サンウルブズの来季は8月のトップリーグから始まる!
サンウルブズの評価は難しい?
サンウルブズのスーパーラグビー最初の挑戦が終わった。
最終戦となった15日(日本時間16日)のシャークス戦では、これまで2試合続けてノートライだったアタックが炸裂。ラインアウトのサインプレーからSH茂野海人がインゴールに駆け込んだ前半14分のトライを皮切りに、本職のCTBに戻ったパエア・ミフィポセチが前半37分にトライを挙げ、さらには前半終了直前にLOファアティンガ・レマルが押し込んで、スコアを19―21として勝利への期待を抱かせた。
しかし、後半立ち上がりにカウンターアタックからシャークスCTBアンドレ・エスターハイゼンがあっさりトライを奪うと、そこから流れは完全にシャークスに傾き、サンウルブズは試合終了直前にパエアが“意地のトライ”を返したにとどまった。
つまり、今季のサンウルブズを象徴するように、“いいところもあれば悪いところも出た”試合だった。
キャプテンの堀江翔太をはじめ、SOトゥシ・ピシ、CTB立川理道といった主軸が相次いで離脱した状況で迎えた最終戦であることを考慮すれば、むしろ“善戦した”とも考えられる。
そう、このチームは非常に評価が難しいのだ。
チーム編成の遅れから準備不足のまま船出したことを思えば、1勝1分けと全敗を免れただけで「上出来」と考えることができるし、懸念された層の薄さも、茂野やFL安藤泰洋、細田佳也、金正奎といった若手が台頭して、むしろ来季への期待さえ感じさせた。
「38名の選手がスーパーラグビーを経験できたことは、フィールド外での大きな勝利」と、18日の総括記者会見でマーク・ハメットHC(ヘッドコーチ)は述べたが、初年度に収穫した実をもとに、来年度にさらに大きな花を咲かせることができれば、今季の13敗は、確かに収穫としてカウントできる。つまり、ハメットが就任会見で述べた「土台作り」は成果を見たのだ。
問題は、来季の体制が今季以上にきちんとしたものになるのか、という点だ。
現時点では、どんなメンバーがサンウルブズと契約するかはもちろん、退任するハメットの後任のHCさえ未だに決まっていない。選手とコーチ陣が予想以上に健闘したことで運営サイドも安堵したのか、今季の結果を来季につなげる道筋がまったく見えてこないのだ。
総括会見では、だから、報道陣から今季の問題点に関する質問が相次いだ。なんとか選手やコーチの口から運営面への不満を引き出そうというのだ。選手たちの奮闘努力を知るが故に、来季への展望を提示できない運営サイドに対して記者たちの不満がぶすぶすと燻っていたのである。
実際、運営上の問題は多々あるが、一例を挙げれば、サンウルブズは日本国内ではグラウンドまでバスでの移動を強いられ、あげくグラウンドにもホテルにもリカバリーに使用できる施設がなかった。
しかし、立川は、そんなネガティブな事態についてポジティブにこう言った。
「海外のホテルにはプールやジャクジーがあるからチームとしてもリカバリーセッションができたけど、国内ではそれができないから、個人のセルフマッサージやストレッチが非常に大切だった。みんなもっとリカバリーに対してプロフェッショナルの意識を持たないとダメだと思いました」
そして、「こういう部分を経験できたのが大きいし、来年に環境が改善されればさらにいいチームになるでしょう」と続けた。
あくまでもポジティブなのである。
だからこそ、運営サイドへの不満が、また高まるのであった。
来季に向けてやるべきことは――
そんな重苦しい空気のなかで、「自分たちでコントロールできない契約やグラウンドの問題であれこれ言うより、来季に向けてやるべきことがある」と言ったスタッフがいた。
今季、パナソニックワイルドナイツからサンウルブズに帯同し、ジャパンでもハメットHC代行のもとでコーチを務めた田邉淳アシスタントコーチだ。
田邉コーチはこう言った。
「(スーパーラグビーを経験した)我々コーチや選手たちが、常にスーパーラグビーのレベルを意識することが来季につながる。みんなフィジカル面で間違いなく差を感じたはずですし、その差を半年後までにどこまで自分で向上させられるか。これから半年間にどれだけやったかが、来季につながる。今からトップリーグの試合数を減らすのは無理ですが、選手たちがトップリーグでもスーパーラグビーのレベルでプレーすれば、それが来季に向けた一番の近道になる。
僕は、フィジカルやコンタクトを強化するには半年から一年はかかると思いますが、逆に戦略的なことはもっと短時間で落とし込める。だからこそ、来季のサンウルブズでプレーをする絵を思い描きながら、選手たちにはトップリーグを戦って欲しい」
要するに、サンウルブズの苦戦はフィジカル面――特にコンタクトで当たり負けたこと――に主な要因があり、それを克服できれば戦術的にはいくらでも伸びが期待できる。そして、そのためにトップリーグでも、スーパーラグビーで通じるかどうかを基準に激しくプレーして、自分に欠けていると思われる強さを身につけよ、というのだ。
興味深いのは、田邉コーチが「言葉の壁」を、シーズン序盤で出た問題に挙げたことだった。
サンウルブズはSOにサモア代表のピシがいて、CTBに立川がいる。FBは南アフリカ人のリアン・フィルヨーンだ。
「やっぱり選手同士に言葉の壁があるんですよ。海外の選手はフィジカルな強さを生かして前に出ることが多いけど、彼らにサンウルブズでやる1つひとつのプレーを納得させるまでに時間がかかった。彼らも“こんなに細かくやるんだ”と思ったでしょうし、初めての経験だったと思います。でも、遠征の経験などを通じてお互いの理解が進み、使う言葉もシンプルにして、みんなが同じ絵を見てプレーできるようになった。ループ系のサインプレーでかなりラインブレイクできたのも、そうやって練習を積み重ねたからです」
そう。
今季のサンウルブズで、海外出身の選手たちはみな、献身的に“日本的な”ラグビーに取り組み、最後には同じ絵を見られるようになった。今度は、日本出身の選手たちが、彼らに匹敵するような強さを身につけて、お互いの良さをさらに高め合う番だ。それならば、コーチが決まらなくても、すぐに取り組めるはずだ。
そして、それはまた、観客にとっても新しい基準を求められることを意味している。
「そんなプレーがスーパーラグビーで通用するのか?」
観客の視点がそのぐらい厳しくなれば、確かにトップリーグの水準は上がるだろう。
別に難しいことではない。パスをすべき状況で自分より弱い相手を力任せに吹っ飛ばしたり、逆にタックルに強い相手にひるんだ選手を見たら、ぼそっとつぶやけばいいのだ。そういう評価を観客が楽しめるようになれば、ラグビー観戦はもっと楽しくなるだろう。
選手たちが体を張った末に残した言葉
一方で、堀江キャプテンが「早くコーチを決めて欲しい。そして、チーム始動の前に顔合わせの機会を作って欲しい」と要望したことや、ベテランの大野均が「ある程度チームの骨格が固まったら、15年W杯に向けてジャパンでやったように、トップリーグの試合のない週に二泊三日でもいいからミニキャンプを行なって、意思の疎通を図りたい」と貴重なアドバイスをしたことは、ここに記しておこう。
これらの言葉は、5か月間に15試合という前例を見ない強行日程を乗り越えた人間だからこそ言える、血と汗の結晶なのである。
日本ラグビー協会とジャパンエスアールは、何よりもまず素直に耳を傾けて、肝に銘じて実行してもらいたい。