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JR北海道、「2030年札幌五輪招致断念」の影響は? 延びる新幹線の工期、かえって助かるかも

小林拓矢フリーライター
北海道新幹線札幌延伸に向けて札幌駅内では工事が進んでいる(写真:アフロ)

 2030年に、札幌市で冬季オリンピック・パラリンピック大会を招致するのを断念することになった。2021年の夏季東京大会での不祥事の問題などがあり、多くの人の理解が得られる状況にないことが理由として挙げられている。

 2034年以降に招致するために運動していくことが計画されているが、高額の費用負担などで札幌市や北海道の財政に大きな影響を与えないかということが懸念されており、オリンピック・パラリンピックの招致が今後できるかは、不透明な状況となっている。

 このことが、経営環境の厳しいJR北海道に与える影響はどんなものがあるのだろうか?

北海道新幹線、開業延期へ

 10月7日の『北海道新聞』によると、札幌市が冬季大会の招致時期を2034年以降に変更する方針を固めたことで、札幌延伸を急ぐ必要がなくなり、北海道新幹線の新函館北斗~札幌間の開業を延期しても問題がないと状況になったという。国土交通省や鉄道・運輸機構、JR北海道が調整に入る。

 もともと、北海道新幹線のこの区間は2030年度内、すなわち2031年の3月までに開業する予定だったが、冬季大会は2030年の冬に予定されていた。そのため、大会招致が成功した場合、北海道新幹線の工事を繰り上げる可能性もあった。だが、北海道新幹線の工事はただでさえ遅れており、工区によっては約4年の遅れもある。

 いっぽう、建設資材の高騰や、現場で働く人の人手不足も問題になっている。

 建築や土木関連の人手不足は全国で問題になっており、鉄道関連でもリニア中央新幹線の工事や、東京メトロの新線建設など大きなプロジェクトで人を必要としており、また各地でオフィスビルなどの計画が進む状況の中で、北海道新幹線の工事に人手を注ぎ込める状況ではない。

 北海道新幹線については、事業費の増額も札幌大会を前提に計画されていた。

 しかし、札幌大会という工期を前倒しにする前提がなくなり、そもそももともとの計画だった2030「年度」内でなくても問題はないということになり、開業を延期してもいいのでは、という状況になっている。

 もし2030年に札幌でオリンピック・パラリンピックをやっていたら、JR北海道はどうなっていたのだろうか?

2030年札幌大会招致を目指す札幌市
2030年札幌大会招致を目指す札幌市写真:森田直樹/アフロスポーツ

JR北海道の負担が大きい札幌大会

 オリンピック・パラリンピックが開かれると、鉄道事業者はとうぜん、それにつき合わされることになる。東京大会でJR東日本や東京メトロがスポンサーになったのも、東京大会で多くの人が利用する都心部の交通機関だからである。

 JR東日本や東京メトロは、駅のバリアフリー設備の対応や、駅施設など改良などの工事を行い、実際にそれは多くの人の役に立っている。

 これらの鉄道会社は東京大会で多くの人を輸送することができるから対応したというところもある。もっとも、東京大会がないと対応するのに時間がかかったとは思う。

 そのほかにも、大会関連でキャンペーンなどを行い、成功するために人々を盛り上げていくということもしていた。

 しかし、2020年の大会はコロナ禍で1年延期、2021年にもコロナ禍は終わらず、結局は無観客で行われることになった。多くの観客を輸送するという使命は、果たされることなく終わった。

 もし2030年に札幌でオリンピック・パラリンピックが行われたとしたら、当然ながらJR北海道はこれに付き合わなければならない。キャンペーンへの協力や、各種設備の改修も当然必要だ。一部に公費の負担もあるかもしれないが、それだけでは済まない。また、JR北海道が取り組む札幌駅周辺の再開発も大会に間に合わせなければならない。

 もちろん、札幌に多く集まる人たちを輸送するという使命も果たす必要がある。だが、以前のように余裕があるわけでもないJR北海道で、それは可能なのだろうか?

札幌大会招致延期による、JR北海道のメリット・デメリット

 実は、オリンピック・パラリンピックを2030年に札幌でやるのをあきらめたことで、JR北海道にはメリットもある。北海道新幹線の全線開業に向けた準備に時間がかけられるというのが、JR北海道にとっては大きい。建設主体は確かに鉄道・運輸機構であるものの、JR北海道も運行に向けた準備が必要だ。施設の整備や、乗務員の養成など、開業までにやらなければならないことは多くある。また、札幌駅周辺の開発事業も、資材高騰や人手不足に対応するために、より時間をかけることができる。

 キャンペーンなどに協力する費用や人員も、節約することができる。ただでさえ離職者が多いJR北海道に、札幌大会に協力できるだけの人員はいるのだろうか?

 札幌大会がやってくることで抱える困難を、先送りすることも可能なのだ。もし今後も札幌で冬季オリンピック・パラリンピックをやらないとなったら、JR北海道には余計な負荷がかからないことになる。

 いっぽう、デメリットもある。

 函館本線長万部~小樽間の「山線」と、新函館北斗~長万部間の旅客列車に影響を与える可能性が高い。

「山線」は新幹線開業に合わせて廃線すると、JR北海道と沿線自治体は合意している。しかし、新幹線開業がいつになるかわからない状態で、廃線の時期が明確にはならない。この間の鉄道維持コストの問題は当然発生する。また、新函館北斗~長万部間の旅客輸送についても同様だ。維持管理コストがそのぶん増えることになる。

「山線」には新型気動車のH100形が導入されている。北海道新幹線開業後に他線の車両をこれで置き換える可能性は高いが、その予定が遅れることになる。ほかにも、廃止もしくは区間短縮となる特急「北斗」車両の転用による他線の老朽化車両の置き換えが遅れることも懸念される。

H100形
H100形写真:イメージマート

 要するに、北海道新幹線2030年度開業が遅れることになれば、JR北海道内で検討しているもろもろのことを先送りしなければならなくなる。

 ただ、札幌大会招致断念で得られる余裕でこのあたりをフォローできれば、JR北海道にとってはある程度は対策を立てられることは考えられる。

 厳しい北海道経済の中で、札幌でのオリンピック・パラリンピックを支えるのは難しいのではないか? その中でも厳しいJR北海道にとって、札幌大会は重荷になる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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