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佐藤天彦九段、まさかの秘策・中飛車採用! 藤井聡太二冠は決断よく速攻を仕掛ける 王将戦リーグ対局開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月29日。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲佐藤天彦九段(1勝3敗)-△藤井聡太二冠(0勝3敗)戦が始まりました。

「鬼リーグ」とも呼ばれる本リーグ。両対局者がこの成績ということが、このリーグの厳しさを端的に示しています。

 藤井二冠は前局、四間飛車を採用した永瀬拓矢王座に敗れました。

 藤井二冠、佐藤九段ともに王将挑戦の可能性はなくなりました。しかし本局はリーグ残留を目指しす上で、重要な一局となります。

 両者は過去に2回対戦しています。

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 1局目は2018年1月、朝日杯2回戦。佐藤名人が得意としていた後手番の横歩取らせに藤井四段が応じ、藤井四段の勝ちとなりました。

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 朝日杯の本戦トーナメントが始まったときには「藤井四段」。途中で順位戦昇級を決め五段昇段。そして佐藤名人、羽生竜王、広瀬八段と連破して朝日杯優勝を決め、六段に昇段となりました。(肩書はいずれも当時)

 2局目は今年2020年6月、棋聖戦準決勝。戦型は角換わり。結果は藤井七段(当時)が勝ちました。

 藤井七段は棋聖挑決に進出。棋聖挑戦から獲得につながりました。

 本局は3回目の対局となります。

 本局の対局室は将棋会館4階・特別対局室。同じ王将戦リーグのもう一局▲羽生善治九段(2勝0敗)-△広瀬章人八段(1勝1敗)戦と並んでおこなわれます。本局は窓側。最上席に座るのは席次最上位の藤井二冠です。

 定刻10時。2人の記録係が響き合う中、4人の対局者が「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 佐藤九段はまず初手に角筋を開けます。

 対して藤井二冠はいつも通り、まず最初にお茶・・・かどうかは、映像の中継では確認できませんでした。2手目、藤井二冠は飛車筋の歩を伸ばします。これはいつも通り。相手が初手にどう指しても受けて立つという、デビュー以来一貫して変えない王道のスタイルです。

 さて3手目。朝から観戦者は度肝を抜かれることになります。佐藤九段はなんとなんと、5筋の歩を突きました。これはもう驚いたとしかいいようがありません。この手を指したのが、たとえば振り飛車党の棋士であれば、驚きはありません。しかし居飛車党の佐藤九段が指したのですからびっくりです。

 進んで7手目。佐藤九段は飛車を中央に移動させます。これで「中飛車」の作戦が確定しました。佐藤九段が先手で中飛車を採用したのは、これが初めてだそうです。

 前局、永瀬王座は四間飛車で藤井二冠に勝ちました。本局の佐藤九段も中飛車を「秘策」として用意してきたのは間違いないところでしょう。

 ところで対局者が中飛車を指して衝撃が走った例といえば、1994年名人戦七番勝負▲羽生善治挑戦者-△米長邦雄名人戦があげられます。

 ▲7六歩△8四歩。そこで▲5六歩。先手番になったら、一度はやってみようと思っていた作戦だ。やはり名人戦前のインタビューに応えて、「普通の定跡形は指さない」と宣言したのだが、この機会に類型の少ない戦法をいろいろ試してみたいという意図だった。

 といっても、奇を衒(てら)ったというわけではなく、いずれの戦型も、自分自身で経験も研究もしていたものだ。温故知新とうか、アマチュアの時代からいろいろやってきた戦型の中から、使えそうなものをもう一度練り直してみたのである。

出典:『名人、羽生善治。』自戦記

 基本的に居飛車を指すことが多い羽生現九段が、ときに振り飛車を指すとやはり注目されます。

 将棋の戦型は大きな舞台で指されることがきっかけとなって、流行につがることも多くあります。

 近年は勝率的に押され気味の振り飛車ではありますが、最近、居飛車党で振り飛車を採用する棋士がまた出てきたことは、もしかしたらいま、振り飛車復興につながる流れを見ているのかもしれません。

 佐藤天彦九段の5筋位取り中飛車に対して、藤井二冠は攻めの銀を早めに繰り出していきます。そして飛車先の歩を突き捨て、32手目、手早く桂を中段に跳ねていきました。

 持ち時間は各4時間で、ここまでの消費時間は藤井二冠41分、佐藤九段42分。中盤で惜しみなく時間を使うのが藤井二冠のいつものスタイルですが、本局では決断早く仕掛けていきました。

 もっとも本局はここまで、藤井二冠は過去に経験があります。2017年10月C級2組の▲星野良生四段-△藤井四段戦(肩書は当時)。結果は藤井四段の攻めが通って、88手で快勝となっています。

 佐藤九段は自分の髪の毛を手にして、くるくると巻くようにして考えます。対して藤井二冠は扇子を手にして、これを手元でくるくると回します。

 12時、昼食休憩に入りました。再開は12時40分。夕食休憩はなく、通例では夕方から夜にかけての終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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