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藤井聡太王将に挑戦するのは誰か? リーグ入りを目指す二次予選、斎藤慎太郎八段が藤本渚五段に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月15日。ALSOK杯第74期王将戦二次予選・斎藤慎太郎八段-藤本渚五段戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時、藤本五段先手で始まった対局は15時19分、107手で千日手が成立。

 指し直し局は15時49分、斎藤八段先手で始まり、19時4分、143手で斎藤八段の勝ちとなりました。

 斎藤八段は次戦、渡辺明九段と対戦します。

二次予選屈指の好カード

 藤井聡太王将への挑戦権を争う今期王将戦は現在、二次予選が進行中です。定員わずか7人のリーグに入るだけでも大変なのがこの棋戦。一次予選、二次予選を経て、新たにリーグに入れるのは、わずかに3人です。

 斎藤八段と藤本五段、どちらも藤井王将との七番勝負を見てみたいところです。しかしそのどちらかは、本局で敗退となります。

 昨年度A級(現在はB級1組)の斎藤八段はシードで二次予選からの登場。リーグ入りは過去に1度で、七番勝負登場の経験はまだありません。

 藤本五段は昨年度、60局戦って51勝9敗(勝率0.850)。大活躍の中で、王将戦は一次予選を突破しました。

 斎藤八段と藤本五段は5月14日、王位リーグ紅組最終戦で対戦。そのときは斎藤八段が勝って挑戦者決定戦に進んでいます。

 7月14日のNHK「将棋フォーカス」では藤本五段の特集が放映されました。

 藤本五段は2005年7月18日生まれ。ちょうどその日が「海の日」だったことにちなんで「渚」という名がつけられたそうです。

 本局は今年の「海の日」(7月15日)におこなわれました。

 振り駒で、先手は藤本五段。戦型は相掛かりとなりました。斎藤八段は慎重に駒組を進めたあと、機を見て仕掛け、戦いが始まりました。そして形勢不明の終盤。

1 斎藤:藤本陣に角を打ち込む

2 藤本:龍取りに角を打ち返す

3 斎藤:龍で角を取る

4 藤本:飛で角を取る

5 斎藤:龍が入って飛取り

6 藤本:飛を逃げる

 こうした6手1組の珍しい手順のループが生じ、千日手が成立しました。持ち時間3時間のうち、残りは藤本1時間12分、斎藤11分でした。

 斎藤八段は昨年度、1度も千日手がありませんでした。対して藤本五段は6回の千日手を経験しています。

斎藤八段、正確に終盤を乗り切る

 指し直し局は先後が変わって斎藤八段が先手。時間は両者に49分ずつを足して斎藤1時間0分、藤本2時間1分で始まりました。先手番を得た点は斎藤八段、残り時間の多さでは藤本五段に分があります。

 後手の藤本五段は、得意の新型雁木の形に組みました。斎藤八段が角交換に持ち込んだあと、藤本五段は右玉に組んで、相手の動きを待ちます。

 再度の千日手の可能性もありそうなところで斎藤八段は果敢に仕掛けました。対して藤本五段も反撃に出て、本格的な戦いが始まります。

 90手目。藤本五段は斎藤陣に銀を打ち込みました。残り時間は斎藤8分、藤本1時間11分。形勢はほとんど互角ながら、時間では大差です。しかし時間が切迫する中、斎藤八段は正確に終盤を指し進めていきます。

 91手目。斎藤八段は5分考えて、初期位置に玉を引きます。相手の銀に近づいて怖いようですが、これが最善のしのぎ方。以下はきわどい一手争いの中、斎藤八段が次第に優位を築いていきました。

 非勢を悟った藤本五段はときおり、がっくりとうなだれる姿を見せます。それでも玉を中段へと逃がして、そう簡単に土俵を割りません。こうした粘り強い姿勢が逆転を呼ぶこともしばしばですが、本局の斎藤八段は、終始安定した指し回しを見せました。

 藤本五段は斎藤玉に詰めろをかけて、形を作ります。斎藤八段は一分将棋で秒読みの中、藤本玉の即詰みを読み切り、馬を切ってきれいに決めました。

 斎藤八段は難敵を降して二次予選2回戦に進出。リーグ入りまであと2勝としました。次戦の相手は元王将・渡辺九段です。

 渡辺-斎藤戦は5月30日におこなわれた王位戦挑戦者決定戦と同じカードです。斎藤八段にとっては、リベンジとなるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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