいところだ。

そして田中恒成……。チャンピオンズリーグへ邁進せよ

 もっとも観戦意欲を刺激される相手、ゴンサレス、エストラーダ、シーサケットはストリーミング配信DAZN&マッチルーム・ボクシングUSAと契約している。同時に“ロマゴン”は日本の帝拳プロモーションズ、エストラーダはメキシコのサンフェル・プロモーションズ傘下の選手。シーサケットは地元のナコンルアン・プロモーションズに所属する。

 できればアローヨを下した後、井岡は一気に米国進出を図りたいところだった。だが4階級制覇王者になった今でも遅くないし、以前より名前が浸透した印象。交渉の先鋒となる彼の国際マネジャーがスーパーフライ級のライバルたちを相手にどんなマッチメイクを成立させるか注目したい。ちなみに渉外担当者(マネジャー)は著名ミュージシャン兼プロデューサーだと聞いている。

 陣営は思い切ってマッチルーム・ボクシングUSAの牽引役エディ・ハーン・プロモーターに接触し傘下に加入するのが得策ではないだろうか。井岡と陣営には独自の思惑やルートがあるのかもしれないが、統一戦&ライバル対決が日の目を見れば後世まで名を刻む可能性が広がると思う。

 これは標的をアンカハス、マロニーに定める場合でも当てはまる。こちらの相手はトップランク&ESPN。彼らと契約した井上尚弥のケースと重なる。契約第1戦のジョンリール・カシメロとの統一戦がコビット19の影響で延期された井上。状況はまだ予断を許さないが、リングビジネスでも先手を打つことが井岡には要求される。

 加えて日本のファンはWBOフライ級王座を返上してスーパーフライ級に参戦する3階級制覇王者“もう一人のモンスター”田中恒成(畑中)と井岡の対決を待ち望んでいる。田中はこれまでの実績が評価されてWBO1位にランクされる。ポジションは指名挑戦者。状況次第で年内に井岡vs田中が実現に向かうこともあるかもしれない。

 井岡そして田中が加わり一段と盛り上がるスーパーフライ級シーン。コビット19の流行が終結に向かい、軽量級のチャンピオンズリーグが実現するためにプロモーターをはじめ関係者の尽力に期待したい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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