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PS5の日本発売時期はいつ? SIE社長後悔の“本音”と「転売ヤー」対策

河村鳴紘サブカル専門ライター
PS5のロゴ=SIE提供

 今年の「年末商戦期」に発売予定の新型ゲーム機「プレイステーション(PS)5」ですが、1月にロゴと一部スペックを発表したものの、その後の新情報はなく、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は沈黙しています。しかし、発売時期や価格を予想する記事は見かけますね。期待の高さとも言えます。

 ◇日本の発売時期 社長が言及する意味

 以前、PS5の日本の発売時期について、来年になる可能性が高いのでは……という記事を書きましたが、やはり皆さんこの部分は特に気になるようです。

【参考】“本命”はPS5 気になる価格と日本の発売時期(河村鳴紘)

 これまでの経緯や数字を見ると、PS5の年末商戦「世界同時発売」はありえます。しかし、状況的に喜べることではなく、下手をすると日本で混乱が起きる可能性もあるのでは……と考えています。

 PS5の日本発売時期については、SIEもかなり悩んでいるのでしょう。それを感じさせるSIEのジム・ライアン社長のインタビュー記事が配信されました。PS5の発売時期について詳細は明言しないものの、PS4の日本の発売時期を遅らせたことに触れつつ、PS5の発売時期を遅らせたくない……とも取れる内容でした。引用します。

ーーPS5の日本での発売時期がどうなるのか? ダイレクトに質問をぶつけてみた。

ライアン:申し訳ないのですが、発売時期などの詳細についてはコメントできないんです。同様に、投入する市場についてもです。

ただ……。

PS4の時に日本での発売を3カ月遅らせたことについては、当時自分も深く選択決定に携わっていました。

選択には相応の理由がありましたが、いまは“良いアイデアではなかった”と考えています。多くの議論の末に決断したことではありましたが、他の選択肢があったかもしれません。

出典:「PS5には未発表のユニークな要素がある」 SIEジム・ライアン社長インタビュー(AV Watch)

 引用部分には二つのポイントがあります。一つは、PS4の日本の発売時期を遅らせたことに対して、経営者がメディアに後悔していると取れるコメントを口にしたことです。普通であれば「詳細はコメントできない」で終わらせれば済む話なのに、わざわざエクスキューズ(言い訳)をしているわけです。もちろん考えるのは自由ですし、そういうレベルのやり取りは社内では当然しているでしょう。しかしメディアに対して口にするのは、次元が違います。記事の流れを見ると「うっかり」のレベルでないことは明らかで、見方次第では前任の責任者への批判とも取れます。そのリスクを負ってまで、PS4の日本発売遅延を後悔していて、PS5では熟慮する……と言っているわけです。

 もう一つは、コメントに対しての広報の対応です。普通、この手のマイナスを想起させるコメントは、社長が発言をしても、広報が取り消し、記事から消すのが“常道”です。もちろん、発言を撤回しても、それに逆らって記者に書かれてしまう可能性はあるのですが、これまでの流れ、記事のテイストなどから見て、「日本市場を軽視しているわけではない」というメッセージを送るのが狙いで、意図してスルーしたとみるべきでしょう。

 二つのポイントを併せて読み解くと、SIEとしてはPS5は日本も重視していて、日本の発売時期はなるべく遅らせないように考えていることを社長のメッセージとして伝えたい。しかし“本音”では、日本の年末商戦期の発売は確約できないし、言質も取られたくない……というところでしょう。

 そうなると「日本では年内に出すつもり」とハッキリ言わない限り、やはりPS5の日本の発売時期は来年になりそう……という見立ては動きません。素直にPS5の世界同時期発売、日本の年内発売に期待させるなら、もう少し踏み込んだ発言もできるはずです。それができないということは、日本の発売時期は、相当微妙な立ち位置にあると推し量れます。

 ◇日本の年内発売 転売ビジネスの餌食になる可能性も

 微妙とはいうものの、PS5の「世界同時発売」を“公約”し、実現するだけなら簡単です。欧米の出荷をメインにし、日本の出荷は数字をしぼれば良いのです。ただし、それをすると、PS5は日本で相当な品不足になり、転売ビジネスの餌食になることを意味します。

 2004年、携帯ゲーム機「PSP」が発売されると、人気から極端な品不足となり価格が高騰しました。すると一部の販売店はPSPの価格を倍近くまで吊り上げたのです。メーカー側は販売店の価格設定に口出しできず(口を出せばメーカー側がアウト)、結果として購入希望者の不満が爆発しました。苦戦したPS3でさえ、2006年の発売時にはやはり品不足になりました。携帯ゲーム機の「PSVita」もやはりWi-Fiモデルが一時期、品不足で店頭から姿を消しました。ニンテンドースイッチの転売も一時期は強烈でした。

 PS4が日本で発売時期が遅れたのは、欧米の旺盛な需要に優先して応えると同時に、日本の初回出荷分を確保して混乱を防ごうとしたためでしょう。結果としてPS4の発売時は、PSPやPS3のような混乱はなかったのは確かです。もちろん、うまくコントロールして「少し品不足かも……」というレベルで、各地域の出荷調整をできるのがベターなのですが、その微妙な匙加減が難しいのは言うまでもありません。

 転売ビジネスに対する即効性のある対策は、なかなかありません。跋扈(ばっこ)を許せば、PS5のビジネスに傷がつくわけで、対応が難しいところです。

 ◇どこまで台数そろえられるか

 PS5の発売時期とされる「年末商戦期」に、日本で発売されるかは、事前にどれだけ潤沢に用意できるかでしょう。結局のところ「転売ヤー」対策は、商品の数をそろえ、需要と供給のバランスを取ることにつきるからです。そのためには部品調達がスムーズにいくこと、PS5の生産能力が重要となります。最初は生産効率も悪いでしょうし、新型コロナウイルスという不確定要因もありますから、一筋縄ではいきません。

 ちなみに、PS4が発売された最初の四半期(2013年10~12月)、PS4の出荷数は450万台で、日本でも発売を開始した次の四半期(14年1~3月)は300万台でした。それでも欧米の品不足は続いたのです。PS4と同じレベルでは足りない可能性があるわけですね。最初からPS5の驚異的な生産が実現できれば良いのですが、そう簡単ではありません。生産のピークは3~4年目で年間2000万台、四半期(3カ月)あたり500万台となります。無難にするならPS4の例に従うべきですが、それでは欧米の品不足は確実ですから、ある程度はアクセルを踏まざるを得ないのでしょうが、それはそれでリスクです。もし計画通りに売れなければ、業績を直撃するわけですから。

 日米欧の世界同時発売が実現しても、日本への出荷台数が足りず、転売ビジネスの餌食になって価格が高騰して混乱するぐらいであれば、我慢は仕方ないのかもしれません。

 とはいえ、こうしたビジネスの論理は、PS5を強く待ち望むコアユーザーには関係ありません。また、その意向を無視することは、SNS全盛の時代に有効とはいえません。だからPS5の各地域の発売時期を決定し、出荷数の割り当てを決めるのは、さぞ頭の痛いことでしょう。もちろんPS5の価格を高めに設定して、旺盛な需要を絞る手もありますが、下手をすると失速の原因にもなります。また、発売後に「売れないから」といって早々に値下げをすると、先行購入者が大きな不満を持つでしょう。

 PS4の日本発売延期は確かに後悔するべきことで、「誤り」だったかもしれません。ただし「誤り」の別の道が「正解」とも限らず、別の「誤り」になる可能性もあるわけです。

 要するにPS5の事前人気の裏返しでもありますが、PS5は世界同時発売をしても、日本の発売時期を遅らせても、一定の批判を浴びる……としか思えず、気の毒にも思えるのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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